元国税専門官。
資産税に特化して30年のプロが見た相続

元国税専門官。  資産税に特化して30年のプロが見た相続

2017/11/21

 
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「相続は、被相続人が亡くなって始まるものではありません」「いろんな思いはあっても、最後は『そこにあるお金』で折り合いをつけるしかないのです」――。資産税、相続税専門の事務所、税理士法人エーティーオー財産相談室の阿藤芳明先生は、長年の経験を基にそう語ります。今回は、そんな相続のプロに、いくつかの事例も含めてお話しいただきました。

◆みんなが満足。そんな相続はありません。

揉める・揉めない――。カギを握る人物は?

先生は、税務署で税務調査に携わっていらっしゃったとか。
はい。個人の所得税や法人税の調査を十数年やりました。その後、外資系事務所などの勤務を経て、資産税、相続税に特化した事務所を設立……というと聞こえはいいのですが、はじめは顧客がまったくいなかったので、銀行への飛び込み営業や、自分が家を買った不動産屋さんにまで売り込みをかけるようなところからスタートして現在に至る、という異色の経歴の持ち主です(笑)。独立してからは、25年ほどになります。
それほどのキャリアをお持ちならば、いろんな「争続」も経験なさったのではないでしょうか。
そうですね。当事務所は、遺された資産が数億円から数百億円レベルまで、いわゆる富裕層と呼ばれる人たちの相続がメインですが、遺産の額の多い少ないに関わりなく、争いは起きる時には起きるんですね。
 
もちろん、それを防ぐために我々は全力を尽くします。でも、こう言ってしまうと身も蓋もないのですが、相続で揉めるか揉めないかは、基本的に相続人次第です。気心が知れているはずの兄弟同士の遺産分割であっても、お互いが子どもの頃の話を持ち出したりしてやり合うような感じだと、話し合いの収集がつかなくなって、“お手上げ”になる場合もあります。逆に相続人が「前妻の子と後妻」というような、実際トラブルが起きやすいケースでも、相続人に理解があれば、すんなりまとまることもあるんですよ。
 
私の経験した相続に、こんな事例がありました。連れ子のいる女性と再婚した男性が亡くなり、相続になりました。後妻との間に自分の子はいませんでしたが、前妻との間には2人いた。この場合、相続人は、「前妻との間の子どもたちと後妻」の3人になります。
後妻の連れ子は、養子でない限り相続人ではありませんね。
はい。ただ、家にはその連れ子も含めて3人で暮らしていました。で、資産としてはその他に、自分で経営していたアパートと、若干の現金という状況だったんですよ。

私は、後妻の方から依頼を受けたのですが、彼女がとても冷静で、「欲深」なタイプでなかったことが、まずはこの相続の「勝因」だったんですね。「私は、アパートその他の財産はいりません。その代り、このまま子どもと家に住み続けさせてもらいたいのです」というのが希望でした。前妻の子どもたちにその意向を伝えると、問題なくOK。それだけではなく、現金についても分け合うことで、話し合いはまとまりました。

後妻の方は、財産よりも「実」を取ったのでしょうね。配偶者ですから、法定相続分は、遺産の2分の1あります。「他の不動産も、権利のある分はもらいたい」と主張していたら、状況は違っていたかもしれません。

初めから弁護士に頼むと、相続はこじれる

こういう家族関係は、決して珍しくありません。ただ、今のような「いい話」は例外と言っていいでしょう。よくあるのが、父親が後妻に「うちの子どもにも、よくしてあげて欲しい」と言われて、連れ子にけっこうな額の贈与を行っているケース。なんだかんだ言って、後妻さんは「大事な人」ですからね。成人してから、家を買ってあげたり結婚資金を出してあげたりするような場合もあるんですよ。
 
そういう事実を、前妻の子どもは相続になって初めて知るわけですね。そして怒り心頭に発する。「自分には、そんなことはしてくれなかったじゃないか」と。
そんなふうに、隠されていた事実が明らかになってしまうのも、相続の“怖さ”ですよね。
実態を知って“戦闘モード”になった前妻の子が往々にして選択するのが、「弁護士を立てる」というやり方です。遺産分割協議は代理人にお任せで、自分は顔を出さない。応戦する後妻の側も、ならばと弁護士に依頼することになるでしょう。そうなると、多くの場合、協議は泥沼化します。
 
