令和8年度 雇用保険料率どう変わる?2026年4月からの変更点と給与計算の修正方法

雇用保険料率は毎年改定が行われており、令和8年度は2年連続で前年より引き下げとなることが告示されました。変更後の保険料率は2026年4月より適用されます。ただし、具体的な変更タイミングは企業により異なるため、自社の給与計算のタイミングやソフトウエアの設定などを確認することが必要です。
本記事では令和8年度の雇用保険料率について、改定の概要や雇用保険財政の仕組み、給与計算の実務における必要な対応や注意点などを紹介します。
1. 令和8年度の雇用保険料率引き下げとは?改定の概要
労働者が給与から天引きされる雇用保険料の額は、雇用保険料率によって決められています。料率は毎年改定されており、令和8年度は前年度より引き下げられました。ここでは今回実施された雇用保険料率引き下げについて概要や経緯などを解説します。
全体で0.1%引き下げ 令和7年度の1.45%から1.35%(一般の事業)へ
令和8年度から雇用保険料は前年度から0.1%引き下げられることが決定しました。一般の事業では令和7年度の1.45%から1.35%へ変更されます。雇用保険料は雇用主と従業員が一定割合ずつ負担しているため、今回の変更により双方にとって0.05%ずつ負担が軽減されます。
引き下げは2年連続 コロナ禍の急激な引き上げから続く財政回復の経緯
令和7年度に続き、雇用保険料率の引き下げは2年連続となります。雇用保険料率は令和5年・6年に過去最高の1.55%(一般事業)となりましたが、実は令和4年10月に大幅な引き上げが行われるまで1%前後の水準が続いていました。
そもそも令和4年10月に雇用保険料率の急激な引き上げが行われた背景には、コロナ禍を理由に雇用調整助成金の支給額が大きく増えたことがあります。しかし、コロナ禍が落ち着いたことで雇用保険財政は回復に向かっているため、保険料率の引き下げが行われている状況です。
令和8年3月12日に告示 正式な施行日と告示までの経緯
令和8年度の雇用保険料率は新年度が始まる直前の3月12日に告示されました。雇用保険料率については労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会の話し合いをもとに決定され、毎年2月から3月頃に告示されるのが通例です。雇用保険料率は新年度が始まる4月1日から適用されるため、労働者を雇用している事業者は対応を急ぐ必要があります。
2. 業種別の雇用保険料率一覧 令和7年度との比較
雇用保険料率は全業種で同一ではなく、一部の業種ではその他よりやや高い料率が設定されています。ここでは令和7年度と比較しながら、業種別の雇用保険料率や業種によって料率が異なる理由などを紹介します。
一般の事業 労働者負担0.50%・事業主負担0.85%・合計1.35%
雇用保険料は労働者と事業主が一定割合ずつ負担する仕組みです。令和8年度における一般の事業の保険料率1.35%のうち、賃金に対する双方の負担割合は労働者が0.50%、事業主が0.85%です。
なお令和7年度は労働者が0.55%、事業主が0.90%の合計1.45%でした。賃金総額が変わらない場合、雇用保険料率の引き下げは労働者にとって手取り額の増加、事業主にとっては法定福利費負担の軽減につながります。
農林水産・清酒製造業と建設業の料率 一般より高い理由とは
雇用保険料の主な用途の一つが失業した労働者への給付(いわゆる失業手当)です。そのため平均よりも失業リスクの高い3つの業種(農林水産・清酒製造業と建設業)は雇用保険料率が高めに設定されています。業種別の令和8年度の保険料率と一般より高い理由は以下の通りです。
・農林水産・清酒製造業|1.55%|季節による雇用変動が大きいため
・建設業|1.65%|現場ごとに短期の雇用契約を結ぶ労働者が多いため。また雇用保険料を財源とする助成金の支給割合が高いため
保険料率が最も高いのは建設業で、一般の業種より0.3%上乗せされています。なお、農林水産業の中でも酪農・養鶏・養豚・園芸サービスなど比較的雇用が安定している事業には一般の業種と同じ保険料率が適用されます。
料率を構成する3つの区分 失業等給付・育児休業給付・二事業とは
雇用保険は用途別に以下の3つの区分に分かれており、それぞれ料率や事業主と労働者の負担割合が異なります。
・失業等給付費等充当徴収保険率|求職者給付(いわゆる失業手当)、求職者支援事業などの財源
・育児休業給付費等充当徴収保険率|育児休業給付の財源
・雇用保険二事業費充当徴収保険率|雇用安定や労働者の能力開発を目的とする助成金などの財源
失業等給付費等充当徴収保険率と育児休業給付費等充当徴収保険率は労使で折半、雇用保険二事業費充当徴収保険率のみ事業主が全額負担します。なお、今回の雇用保険料率の改定において引き下げられたのは失業等給付費等充当徴収保険率であり、その他2つの料率は据え置きされています。
3. なぜ引き下げできたのか?雇用保険財政の仕組みと背景
近年、年金保険料や健康保険料など社会保険料は増加する傾向にあるため、雇用保険料率が引き下げられたことを意外に思う方もいるでしょう。ここでは雇用保険財政の仕組みや引き下げられた背景、料率が毎年見直される理由などについて紹介します。
失業等給付の積立金に余裕が生まれた理由 雇用情勢の改善
