スムーズな事業承継のために、
遺言書に明記すべき2つのこと
スムーズな事業承継のために、  遺言書に明記すべき2つのこと

2015/11/11

 
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経営者にとっては、事業をどうやってスムーズに子どもなどの後継者に引き継ぐのかも、相続の重要課題。それに失敗すれば、せっかく汗水流して大きくしてきた会社の経営が、一気に傾いてしまう、なんていうことも起こりえるのです。古川会計事務所の古川勉先生は、「事業承継に当たっては、相続税の節税の前に考えるべきことがある」と指摘します。

◆先妻の子vs後妻の子のバトル

経営者向けの相続のノウハウ本などを見ると、「こうすれば相続税を少なくできて、事業承継もバッチリ」といったアドバイスをよく目にします。もちろん、節税できれば、それに越したことはないでしょう。ただし、こと事業承継に関しては、まずは「後継者が、問題なく事業を継げること」を第一に考えて欲しい。税理士がこんなことを言うのもなんですが、しいて言えば、相続税対策は「二の次」くらいの感覚でいいと思うんですよ。
 
では、後継者対策をおろそかにすると、どうなるか? こんな例を紹介しておきましょう。戦後、製造業を起こして、売り上げ数十億円規模に成長させた私の顧客が亡くなり、相続になりました。亡くなった時には会長になっていましたが、いぜんとして会社の株を4割以上保有。社長には長男が就いていて、会長亡き後は、当然、この方が名実ともに会社のトップになる予定でした。ところが、揉め事になってしまったんですね。事業承継のポイントは、経営権を担保する「自社株」と、会社の土地や建物、設備などの「事業資産」を、新たな経営者が確実に受け継ぐことです。ところが、この相続では、それがうまくできなかった。実は、この家は家族関係がちょっと複雑で、会長には亡くなった先妻との間に子どもが4人、後妻の子も2人いました。社長になっていたのは、先妻の子どもだったのですが、相続になるや、この“先妻側”と“後妻側”で、争いが起こったのです。
 
そんなことになった原因は、ズバリ事業承継の対策を怠ったから。具体的に言えば、遺言書を残すなどして、株と事業資産を後継者である長男にちゃんと渡す必要があったのに、それをやらなかったのです。会長には、生前、そうした手立ての必要性を折に触れて申し上げてきたのですが、「分かった、分かった」と先延ばしにしているうちに、結局遺言も残さずに急に亡くなってしまいました。その結果、4割超の会長所有の自社株も、事業資産も、後妻と6人の子どもで、法定相続分(*)に従って分けられる状況が生まれました。

必要な遺言書がなかったばかりに

株について言えば、定款や組織の変更などの重要事項を株主総会で決議できる割合が3分の2以上ですから、経営者はそれだけ保有しているのが理想。持分が50%を下回ったりすれば、他の株主によって解任させられるリスクさえ、生じます。そんな状態では、安定的な経営など望むべくもないでしょう。
 
それを見越した後妻側の主張は、「しかるべき金額で、自分たちの持っている株を買ってほしい」というもの。さきほど述べたように、会社の事業用地なども、新しい経営者がまとめて相続するためには、遺産分割協議での、相続人全員の同意が必要な状況になっていました。「判子を押す代わりに、株を引き取ってもらいたい」というわけです。すったもんだの末、「経営を安定させるためにはやむなし」と、ご長男は銀行から億円単位の借金をし、株をすべて買い取ることで決着しました。こうして、経営は辛うじて守られたものの、ご長男としても、思わぬリスタートとなってしまいました。ちなみに、現在はさらに代替わりして、その方の子どもが事業を継いでいるのですが、いまだにその時の借金返済を余儀なくされています。
 
このように、事業承継のミスは尾を引くのです。 再度強調しておけば、確実な事業承継には、「自分の持つ自社株と事業資産の二つは、事業の継承者に譲る」という内容の遺言書が必須です。まず、そのことを考えて欲しいですね。あとの税金のことだとかは、我々プロに任せてくれればいいのです。