ここでちょっと私たち税理士の「立ち位置」を確認しておくと、特定の個人だけの味方はしません。そんな事をしたら、まとまる話もまとまらなくなってしまうからです。できるのは、相続税の申告、節税のためのアドバイスを行って、円満な相続につなげるようにする事です。
弁護士は、もっと踏み込んで、分割協議に関わることもできます。
そういうこともあって、「とにかく弁護士に頼めば、自分に有利な相続になる」と考える人も多いのですけど、実際には、そうは問屋が卸しません。弁護士は、主張の異なる複数の人たちの弁護を引き受けるわけでは、ないですよね。あくまでも、「依頼者の代理人」なのです。相手にも、その「代理人」がいるということを考えてみてください。
 
依頼を引き受けた以上、クライアントの不利になる妥協はできません。あれこれ理論をかざして、主張をぶつけ合うことになるでしょう。その状態で、相続税の申告期限である相続開始、すなわち被相続人が亡くなってから10ヵ月以内に遺産分割協議がまとめられたら、奇跡ですよ。

話し合いがまとまらないと、どうなるか?

でも、遺産分割協議がまとまったか否かに関係なく、期限が来たらとりあえず税金を納めなくてはなりません。
そうです。申告期限までに遺産分割協議が決着しない状態を「未分割」と言うのですが、では未分割だとどんな不都合が発生するのか?
 
まず、相続税の額は、「民法に定められた法定相続分通りに分割した」という仮定に基づいて計算されるんですね。例えば相続人が、前妻の子2人と後妻だったとしたら、法定相続分は前妻の子どもがそれぞれ相続財産の4分の1ずつ、後妻が2分の1になります。それはまあ、いいとしましょう。この時問題になるのが、「相続財産」の金額なんですよ。
 
相続税の支払いには、「配偶者控除」が認められています。今のケースでは、後妻さんは、「総額1億6000万円か、法定相続分=相続財産の2分の1」のうちのどちらか多い金額まで、税の支払いを免除されるのです。ところが、未分割では、この控除は認められません。これは後の事例で説明したいと思いますが、相続税には、自宅の評価額を8割減額できる「小規模宅地等の特例」といった特例も設けられています。しかし、これらも一切使うことができないのです。
きちんと遺産分割協議がまとまった場合に比べて、個々の相続人が支払う相続税の額は、大幅に増えてしまう。
遺産の額にもよりますけど、そういう可能性が高くなるわけです。ちなみに、いったん未分割で納付した後に分割協議がまとまれば、税務署に対して「更正の請求」という手続きを行って、過払いの税金を取り戻すことはできます。でも、申告期限までにまとまらなかった話し合いが、その後サクサク進むでしょうか? 裁判所による調停や裁判に持ち込まれ、弁護士費用も嵩んだうえに結局「勝者なし」で終わるといった相続も、世間には少なくないのです。
 
誤解なきように申し上げておくと、私は「相続に弁護士は必要ない」などと言いたいのではありません。不幸にも協議が決裂して、相続人同士ではにっちもさっちもいかないような状況になったなら、代理人に頼むしかないでしょう。でも、「他の相続人が信用ならないから」と、初めから弁護士に依頼するのは考えもの。
自ら相続を難しいものにしてしまったら、元も子もないですよね。
あえて付け加えれば、弁護士さんは税のプロではありません。依頼者にとって、少なくとも経済的により有利になる方法を知っているのは、私たち税理士です。さらに相続となると、税理士でも得意・不得意が分かれます。
同じ専門家でも、「使い分け」が大事だということですね。
相続に詳しい税理士ならば、「税のアドバイス」は目一杯することができます。先程も言ったように弁護士のように、特定の個人の「味方」になることはできませんが、逆にすべての相続人に対して、「揉めない相続」のメリットをお話しし、そのことで遺産分割協議をスムーズに進めるお手伝いはできるんですよ。