雇用保険は労働者や事業者から集めた保険料を積み立て、必要な人に給付する仕組みです。中でも失業等給付とは具体的にいえば失業し、次の仕事を探している人への手当(いわゆる失業手当)や求職者を支援する事業の費用を指します。
コロナ禍に伴う雇用調整助成金の支出増が落ち着き、人手不足などが続き雇用情勢が改善されているため、失業等給付の積立金に余裕が生まれています。そのため令和7年度に引き続き、令和8年度も雇用保険料率が引き下げられることとなりました。
育児休業給付は据え置きの理由 男性育休の増加と財政圧迫の現状
失業等給付の料率が引き下げられた一方で、育児休業給付に充てられる分は据え置きとなりました。背景には育休を取得する男性が増えて支出が増加していることが挙げられます。男性育休が増えることは雇用保険財政の圧迫要因です。
しかし、前の項目で解説した通り雇用情勢が改善しており、雇用保険財政全体としては安定していると判断できるため保険料率の引き下げが実行されたと考えられます。
弾力条項とは何か 毎年度見直しが行われる仕組みの解説
雇用保険料率が毎年改定されるのは、弾力条項が含まれているためです。弾力条項とは柔軟な運営を可能にするための規定です。雇用保険料は雇用情勢や育児休業の取得状況などによって収支が大きく変動することがあります。
そのため、保険料率を固定せず毎年見直しするのが妥当だとして弾力条項が設けられたのです。たとえばコロナ禍の令和4年は急増する支出に対応するため、例外的に10月に保険料改定が実施されました。
4. 雇用保険料の計算方法と給与切り替えのタイミング
雇用保険料率は従業員の給与だけでなく、国へ納める保険料にも影響するため正しく計算することが大切です。ここでは雇用保険料の計算方法と給与計算の実務において、保険料率を切り替えるタイミングなどについて紹介します。
雇用保険料の計算方法 賃金に含まれるもの・含まれないものの注意点
雇用保険料の計算において、賃金に含まれるものは以下の通りです。
・基本賃金
・賞与
・通勤手当ならびに現物支給の定期券
・超過勤務手当(いわゆる残業手当)・宿直手当
・家族手当・扶養手当・技能手当・住宅手当など
一方で、以下は雇用保険料の計算に含みません。
・役員報酬
・退職金
・結婚祝金・弔慰金
・出張旅費など
残業手当のように月ごとに変動するものも計算対象となるため、雇用保険料は毎月計算が必要です。また、通勤手当のように所得税では非課税とされているものが含まれることに注意しましょう。
「締日基準」が鉄則 支給日ではなく締日で判断する理由と具体例
雇用保険料率の改定が4月1日に行われる場合、同日以降の最初の給与締め日から反映させるのが原則です。たとえば月末締め・翌月15日払いの企業であれば4月末締め・5月15日支給の給与から雇用保険料率を変更します。
反対に4月15日支給の給与は締日が4月1日以降ではないため、前年度の保険料率を適用する必要があります。給与計算ソフトを使用している企業は料率の変更タイミングの設定に注意しましょう。
なお、給与締め日が月末ではない企業は4月1日以降に給与締日の来る給与から料率を変更するのが一般的です。
たとえば以下のケースです。
・4月15日締め・4月末支給の給与|令和8年度の雇用保険料率を適用
・4月25日締め・5月10日支給の給与|令和8年度の雇用保険料率を適用
給与ソフトの設定変更と年度更新 担当者が確認すべき実務チェックポイント
給与計算にソフトウエアを使用している場合は、年度ごとに雇用保険料率の変更が必要です。一般的にクラウド型の給与ソフトでは自動的に設定が更新されます。
一方で、手動による変更が必要なソフトウエアもあります。すでに紹介した通り、新しい料率が適用されるのは令和8年4月1日以降、最初の給与計算締め日です。企業によって締め日は異なるため、新年度を迎えたら自社の最初の締め日が来る前に設定を確認することが大切です。
また毎年6月1日~7月10日までの期間には労働保険料の年度更新があります。労働保険料とは雇用保険料と労災保険料を合わせたもので、年度更新は年度ごとの労働保険料の見込み額をあらかじめ納付する制度のことです。年度更新で納付する保険料の計算の際、雇用保険料率が必要となるため新しい料率が適用されているか確認しましょう。
計算ミスや設定変更漏れが起きた場合の対処と精算方法
雇用保険料の計算ミスに気づいたら、速やかに従業員へ知らせたうえで返金などの精算処理を行いましょう。令和8年度は雇用保険料率の引き下げが実施されたため、給与ソフトの設定変更を忘れると前年度の料率で給与を計算してしまい、従業員から保険料を過大に徴収するおそれがあります。
結果的に本来支払うべき給与より少ない金額しか従業員へ支給しなければ、労働基準法第24条に定められた「賃金全額払いの原則」違反に該当する可能性があるため注意が必要です。
まとめ
失業手当や育児休業給付などの財源となる雇用保険料は毎年保険料率の改定が実施されており、令和8年度は2年連続で前年度より引き下げられることが決定しました。雇用保険料は賃金に料率を掛け合わせることで計算されるため、労働者にとっては若干の手取り増、事業主にとっては法定福利費負担の軽減につながります。
計算ミスをしないよう、給与計算実務担当者はタイミングを合わせて給与ソフトの設定を変更することが大切です。
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