おひとりの事務所には頼めない。その理由
~本当は怖い「事業承継税制」・その2~

おひとりの事務所には頼めない。その理由  ~本当は怖い「事業承継税制」・その2~

2019/2/19

 
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事業承継の大きなネックだった、後継者への自社株の贈与・相続の問題を解決する「切り札」ともいわれる事業承継税制の特例措置ですが、自社株を受け取らない相続人のことを考えずに安易に適用すると、「争続」の発火点になりかねないというのが、前回のお話。では、藤本周二先生(エスペランサ税理士法人)が指摘する、「もう1つのリスク」とは、いったい何なのでしょうか?

納税は、いつまで「猶予」されるのか?

では、「2つ目のリスク」について説明してください。
事業承継税制を適用した相続が、無事に終わったとします。でも、「今度こそ安心だ」というわけにはいかないんですよ。この税制の適用によって得られるのが、相続税納税の「免除」ではなく、あくまでも「猶予」だからです。
なるほど。例えば何か問題が起きたら、適用が取り消されたりするリスクもあるということですね。
そういうことです。ところで、そもそも猶予期間はいつまでなのか? 答えは、基本的に次の事業承継まで。つまり、今回自社株を相続した人が、それを自分の子どもなどに渡すまで納税は猶予され、承継によって免除になるという仕組みなのです。その期間、おっしゃるように「取消事由」に抵触するような問題が生じると、猶予は取り消されてしまいます。
ということは、その時点で、相続税を払わなければならなくなるわけですね。
しかも、猶予してもらっていた期間の「利子税」という税金も別途発生し、これらを一括で納めなくてはなりません。そういうお金が不足しているからこの制度を使うのが普通ですから、そんなことになったら事業を引き継いだ後継者は、かなり厳しい状況に追い込まれるのではないでしょうか。
取消事由には、どんなものがあるのですか?
税の申告期限後5年間の要件として、「上場会社に該当しないこと」「後継者が会社の代表者でなくなったこと」などが、それ以降も継続する取消事由としては、「資産管理会社(※)に該当したこと」「事業年度の総収入額がゼロになったこと」「資本金・資本準備金を減少したこと」などが定められているんですよ。
 次の事業承継までとなると、けっこう長い時間になると思われますが、その間、例えば原則として資本構成を変えることができません。なんの気なしに、増資したりすると、アウトです。増資は登記事項ですから、「いや、間違いでした」というような言い訳もできません(笑)。
事業の手足が縛られる可能性もあるということですね。
※資産管理会社
有価証券、自ら使用していない不動産、現預金などの特定の資産の保有割合が総額の70%以上の会社(資産保有型会社)や、これらの特定の資産からの運用収入が総収入金額の75%以上の会社(資産運用型会社)をいう。

長期間のフォローが不可欠な制度である

さらに、制度の適用を続けるためには、5年間は毎年、それ以降も3年に1回、「継続届出書」に一定の書類を添付して、税務署に提出することが義務付けられています。5年間は、都道府県庁にも、認定時の要件を引き続き維持していることを示した「年次報告書」を、やはり毎年提出しなくてはなりません。これも、万が一怠ると、基本的に猶予は取り消しになってしまうんですよ。
 管理部門がしっかりしている大企業ならまだしも、日々の業務が忙しいのに、毎年きちんと書類が提出できるのか? 3年に1回はいいけれど、「あ、提出は去年だった」というようなことは、絶対に起こらないのか?
だんだん怖くなってきました(笑)。
ですから、この特例措置を使う場合には、長期間のフォロー体制が不可欠です。具体的には、事業承継税制に詳しくて、それなりの規模のある事務所にサポートしてもらう必要があるんですよ。
 逆に言えば、おひとりでやっている税理士事務所に頼めるような仕事ではありません。冗談抜きに、先生が依頼者よりも先に死んでしまうことだって、あるのですから。
納税猶予はありがたいけれど、その状態を維持していくのはことのほか大変だし、事業活動にとってデメリットが生じる可能性も、ないわけではない。特例の適用を受ける場合には、そういう「負の側面」も考えに入れて、検討する必要がありそうです。
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