「節税+平等な分割」の“合わせ技”もある

実際に揉め事を事前に防いだケースも、数多くあると思います。
そうですね、小規模宅地等の特例が関係した事例を紹介しましょう。高齢の女性が亡くなって相続になったんですね。旦那さんはすでに他界していて、相続人は息子3人です。遺産は、都内にある自宅と、あとは多少の現金でした。
なるほど、自宅の「奪い合い」になりやすいパターンです。
そう。実際、相続人たちは、どうしたものかと途方に暮れてしまった。そこでお話ししたのが、この特例のことなんですよ。これを使うと、被相続人が住んでいた土地や事業を営んでいた土地について、一定の要件を満たせば、評価額を最大8割減額してもらえるのです。この場合は自宅ですから、8割減が適用されます。「都内の家」ですから、その効果は絶大。さきほど話に出たように、適用を受ける・受けないでは、税金の支払い額に大きな差が出ることになります。ただし、今言った「一定の要件」というのがけっこう複雑で、税理士でも相続の知識、経験が豊富でないと、手に負えません。
 
このケースに即して、ごく簡略化して言うと、要件を満たすのは、まずお母さんと同居していた人。しかし、息子は3人とも実家からは出ていて、それには当てはまりません。次に可能性のあるのは、同居ではないけれど、自分や配偶者の「持ち家」に住んでいない人です。
要するに、実家からは出て独立したけれど、賃貸物件に住んでいる場合ですね。
そうです。そういう親族のことを「家なき子」と言うのですが、実は3人のうち三男だけが、その要件に当てはまったんですよ。ですから、彼が自宅を相続すれば、めでたく小規模宅地等の特例が受けられる。
 
ところが、他の2人にとっては、ぜんぜん「めでたく」ないわけですね。「あの家があいつ一人のものになってしまったら、俺たちの取り分はどうなるんだ」と。
確かに、納める税金が安くなっても、手にする遺産に開きがあったら、納得はしにくいかもしれません。
そこで提案したのが、「三男が、小規模宅地等の特例を受けていったん自宅を相続した後、それを売却して利益を3人で分ける」というスキームです。これならば、税額は下がるし、平等な遺産分割も可能にできるわけです。ただしこの場合、三男の方は、相続税の申告期限まで、自宅を所有する必要があります。申告期限前に売却することはできません。
そのやり方で、3人は十分納得されたのですか?
はい。「そんな手があったのか」と、とても喜んでくれました。

相続でも“無い袖は振れない”

今のようなケースでは、申告期限前に売買契約が交わせる場合もあれば、そうでないこともあります。後者の場合には、申告が済んでから正確な売買金額が決まることになりますので、そこでまたひと悶着起こる可能性もないとは言えません。まあ、事ほど左様に、「完全に平等な相続」というのは、困難と言うより「無理」なんですね。
だから、どうやって折り合いをつけるかが大事になります。
そうです。30年近く相続一筋にやってきた税理士として、断言しておきたいと思うのですが、「みんなが100%満足」なんていうこともありえない。どこかで妥協しないと、「円満な相続」にはならないんですよ。
 
妥協というより、「泣き寝入り」に近い状態になることもあります。最初のほうで、「後妻の連れ子に、亡き父親から多額のお金が渡っていたことを知った、先妻の子ども」の話をしました。先妻の子どもたちの、「そういう行動をした父親や、資産を“食い物”にした後妻は許せない」「私にお金を返してもらいたい」という感情は、よく理解できます。理解はできるのだけれど、「無い袖は振れない」のも事実なのです。
 
使ってしまったお金は、戻ってきません。理不尽だと思っても、基本的に目の前に残っているもので収めるしかない。それが「現実」なのです。贈与は、仮に意図的に申告していなかったとしても7年で時効ですし、「不公平な出費」を全部取り戻すことは、ほとんど不可能です。その現実をわかってもらうのには、骨が折れますね。
でもわかってもらわないと、話がこじれたまま、その人はますます理不尽な状況になってしまいかねない。
そういうことです。税金の話をメインにしつつ、何とか割り切ってもらうのも我々の重要な仕事なのですが、現実には一筋縄ではいかないケースも、少なくありません。

