経営者のみなさん、ご存知ですか?
「事業承継税制」の思わぬ“落とし穴”

経営者のみなさん、ご存知ですか?  「事業承継税制」の思わぬ“落とし穴”

2018/8/1

 
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営む事業を子どもなどに引き継ぎたい人にとって、自社株の譲渡は頭の痛い問題。その悩みに応えるべく、今年、「事業承継税制」の抜本改正が行われ、要件を満たせば、株の贈与税、相続税が100%猶予されることになりました。ほっと胸をなで下ろした方も少なくないと思いますが、ちょっと待ってください。これ幸いと自社株を渡した結果、後継者が悲惨な事態に見舞われるリスクを、あなたは認識していますか? 事業承継に特化する税理士法人アイユーコンサルティングの出川裕基先生は、「株価対策だけにとらわれず、相続を見越した対策が不可欠です」と強調します。

事業承継には“4つのキーワード”があります

財務を棄損する「株価対策」には、意味がない

今日は、多くの経営者が悩む事業承継についてお話をうかがいたいと思います。事業承継というと、税理士の先生がまず指摘するのは、「自社株を後継者にスムーズに渡せるかどうかがポイントです」ということですね。
株価が高いと、後継者が買うのは難しい。贈与にも相続にも、多額の税金がかかってくるといった、様々な問題が生じます。ですから、会社の状況に応じて「自社株対策」が必要になることは間違いありません。ただし、そこだけに目が行っていると、事業承継自体を失敗することもある、という話からしてみたいと思うんですよ。
株価対策で事業承継を失敗してしまう。どういうことでしょうか?
私は、事業承継には「会社の財務」「自社株」「後継者」「相続」という“4つのキーワード”があると思っています。これらを全部クリアできないと、本当の対策にはならないのです。
 3番目に挙げた「後継者」は、言わずもがなの問題ですが、子どもにせよ従業員の誰かにせよ、次期社長にふさわしい「人」が育っていなかったら、どんなにテクニックを駆使したくてもできないでしょう。無理に子どもに継がせたけれど、社長の器ではなく、会社が傾いてしまったというのでは、その事業承継は失敗です。
後継者としてふさわしい人間を選ぶ。そして、計画的に育成する必要があるということですね。
正直、後継者育成のノウハウは色々なパターンがあり、私たちの事務所でも全て蓄積されているわけではありません。ノウハウが必要な案件を担当する場合には、長くその会社の顧問をなさっていて、事情に通じている顧問の先生の協力も得ながら進めるような、工夫をするんですよ。
 「会社の財務」というキーワードですが、これには2つの意味があります。
1つ目は?
後継者対策の話をしましたけど、逆に社長の資質も能力もある息子がいたとしても、会社の財務状況が思わしくなく、大借金を抱えていたりしたら、継ごうという気にならないかもしれません。そんな場合は、まずは継ぐに値する会社に、バリューアップを図る必要があるわけです。
 もう1つは、「自社株」に関わってくるのですが、今の例とは逆に、財務体質のいい会社は株価も高く評価されます。そこで、例えば「不動産を買いましょう」といった指南が行われるんですね。
賃貸物件を購入して、会社の純資産を減らす。そうすれば、株価を引き下げることができます。
確かにそうなのですが、それが財務を大きく棄損させてしまうことが、少なくないのです。株価の引き下げには、より高額の不動産を買ったほうが効果的です。そうやって、銀行から融資を受けて買ったのはいいけれど、予定通りに借り手が現れる保証はありません。
 その結果、返済資金に詰まって、3年ぐらいでギブアップしてしまう会社が、けっこうあるんですよ。結果的に、他の会社に吸収合併されてしまう可能性もあります。
それでは、なんのための事業承継対策か、わかりません。
その通り。目先の株価に目を奪われた結果、肝心の財務を棄損する怖さを忘れないで欲しいのです。

「事業承継税制」で、すべてはOKか?

