「遺産分割のやり方が遺言書に書かれていれば、子どもたちは揉めない。だから生前にしっかり書いておきましょう」。相続の「教科書」には、そう記されています。でも、それが当てはまるのは、遺言書の中身が相続人たちの納得できるものだった場合だという事実も、心に刻んでおく必要がありそうです。税理士法人みらい経営の神緒美樹先生は、こんなお話をしてくださいました。
「遺言書があれば、相続は万全だ」は本当か?
2016/12/2
◆「遺言書があったから揉める」こともある
「相続で揉めないために、遺言書を作りましょう」と言いますよね。誤解を恐れずに言えば、「それは嘘や」と私は思っているのです。親が亡くなってから、遺言書が出てきたばっかりに揉め事になったケースが、ゴマンとあるんですよ。
遺言書のどんなところが、争いのタネになるのでしょう?
開けてびっくりという話で、思ってもみない中身が書かれていた相続人が、深く傷つくわけです。親の考えた相続財産が、他の兄弟たちより明らかに少なく見えたり、妻ともども親と同居して最後まで面倒をみたつもりなのに、そのことがまったく考慮されていなかったり……。そのショックが、死んだ親への恨み節になり、やがて他の相続人に対する憎しみに変わる。多くはそんなパターンです。
遺言書がなければ、まっさらなところから話し合いを始められたのに、なまじ「親の意思」が透けて見えたことで、争いに火がついてしまったわけですね。
この、いったん傷ついた人をフォローして、遺産分割協議をつつがなくまとめるのが、どれほど大変か。「遺言書さえあれば丸く収まる」という甘い考えは捨ててほしいんですよ。とはいえ、前回も申し上げたように、こういう問題に直面してからが、相続に関わる税理士の腕の見せどころ。「被相続人の遺言書があるのだから、それに従いましょう」というような機械的な対応は、私はしません。
「遺言書は公開」が原則
「傷ついた相続人」を、どのようにフォローなさるのですか?
よほどの親不孝者でない限り、親はいつまでたっても子どもがかわいいのです。ですから、例えば「次男の取り分は少なくしよう」という明確な意図があったというよりも、遺言書が「舌足らず」な結果、そんな印象を与えてしまっていることが多いわけですね。私は、そういう話を率直にします。「お父さんは、決してあなたを軽んじたわけではないと思いますよ」と。「今までにも、こんな例がありました」と他の相続の話をすると、「自分だけではないんだ」と落ち着きを取り戻してくれることが、よくあります。 面白いことに、私が1人の相続人にそんな話をしていると、他の兄弟も「感じて」くれるんですね。「そうだよ、お父さんがお前を嫌いだったはずがない」「遺産分割の中身を考え直してみようか」という方向に、話が転がっていったりするのです。
遺言書があっても、相続人全員の合意があれば、それとは違う遺産分割をすることもできますからね。でも、「みんなが納得できる遺言書」のあることが、やっぱり理想だと思うんですよ。どうしたらいいのでしょう?
突然、予想外のものを見せられるから問題が起こるわけですよ。遺言書は、生前に相続人全員に「公開」しておくのが鉄則。異論があれば、そこで話し合い、「誤解」があれば解いておくのです。私のお客さんには、遺言書を残す場合には、全員そうしてもらっています。事務所の金庫には、そんな遺言書が何通も眠っているんですよ。
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