◆だから「生前の準備」が大切なのです

相続争いを避けるには、まず遺言書

これもほとんどの人が誤解しているのですけれど、相続をめぐる問題は、被相続人が亡くなって初めて発生するわけではないんですね。相続人それぞれのそれまでの人生が、全部そこに溢れ出てくるから、揉め事になったりするのです。
例えば、どういうことが起こるのでしょう?
「兄貴は、子どもの頃から親に贔屓されてただろう」「何を言っているんだ。お前だって留学の学費を出してもらったじゃないか」といった、赤の他人からすると「今さら何を……」と絶句するようなやりとりが、遺産分割協議の場で堂々とされたりする。まさかと思うかもしれませんが、このパターンは非常に多いんですよ。
 
やっかいなのは、この手のお話は、他人があれこれ言いにくいことです。「積年の感情」のぶつかり合いですから、それ自体を変えろといっても難しい。ですから、お話ししてきたように、「このまま揉めたままだとどうなるか」「折り合いがつけば、こんなにメリットがありますよ」という、「これから先」のリアルなストーリーを語って、納得してもらう必要があるわけです。
 
同時に、争いを起こさないために、ある意味もっと重要なのが、来るべき相続を見据えた「事前の準備」です。当然のことながら、こちらは被相続人になる人が中心になって、進めなければなりません。
具体的には、何から始める必要がありますか?
会社を経営しているとか、相当な不動産を持っているだとかの資産状況や、家族構成などによって、やるべきことは違ってくるのですが、ここではすべての相続に共通する、遺言書について、ひと言述べておきましょう。
 
あらためて申し上げると、「被相続人の遺志」をしたためた遺言書は、揉めない相続のために必須だと考えてください。裏を返せば、これがないために、「この土地は俺が貰う」「いや私だ」という争いが起きやすくなるのです。
遺言書は、やはり「公正証書遺言書」(※1)を勧めますか?
はい。「自筆」よりも安全、確実な「公正証書」がいいでしょう。ただ、当然のことながら、遺言書を残せばいいというものではありません。公正証書遺言書は、公証人が書いて保管してくれるわけですけど、公証人も税金が分かっているわけではありません。あらかじめ、相続税に詳しい専門家のアドバイスに基づいて、しっかり財産分与の仕方を決めた上で、依頼するのがベストです。
 
ここでも、弁護士に作成を依頼するのはNGです。繰り返しになりますが、彼らは相続税を知りません。大幅な節税を可能にする特例があるのに、知らずにそれが使えないような遺言書を残されたのでは、目も当てられないでしょう。機械的に「自宅は長男、マンションは次男」といった中身にしたら、それがトラブルの元になる可能性だってあります。
※1 公正証書遺言書
遺言書には、自分で書く「自筆証書遺言書」、公証役場に出かけていって公証人に作成してもらう「公正証書遺言書」、自分で作成した遺言書を公証人に持参し、その内容を秘密にしたまま、遺言書の存在だけを公証人に証明してもらう「秘密証書遺言書」などがある。

遺言書は「反古」にすることもできる

相続人を困らせる遺言書になってしまったら、問題ですよね。
ただしそういう場合には、遺言書を「なかったこと」にすることも可能なのです。相続人全員の合意があれば、遺産分割協議で、遺言書とは違う分け方を決めることができるんですよ。
 
こんな事例がありました。母親が亡くなり、発生した相続です。相続人は、長男と次男。お母さんにとっては、2人とも可愛い息子でした。普通なら問題が起こりそうなシチュエーションではないはずなのですけど、このお母さん、長男の嫁が気に食わなかったんですね。
嫁姑問題ですか。それも相続ではよく「登場」します。
それで、「全財産を次男に」という遺言書を作ったわけです。「嫁の側にはビタ一文渡したくない」と。「でも、ご長男には遺留分(※後述)がありますよ」という話もしたのですが、「それでも構わないから、この内容で書きたい」とお譲りになりませんでした。
 
