今年1月から、相続税の基礎控除額(税を払うか、払わないでいいかのボーダーライン)が引き下げられ、課税対象者が大幅に増加しています。わが家の相続も気になるところですが、逆に雑誌などで、「税務署のマンパワーでは、『増加分』まで手が回らない。よほどのお金持ちでなければ、申告しなくても大丈夫」といった“指南”を行う人もいます。実際のところはどうなのでしょう? 税理士の平井良先生に聞きました。
「税務署は多忙。
少額の相続税は申告しなくても大丈夫」は本当か?
2015/2/20
◆「前例のないこと」が始まった
2015年1月から、相続税の基礎控除額が4割引き下げられ、課税対象者は計算上、以前の1・5倍に増える、などと報じられています。「1・5倍」と聞くと大したことないようにも感じますが、これは全国平均のお話。例えば、地価の高い東京都内で、小さいながらも戸建ての自宅を持っていたら、かなり気を付けた方がいい、というのが実情です。これまでは富裕層限定のものだった相続税が、サラリーマン世帯にも波及――。今回の税制改正は、決してマイナーチェンジではありません。
それだけに、納める方だけでなく、取る方も、「前例のない」事態に直面することになります。現状で、税務職員の方などに話を聞いた印象から私なりに推測すると、税務署は少なくとも今年1年は「様子見」ではないでしょうか。ただし、「様子見」=「何もしない」ということではありませんから、ご注意ください。
限られたマンパワーの中で、課税対象者が増えるということは、それだけ税務署は忙しくなるということ。中にはそれを逆手にとって、「しばらくは、税務署はやってこない」と、あたかも脱税を勧めるかのようなことを公言する人もいますけど、税理士としての率直な感想を言わせてもらえば、ずいぶんチャレンジングだなあ、と思いますね(笑)。
当局は、恐らく法改正後の申告を分析し、その特徴などをデータベース化しつつ、徴税の方針を固める作業を急ぐでしょう(私が「様子見」と言ったのは、そういう意味です)。「様子見」期間が終わり、「さあ本格的に徴収させていただきますよ」という時になって、高をくくっていた人たちが「犠牲」にならない保証は、どこにもありません。
不動産などのデータは、官庁間で共有されている
そもそも、資産を隠そうと思っても、なかなか難しい。例えば、相続に伴って土地の名義を父親から息子に変えたとします。その際、法務局で登記をしますよね。どういう仕組みになっているのか、いつどういうタイミングで渡されるのか、細部は知りませんが、そのデータが法務省から財務省に流れているのです。そして、名義変更から数ヵ月後、必ず税務署の資産税課から「この名義変更は何ですか?」「相続がありましたか?」と“お尋ね”が来ます。 相続税が未申告だと、どうなるか? 税務署は不動産の路線価のデータを持っていますから、それを基にその評価額を計算します。同時に、相続人の数を調べ(法定相続人の人数で、基礎控除額は変わってきます)、これは行けそうだ(税が取れそうだ)、となったら、“お尋ね”を税務調査に切り替えて、徹底的に調べ上げるのです。
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内と定められています。これを過ぎてしまうと、「配偶者控除」、「小規模宅地の特例」(相続人が親と同居しているなどの要件を満たした時に、不動産の相続税上の評価額を削減できる特例)の活用といった「節税策」は、使えません。加えて、「申告漏れ」のペナルティを課される危険性も、当然のごとく発生します。結果的に、高額の税金を納めることになる可能性、なきにしもあらず。「チャレンジ精神」は、すべきところで発揮したほうがいいと思いますよ。
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