*法定相続分
民法で定められた、相続人の財産の取り分。このケースでは、配偶者(後妻)が2分の1、残り2分の1を6人の子どもで按分する。

◆事業承継であってはならない、被相続人の「油断」

相続になったとたんに……

前段で、事業承継に絡む、被相続人の“先妻の子どもたち”と“後妻の子どもたち”の争いを紹介しました。経営者の父親が、事業を継がせるつもりの長男(先妻の子)に、「自社株」と会社の建物などの「事業資産」をしっかり相続させる旨の遺言書を残さずに亡くなったために、それらが子どもたちの手元に「分散」し、結局、長男が後妻側からの株の買い取り要求などに応じざるを得なくなった、というお話でした。
 
ただ、この先妻、後妻の子どもたちは、必ずしも初めから、父のつくった会社を危機にさらして争うほど、仲が悪かったわけではありませんでした。実は、後妻の長男も工場長として会社に入っていて、表面上は力を合わせて頑張っていこう、という雰囲気ではあったのです。 恐らく、前々からちょっとしたわだかまりのようなものは、抱えていたのでしょう。それが、いざ相続となったとたんに表に出て、先妻と後妻の子ども同士が自然に結束し、だんだん揉め事が大きくなっていった、というのが実際のところ。そういう状況を作ってしまったのが、遺言書を残さずに逝った父親だったわけですね。

税務署もびっくりの争い

実際、この家族の争いは、言葉は悪いですけれど、ちょっと「えげつない」くらいエスカレートしました。例えば、後妻の次男のところには、40代で定職を持たない子どもが一人いました。後継者の長男に対しては、「彼を入社させてもらいたい」という要求もあったんですよ。さすがに、それは突っぱねられましたけど。
 
先妻側も、黙ってはいない。この案件は、相続税の申告後に、税務調査(*)を受けることになったんですね。へたをすると追徴課税される可能性があるのだから、相続人にとっては、好ましい事態ではないはず。ところが、「後妻が親父の財産を隠しているのではないか」と疑心暗鬼になっていた先妻側の子どもたちは、税務署に対して「徹底的に調べて、不審な点があったら教えてほしい」と。納税者からそんな「お願い」をされることは、まずありませんから、税務署も面食らったことでしょう(笑)。 要するに、相続では、そこまで感情がもつれることがある、ということです。そういう経験を何度もしていますから、私は経営者であるお父さんの存命中に、遺言書の作成などを強く勧めました。ご自身は、事業を一代で築いた“カリスマ”で、外部の人間の言うことを「聞き流す」傾向もあるのかな、と感じたので、肉親であるご長男にも、「お父さんとしっかり話をしてください」とお願いしたのですが……。やはり、息子の話も、真正面から受け取ってはもらえなかったようです。
 
たぶんご本人は、「俺がここまで会社を大きくした。子孫に財産も残した。あとは子どもたちがうまくやるだろう」というくらいの、“大らかな”気持ちでいたんだと思います。「先妻・後妻のわだかまり問題」も、後妻の子を入社させることで手を打った、という気持ちだったのかもしれません。だから、「あとはよきにはからえ」と。ところが、子どもたちの受け止めは、父親とは、ずいぶん違っていたわけですね。
 
これから相続を迎える方、特に事業承継が絡んでくる方は、被相続人と相続人の認識はしばしば大きく異なること、それによって引き起こされる争いの「怖さ」を、ぜひ認識して欲しいと思うのです。

*税務調査
税務署が、納税者の申告内容を帳簿などで確認し、 誤りがあれば是正を求める一連の調査のこと。すべての申告について行われるわけではない。

◆相続で揉めないために留意したい「公平感」

相続人の生活も、一様ではない

スムーズな事業承継のために、  遺言書に明記すべき2つのこと

よく、他山の石として、「揉めた相続」のお話をするのですが、逆に「揉めなかった相続」はどういうものだったのかを考えてみると、まず、被相続人、すなわち親の遺産の大半が現金で、しかもほんの僅かしかない場合ですね。これは、ほとんど揉めようがありません。お金を平等に分けて、おしまいです。また、「かなりの資産家」といった場合も、早くから相続対策をきちんとやるからなのか、意外に骨肉の争いにまで発展しないことが多いように感じます。一番「危険」なのは、言い方は変ですけど、中途半端に財産を残したケース。「大した遺産ではないから」と被相続人が何もしないまま亡くなったりすると、些細なことから遺産の奪い合いが始まり、収拾がつかなくなることもあるわけですね。
 