ただ、今お話しの「自社株」に関しては、今年、「事業承継税制」が改正されて、実質的に贈与税、相続税ゼロで渡せるようになりましたよね。もちろん、すべての会社が使えるわけではないのですが、事業承継自体のハードルは、かなり下がったと言われています。
その「風潮」にも、あえて警告を発しておきたいのです。
どういうことでしょうか?
繰り返しになりますが、会社の財務にダメージを与えるような「株価対策」はナンセンスです。ただし、だからといって、できること、やるべきことをやらずに後継者に渡すのは、別のリスクにつながる可能性があるんですね。「税金がなくなった」=「自社株対策の必要がなくなった」ではない、ということを強調しておきたいのです。そこで問題になってくるのが、4つ目のキーワード=「相続」なんですよ。
具体的に説明をお願いします。
まず、事業承継税制について、簡単に述べておきます。最初に制度ができたのは2009年で、今度の改正までは、「後継者が先代経営者から自社株を受け取る場合、株式数の3分の2まで、贈与は100%、相続は80%の納税が猶予される」という仕組みでした。
 制度がなかった時代に比べれば、事業を継がせたい・継ぎたい人にとって、大変ありがたい環境が整備されたわけですね。しかし、利用者はあまり伸びませんでした。「相続から5年平均で、雇用の8割以上を維持する」という要件がネックになったのです。
もし維持できなかったら、猶予されていた税金を全額納付しなければなりませんでした。
それで二の足を踏むケースが多かったんですね。そこで今年、その要件を実質的に撤廃する改正が行われました。納税が猶予される株式数の上限もなくし、相続についても100%猶予が認められることになりました。要するに、「中小企業者であること」といった一定の要件を満たせば、「事業承継時の贈与税、相続税の負担ゼロ」という制度を活用することが可能になったわけです。
まさに抜本改正と言っていい中身だと思うのですが、先生は手放しで喜んでいてはいけない、と……。
もちろん、今回の改正自体は、前向きに評価できるものです。ただし、これも税金だけに目が行って「よかった、よかった」と安心していると、思わぬ“落とし穴”にはまる可能性があります。新しい制度は、事業承継の難問をすべて解決するオールマイティのカードではないんですよ。
確かに、ちょっとしたブームになりそうな雰囲気も漂っていますよね。

税金はゼロでも、残る問題がある

話を本題の「相続」に進めると、結論を言えば、具体的に問題になるのは、後継者以外の相続人の「遺留分」です。そこまできちんと織り込んでいますか、と問いたいのですよ。
 民法は、一定の相続人が最低限相続できる財産として、遺留分を定めています。例えば、妻と子ども1人がいる被相続人が、「全財産を愛人に譲る」という遺言書を残して亡くなった場合、妻子はビタ一文もらえないかというと、そんなことはないんですね。それぞれ、財産×法定相続分(※1)[2分の1]×遺留分[2分の1]=4分の1を受け取る権利が認められているのです。
 ところで、新しい事業承継税制を使って、長男に自社株をすべて無税で渡すことができたとしましょう。その贈与は、相続の時にどう扱われますか?
基本的に、そのぶんも相続財産に戻されて、各相続人の取り分がカウントされることになりますね。遺留分の計算も、それがベースになります。
広い意味での「自社株対策」を怠っていると、そこで時限爆弾が破裂する危険性があるんですよ。相続財産は、相続時の時価で評価されます。息子さんに贈与した時に3000万円だった株価が、業績が伸びた結果、相続時には3億円にハネ上がっているかもしれません。わざわざ事業承継税制を使おう、すなわち株価対策を意識せざるをえないという会社なのですから、そういう問題をかなりはらんでいるのではないでしょうか。
そうすると、お父さんが後継者以外の子どもに多少の現金を渡すような遺言書を書いていたとしても、遺留分がそれを大きく上回るかもしれません。
もし、彼らに遺留分減殺請求(※2)をされたら、長男はいきなり数千万円単位の資金を用意する必要に迫られるかもしれません。どこから捻出するかといえば、基本的に会社ということになるでしょうから、そのことが経営の圧迫要因になりかねないのです。
なるほど。税金はゼロになっても、「株価」が消えるわけではないんですね。どうしたらいいのでしょう?
事業承継税制という切り口でお話しすれば、それはあくまで事業承継の「道具」なんですね。まずは、積極的にそれを使うべき会社と、安易に頼ると危ない会社があるという「入り口」を意識すべきだと思うのです。前者は、後継者が一人っ子だとか、兄弟はいても絶対に揉めない、遺留分の請求などは行われない、という確証があるケースになるでしょう。
仲の良い兄弟が、相続になったとたんに争うという話も、よく聞きます。
そうですね。10年後、次男はリストラされて、家族のために喉から手が出るほどお金が欲しい状況に置かれているかもしれません。
 ですから、やはり地道な準備が欠かせないのです。「新たな事業承継税制では、納税猶予になる株式数の上限がなくなった」と言いましたけれど、それは「全部の株式にこの制度を使え」ということではありません。例えば、株式の半分は事業承継税制で渡して、残りは無理のない範囲で株価を下げ、後継者に買い取らせるといった方法もあると思います。
そうすれば、相続財産をいたずらに膨らませずに済むし、他の兄弟に渡す財産の原資にもなりますよね。
やはり大事なのは、後継者以外の相続人に納得してもらうことです。そのためには、遺留分相当額の現金を用意しておくのがベスト。それでも、自社株を手にする後継者に多くの財産が渡ることになりますから、その内容をしたためた遺言書も不可欠です。
 ただ、これは後でも触れますが、親子でよく話し合いをしておくことが、最も重要です。1人の子どもに経営を託す気持ちとか、株を渡す意味だとかを、しっかり話しておくことは、後々の揉め事を防ぐうえで、大きな意味があるんですよ。
※1 法定相続分
民法上、被相続人の遺言書がない場合に、相続人に認められた取り分。
 