で、相続になりました。私はいの一番に次男の方に、「遺産を全部あなたに渡すという、お母さんの遺言書があります」という話をしたのです。すると、「それでは、兄貴は納得しないだろう」という反応だったんですね。そこで、2人に話し合ってもらい、遺産をほぼ平等に分割することで決着させました。遺言書の内容を知ったご長男は、やはり平静な気持ちではいられなかったようでしたけど。
今のケースでは、次男の方が「できた人」だったのが、揉め事を招かなかった大きなポイントだと感じます。これもさきほど先生がおっしゃった、「相続は相続人次第」というのが、よくわかる事例ですよね。
まあ、「親の気持ち」もよくわかるのですが、やはり客観的に見て無理のある遺言書というのは、後々禍根を残す危険性もあるわけです。書くほうは、最低限そのことは肝に銘じてほしいと思うんですよ。

相続前に「遺留分の放棄」ができる

「事前の準備」に話を戻すと、相続対策としてはレアケースではありますけど、とても印象に残る事例があるんですよ。図を参照してください。

夫と妻、別れた妻との間の子どもaという家族がいました。妻は再婚で、別れた夫との間にすでに成人した子どもbとcがいます。この状態で、夫が亡くなった場合には、妻と別れた妻との間の子aが相続人になりますから、まあ「普通の相続」でしょう。問題は、妻が先に亡くなった場合です。

相続人は、夫と、別れた夫との間の子どもb、cの3人ということになりますね。
家族の心配は、家にあったんですよ。実は、同居する自宅の土地は夫が所有していたのですが、建物は夫と妻の2分の1ずつの共有だったのです。もし妻が亡くなったら、その持ち分は相続人に相続されることになります。夫からすると、遺産分割のやり方によっては、見ず知らずのb、cが自分たちの住む家の名義人として「入り込んで」くる可能性があるんですね。それは困る、と。
そうならないように、妻が遺言書を残したら……。
そこでネックになるのが、「遺留分」なのです。遺留分というのは、民法によって、兄弟を除く相続人に認められている「最低限相続できる財産」のことです。さっきの事例のように極端な遺言書があっても、相続人にはある程度の遺産を受け取る権利が認められているというわけです。
 
ちなみに具体的な遺留分は、誰が相続人なのかによって決められていて、「配偶者と子ども」の場合は、それぞれ法定相続分の2分の1ずつとなっているんですよ。このケースでは、子どもが2人いますから、1人当たりにすると8分の1ということになります。
なるほど。どんな遺言書を書いても、b、cが遺留分を主張してきたら、家族の懸念が現実のものになる可能性があるのですね。困りました。
そこで、bさん、cさんの意向も確かめて提案したのが、彼らに遺留分を放棄してもらうことでした。それならば、遺産分割は、「財産はすべて夫とaに」という妻の遺言書通りに、実行することができます。
「遺留分の放棄」ですか。仮に彼らにその意志があったとして、簡単にできるものなんですか?
いいえ。これを行うためには、裁判所の許可が必要なのですが、すんなり「はいどうぞ」というわけには、やっぱりいかないんですよ。父親と離婚していようが何だろうが、bとcには、子どもとして母の遺産を貰う権利があります。「法の番人」としては、その正当な権利を守る必要がある。彼らの発想としては、こうです。「わざわざ受け取れる財産をいらないという理由は何か? もしかしたら、脅されでもしているのではないか?」。
 
そういう疑念を取り払うためには、「そうではない」ことを証明しなくてはなりません。こうした場合、文書の提出を求められるのですが、そこに「母には子どもの頃から一生懸命育ててもらいました。もうこれ以上、欲しいものはありません」といった内容をしたためてもらったんですね。それでOKになったのです。
bさん、cさんも、とても「いい人」だったわけですね。
実際お母さんは看護師さんとして忙しく働いていて、2人ともそういう苦労を小さい頃から見ていたんですね。まあ、普段は難しい案件がほとんどなのに、今日は「美談」ばかり披露している気がします(笑)。
 
いずれにせよ、遺留分の放棄というウルトラCで、この家族の不安は一掃することができました。口幅ったい言い方ですけど、これも資産税を長くやってきたからこそ出せたアイデアだと思います。
相続前に、素人では到底思いつかないような「打つ手」のあることが、お話をうかがってよくわかりました。特に多くの資産をお持ちの方は、円満で安心な相続のために、早めに相続の専門家に相談なさってはいかがでしょうか。
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