今のは、被相続人の経済状態ですが、一方、遺産をもらう側の生活実態も、遺産相続で「揉める・揉めない」の重要なファクターだ、というのが私の実感なんですよ。「金持ち喧嘩せず」とはよく言ったもので、裕福な暮らしをしている人は、親の遺産など当てにしないのが普通。自宅の車庫にベンツが鎮座しているような子どもばかりだったら、実際、争いにはなりにくいのです。 しかし、実際には、兄弟に「ベンツの兄」と「国産軽自動車の弟」が混在しているようなケースが珍しくないでしょう。その場合には、相続にもひと工夫必要だ、と感じるのです。

親として、やれることはやる

子どもたちの生活に、経済面で目に見えるデコボコがあった場合、親が「平等に」と同額ずつを相続させたとしたら、「国産車の弟」は、どう感じるでしょうか? そこに、「小さな頃、両親は兄貴をかわいがり、僕にはお下がりばかりだった」というような感情がかぶされば、「争続」の原因にならないとも限りません。
 
親として考えるべきは、「平等」は「公平」とは違う、ということだと思うのです。所得の少ない相続人に、比較的手厚い相続が行われたならば、彼は「やっぱり父は、自分のことも大事に考えてくれていたんだ」と感じるはず。他の兄弟も、そういう理由の「不平等」だったら、納得しやすいはず。
 
とはいえ、そこまでやったからといって、子どもたちすべてが納得の相続になる保証はありません。「もっとくれてもいいのに」「なんで、遊んでばかりのあいつが優遇されるのだ」と、争いのタネは尽きまじ……。 思うに、「とにかく、親としてできることはやる」姿勢が大事なのではないでしょうか。ここまでやったのに争いになってしまったら、もうそれは親の責任ではない――。最後は、そう割り切ればいいんですよ。そういう気持ちは、大なり小なり子どもたちに伝わるはずだ、と私は思いますよ。

*遺留分
民法に定められた、相続人が最低限相続できる財産。

◆相続に口を出す長女の夫に怒った父親の“ウルトラC”

「法定相続分は主張しろよ」

スムーズな事業承継のために、  遺言書に明記すべき2つのこと

相続をやっていて頭の痛いケースの一つが、「娘さんの夫」みたいな人が、「もっと遺産をもらえよ」と口を挟んでくるケースです。たいていは、相続人である自分の妻や夫を、裏で焚きつけることが多いんですけど、中には、相続人のような顔をして、堂々と遺産分割協議にでてくる人もいるんですよ。
 
でも、言うまでもなく、「相続人の配偶者」は相続人ではないんですね。少しでも「自分の家族」に有利に、と考えるのでしょうが、そういう人たちがしゃしゃり出てくれば、他の相続人は、当然「なんであいつが口出しするのだ」という目を向けます。はっきり言って、たいてい建設的な話し合いのじゃまになるだけです。
 
これは少し前の話になるのですが、私は、そういう「相続人の配偶者」の“横槍”が絡んだ、こんな事例を担当したことがあります。依頼主は、会社を経営する父親。妻が亡くなり、長女、長男との相続になりました。奥さんの相続ですから、遺産はそんなに多くない。とりあえず自分が多めに譲り受け、子どもたちへの本格的な遺産相続は、自分が死んだ時に、と考えていました。 ところが、その家族に割って入ったのが、長女の旦那さんでした。「どうして法定相続分を主張しないんだ」と、妻にプレッシャーをかけた。この場合、法定相続分は、被相続人の配偶者であるお父さんが2分の1、子ども二人は2分の1の半分ずつで4分の1になりますよね。「それだけはもらう権利があるのだから、主張すべきだ」というわけです。彼は、話し合いの場に現れたりはしませんでしたが、長女が「4分の1欲しい」と夫に「言わされて」いるのは、明白でした。

怒り心頭の父親が切った「養子」のカード

頭に来たのは、父親です。あの調子では、自分の相続でも娘が操られるのが目に見えている。あの婿にだけは、遺産を渡したくない――。そこで切ったのが、なんと「養子」というカードでした。養子縁組をすれば、法律上の血縁関係を結ぶことになります。相続においても、養子は実子とまったく同じ扱いを受けることができるんですね。
 