※2 遺留分減殺請求
自らの遺留分を侵害している相続人(このケースでは会社の後継者である兄弟)に対して、侵害分を請求すること。

放っておくと怖い「少数株主」

事業承継時の「自社株」について、最近気になっていることを補足しておきましょう。株式の10%以下しか所有していないような「少数株主」の問題です。株式の3分の2を持てば、会社の定款変更や、組織再編・解散といった特別決議を可決できますから、とりあえず後継者にそれだけ移しておけば大丈夫、というスタンスで承継を行う人も多いんですね。結果的に、他の親族などが少しずつ株を持つような状況を、そのままにする。
経営上は、特に問題は起こらないような気もしますけど……。
ところが、実はそれもリスキーな話なのです。最近耳にするのが、そういう少数株主から、株を買い取る会社の存在なんですよ。
非上場会社の、少数の株を買うのですか? 何の目的があるのでしょう?
世の中には、悪知恵の働く人間がいるのです。ある日、その会社から内容証明が届きます。「御社の株をこれだけ持っている。X社に売却したいのだが、おたくで買い取るつもりはありませんか?」と。そこでX社を調べてみると、どうも得体が知れないわけです。もしかすると、反社会的勢力とつながりがあるかもしれない。
 そんな会社に、たとえ数%でも自社株を持たれるわけにいきませんから、自分たちで買い取らざるをえなくなりますよね。当然、相手は吹っ掛けてくるでしょう。僅かな株式に、数千万円、数億円の値がつくかもしれません。
それは恐ろしい話です。
この場合、元々の少数株主は、その株の「価値」を知りません。非上場企業の株は、上場企業のように市場で取引されたりはしませんから、そもそも買い手がつくのは稀。「1000万円でどうですか?」ともちかけられたら、相手の意図に気づかず、これ幸いと売ってしまうケースは、十分考えられるでしょう。
どうせ会社の経営に影響を与えない株だし、と軽い気持ちで取引に応じてしまうかもしれませんね。
それが、少数株主の怖さです。事業承継というのは、分散している自社株を、新しい経営者に集約させる機会でもあるのです。多少のコストには目をつぶって、その作業を進めるべきだと私は思うんですよ。