お父さんは、長男の妻とその二人の子どもつまり孫の、合わせて3人を養子にしました。この状態で、彼が亡くなり、相続が発生したら、どうなるか? 相続人は、実子である長女と長男、それに養子になった3人。今言ったように、相続における実子と養子の扱いは同等ですから、法定相続分は、一人5分の1ずつということになります。さらに、お父さんは、長女には遺留分(*)相当分しか譲らない、という内容の遺言書を作りました。長女の遺留分は、10分の1です。
 
あくまでも「仮に」のお話ですが、お母さんの相続で配偶者が横槍を入れなければ、長女は、父親の相続で法定相続分の2分の1をもらえたかもしれないんですね。それが、10分の1まで目減りしてしまったわけです。「欲張った」代償は大きかった、といわざるをえません。 まあ、ここまで徹底して「相続人の配偶者」対策を講じるというのは、希なケースでしょう。ただ、例えばあなたの妻のお父さんが亡くなった時、いたずらに相続に「介入」したりすれば、関係者からはこのような強い感情を向けられる公算大だということは、認識しておくべきだと思いますよ。繰り返しになりますが、「相続人の配偶者は、相続人ではない」のです。

*遺留分
民法に定められた、相続人が最低限相続できる財産。

◆税理士事務所には、「専門店」も「百貨店」もある

「専門家」にセールスする「専門家」

スムーズな事業承継のために、  遺言書に明記すべき2つのこと

相続税の申告を依頼するのなら、相続税に詳しい税理士さんに頼む。これが鉄則です。逆に言うと、「税理士の看板を掲げているのだから、みんな相続税のことを知り尽くしているのだろう」と考えるのは早計だ、ということなんですね。例えば、相続税に関する特例措置に疎い先生に頼んだばかりに、本来は減免される相続税を何千万も支払う羽目になった、などということもあり得ることを、まず知っておいてほしいのです。
 
相続税に関して言えば、「その道のプロ」を掲げる人はたくさんいます。余談ながら、私の母親が亡くなった時、「このたびは、ご愁傷さまでした。つきましては、相続税の申告は、当方にお任せください」とパンフレットやDVDをどっさり送ってきた事務所があったんですよ(笑)。たぶん、葬儀屋さんルートか何かで名簿が手に入るのでしょうね、相手が「相続にも詳しい税理士」だとは知らず、DMを送ったというわけです。 その「先生」からは、相続税の申告前に2度「案内」をもらいましたが、驚いたのは、申告期限が過ぎた後、今度は更正の請求に関する資料が届いたことです。「更正の請求」とは、税金を納めすぎた時に、その還付を求める請求のこと。ここまでやるのか、と「感服」せざるをえませんでしたね。まあ、「セールス力に優れているから、申告も完璧だ」と言い切れるかどうかは分からないのですけど……。

総合力で勝負する事務所もある

一方で、税目に関わらず、いろんな税務申告を得意とする事務所もあります。当事務所(古川公認会計士事務所)もそのタイプで、相続税はもとより、法人税関連、国際税務などを幅広くカバーしています。
 
ちょっと宣伝ぽくなって恐縮ですが、当事務所には、公認会計士、税理士だけでなく、弁護士も在籍します。相続に関して言えば、遺産分割の具体的な中身などをアドバイスできるのは、実は弁護士だけなんですね。税理士がそこに踏み込むと、「非弁行為」(*)とみなされることもあるのです。当事務所では、そうした問題を気にすることなく、依頼者の要望にワンストップで応えることができます。こうした総合的な機能を持つところは、もちろん当事務所以外にも多くあります。さきほどの「相続に強い」事務所が「専門店」とすれば、「百貨店」と言えばいいでしょうか。
 
単純に、どちらが「いい・悪い」の話ではありません。例えば、相続財産にそんなに大きな不動産もなく、揉める可能性のない案件だったら、「あくまでもコスト優先」でいいはずです。反対に、いろいろ問題が起こりそうだったら、早めに総合的な機能を持って事務所に相談するのが、ベターかもしれません。大事なのは、依頼される方の置かれた状況、要望によって、それに見合う事務所を選択することなのです。

*非弁行為
「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない」(弁護士法72条)
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