経営者を育て、会社を成長させる発想が大事

「持株会社」をつくったけれど

先生が手掛けた事業承継の案件で、印象に残る事例を教えていただけませんか?
そうですね。これは、まだ承継が終わっていないのですが、私がタッチする以前に別のコンサルから「持株会社」の設立を提案され、その通りにしたらちょっと困った事態になってしまった、という会社があります。
持株会社をつくるというのも、自社株対策でよく使われる手法だと思うのですが。
そうです。でも、やはり「その会社に合ったやり方なのかどうか」は、しっかり見極める必要があるのです。
 ここでは、詳しくは述べませんが、元々あるA社の上に資産管理会社である持株会社B社を設立すると、社長はB社を通じてA社を間接保有する形になります。A社の業績が伸びて株価の含み益が生まれると、そこにかかる法人税分について、B社の株価を下げることができるんですね。
 加えて、B社が融資を受けて賃貸用不動産を購入して管理・運営すれば、B社の総資産に占める株式の比率が下がり、株価の評価において、さらに有利な状況を作り出すことができます。ですから、たいてい持株会社の設立→その会社が不動産を購入、というスキームで提案されるわけです。
今回の事例では、どこが「困って」しまったのでしょう?
社長には子どもが3人いました。事業は堅調で、それぞれに継がせるために、わざわざ3つの会社をつくったんですよ。
 さて、では承継の準備を始めようという段になって、コンサルに相談すると、「社長、株価対策です」「3社の上に、持株会社をつくりましょう」という話になり、言われるままに手続きを進め、「ホールディングス化」したわけですね。
 ところが、つくってからハタと気づいたのです。持株会社は1つしかありません。資産を「平等に」子どもたちに分けることが、できなくなってしまったんですよ。
それも、さきほどから先生がおっしゃっている、「株価ばかりに目が行っていたための失敗」ですね。
そもそも、株価や税の話に精通している社長は、少数派と言っていいでしょう。それだけに、専門家のほうはキメ細かなフォローが必要になるはずなのですが、そのコンサルも、持株会社をつくったところで、その会社から手を離してしまいました。「誰に譲るのかは、お客さまでお考え下さい」と言わんばかり。
やるべきことは、やりました。株価も下がったでしょう、と。その状態から、先生はどう手を打ったのですか?
まだ結論は出ていないのですが、誰かが持株会社を継ぐか、あるいはホールディングス化を解消して、1つ一つの会社の株価対策を考え直すか。大きく言えば、その2つから検討していくほかありません。
 あえて付け加えておくと、さきほど「事業承継税制を使うべき会社と、そうでない会社がある」と言いましたよね。持株会社をつくっていると、仮に「使うべき」条件が揃っていても、要件を充足しない限りその制度を使うことができないんですよ。
そうなんですか。
コンサルが入って、持株会社をつくらせて、さっきのように手を離す。離された先、会社を見るのは、事業承継に不案内な顧問税理士かもしれません。そうなると、いざ「自社株を贈与したい」、「相続になった」という時、初めて「うちはあの税制が使えないんですか!?」ということにもなりかねません。私の取り越し苦労ならば、いいのですが……。

まず経済合理性を貫く。そこに株価対策を「乗せる」

もう1つ、やはり会社の組織再編が絡んだ事業承継が、現在進行形の事例を紹介しておきましょう。グッドデザイン賞を受賞するような、けっこうパイオニア的なものづくりをしている企業で、自社製品を売るための販売会社も持っていました。
 ただ、実態的には、販売部隊の主力はメーカーのほうにいて、販売会社の機能は限定的。従業員数は、メーカーが100名超に対して販売会社は数名程度で、業績も前者は好調だけれど、後者は赤字経営という状況でした。60歳代半ばの社長は、長男への事業承継を考えていて、「そろそろ準備を始めたい」と、当社に依頼があったわけです。
 社長の頭の中には、事業承継に合わせた会社の将来ビジョンがありました。
どんなビジョンだったのでしょう?
ひとことで言えば、グローバルな販売力の強化です。すでに海外進出は果たしていましたが、これからは全世界を視野に入れた展開を図り、ブランド力も高めたい。新社長には、ぜひその“顔”になってもらいたい――という考えだったんですよ。とはいえ、「息子には、すぐにメーカーの社長を務めるだけの力は、今はない」という実情も、冷静にみていました。
 そうした社長の思いも踏まえて提案したのが、「長男を販売会社の社長にして、後にその会社をメーカーの親会社にする」というスキームだったんですよ。
そのメリットを解説してください。
後継の育成という観点からすると、ある段階で息子さんにいきなり両方の会社を譲るのではなく、まず小さなところで経営を勉強してもらうのです。販売会社には、段階的にメーカーから販売部隊を移します。そうした中で、求心力も高めていく。
そして、機が熟したところで、メーカーも任せるわけですね。それだと、従業員も安心できると思います。
一方、販売会社を親会社にするというのは、「販売力強化」「ブランド力アップ」という経営戦略に則ったもの。今は赤字かもしれないけれど、その機能を向上させてグローバル展開に結びつけていくというのは、経済合理性に適う話です。
 これは、副次的に株価にも影響を与えるんですね。
経済合理性の追求と、株価対策を両立させたわけですね。
株価が下がれば、自社株の移動を売買で行うことも可能でしょう。そうすれば、前に述べた相続時の遺留分の問題もなくなります。新社長には、「今からそのための原資を貯めましょう」という話をしているんですよ。
社長さんには、他に子どもがいるのですか?
2人います。遺留分の問題が起こらないとはいえ、相続で他の子どもを「冷遇」するわけにはいきません。社長には、退職金で彼らを受取人にする生命保険に入り、後継者以外に渡す現金も用意するようにアドバイスしました。
そこまでやれば、揉める危険性も低そうです。今のケースでも、「メーカーの株価」ばかりに気を取られていたら、そうした絵は描けなかったかもしれません。

生前のコミュニケーションが、やはりカギになる

さきほど、仲の良かった兄弟姉妹が、相続になったとたんに揉め始めるという話がありました。私も、そうした事例に何回か遭遇したことがあるんですよ。事業承継とは関係ないのですが、相続人の1人が他の相続人との話し合いを拒否したのみならず、私も連絡が取れなくなってしまったこともありました。
それは大変です。
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなってから10ヵ月と決まっていて、そこまでに遺産分割協議がまとまらなかったら、とりあえず未分割という形で仮申告して、話し合いを続けることになります。
法定相続分で分割し、相続税もいったん支払うわけですね。
その時点では配偶者特別控除などの特例が使えないなど、未分割の申告にはデメリットが多いわけですが、この方の場合は申告自体ができなくなってしまいました。他の相続人が、曲がりなりにも未分割で申告しているのに、一人だけ申告を「拒否」するとなると、税務署から目を付けられるのは間違いありません。でも、連絡がつかないのでは、我々もどうすることもできないのです。
そこまでこじれた原因は、何なのですか?
直接的には、長男が相続する土地の評価でした。「私なら、兄の言う倍の値段で売れる」と。ただ、よくよく聞いてみると、「子どもの頃から、兄ばかり優遇された」というような、「負の感情」が、相続で噴出しているんですね。そうなると、土地の鑑定書がいくつあっても納得できないんですよ。
気持ちはわかるのだけど、それでは自分がどんどん不利になってしまいます。
そういう話さえも通じないほどこじれてしまうのは、親子間のコミュニケーション不足に原因があると、私は感じるんですよ。生前、子どもたちに、土地を長男に譲る理由とか、どういう気持ちでみんなを育ててきたのかとかの話をしていれば、こじれないと思うのです。
親が亡くなってから、子ども同士がいきなり向き合うと、些細なことでトラブルになったりする。
そういうことです。相続の話は、親がイニシアチブを取ってやらないと。
 全くの余談ですけど、私は、介護施設に行ってお年寄りの話を聞く、「傾聴活動」のボランティアをやっているんですよ。おじいちゃん、おばあちゃんが、どういう時代を生きてきたのかに耳を傾けて、色紙に残してくるのです。たまに来た子どもや孫がそれを見て、会話が始まればいいな、と。
それは、特に相続とは関係なく?
はい。でも、みなさん、普段そういう話を子どもにしていないことが、よくわかりました。だから、いまひとつ親の気持ちが子に伝わっていないんですね。繰り返しになりますが、相続も同じで、親の考えていることが伝われば、憎しみあうほど揉めることはないはず。そのボランティアを通じて、私はますますそう確信するようになりました。
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