事業承継・M&A補助金(2026年版)4つの申請枠・最大2000万の補助額・注意点を解説

中小企業の後継者不足が深刻化しているなか、国は事業承継やM&Aを後押しするための支援制度として「事業承継・M&A補助金」を整備しています。 事業承継・M&A補助金は、公募受付期間が年に複数回設けられています。
前回の第14次公募は2026年4月7日に受付を終了しました。
続く最新の「第15次公募」の受付期間は、2026年6月15日(月)〜2026年7月24日(金)17:00までとなっています。公募期間は約1ヶ月強と大変短いため、申請を検討している方はスケジュールを逆算して大至急準備を進める必要があります。
本記事では、事業承継・M&A補助金が創設された背景や目的をはじめ、4つの枠の比較、次回公募に向けて今すぐできる準備などについて解説します。
1. 事業承継・M&A補助金とは?制度の目的と背景
事業承継・M&A補助金は国が運営する制度です。条件を満たした場合、中小企業・小規模事業者・個人事業主などが事業承継やM&Aを実施する際に生じる費用の一部について補助を受けられます。
まず、ここでは事業承継・M&A補助金が創設された目的と背景、対象の事業者規模・業種といった基本的な内容について解説します。
後継者不足が深刻化する中で生まれた国の支援制度 創設の経緯と役割
日本では中小企業が全企業数の99%を占めていますが、後継者不在による廃業が増加しており、大きな社会課題とされています。中小企業の廃業による雇用や技術の喪失は、日本経済にも大きな影響を及ぼします。
このような背景から、経営資源の引継ぎを促進する目的で2020年に「経営資源引継ぎ補助金」として創設されました。その後、2021年に「事業承継・引継ぎ補助金」へ、2025年に「事業承継・M&A補助金」へ名称が変更され、内容の拡充も行われてきました。
2026年5月時点では、第14次公募まで実績を積み上げています。 中小企業・小規模事業者が、事業承継やM&Aに伴って行う設備投資や、経営資源の引継ぎ、引継ぎ後の経営統合にかかる費用の一部を補助し、事業承継・再編・統合を後押しすることで、日本経済の活性化を図る目的で運営されています。
「事業承継そのものの費用」は対象外 この補助金が支援するのは「承継後の成長投資」
事業承継・M&A補助金は、「事業承継そのものにかかる費用」を補助する制度ではありません。たとえば、事業承継にあたり、被承継者から引き継ぐ資産や土地などを購入するための費用はこの補助金の対象外です。この補助金が支援するのは、事業承継者による生産性向上のための取り組みです。
具体的には、承継後の事業を成長させるために用いる次のような経費が対象とされています。
・設備投資費用:機器や装置導入、店舗改装、工場改修などの費用
・販路開拓費用:出張の交通費や宿泊費用
・専門家費用:FAや弁護士などの費用
・廃業費用:原状回復や在庫処分費用
廃業費用に関しては、事業承継やM&Aに伴い既存事業を廃業し再チャレンジする場合の費用が対象とされています。
個人事業主も申請可能 対象となる事業者の規模・業種要件の基本
事業承継・M&A補助金は、法人だけでなく個人事業主も対象とされる場合があります。「中小企業基本法」により定められた中小企業・小規模事業者・個人事業主に該当していれば、幅広い業種で申請が可能です。
対象とされる主な業種は「製造業」「卸売業」「小売業」「サービス業」などです。業種ごとに資本金・出資金と従業員数の条件が定められています。補助金を受給するには、資本金・出資金または従業員数のどちらかの条件を満たす必要があります。
業種ごとの基準は以下の通りです。
・製造業・建設業・運輸業など(資本金・出資金:3億円以下、常時使用する従業員:300人以下)
・卸売業(資本金・出資金:1億円以下、常時使用する従業員:100人以下)
・サービス業(資本金・出資金:5,000万円以下、常時使用する従業員:100人以下)
・小売業(資本金・出資金:5,000万円以下、常時使用する従業員:50人以下)
ゴム製品製造業や旅館業、ソフトウェア業は、資本金や従業員数の条件が異なります。また、農事組合法人も、条件を満たせば対象とされます。ただし、みなし大企業や高所得企業は対象外であるため注意が必要です。
なお、補助金は「採択制」のため、条件を満たしていても必ず受給できるわけではありません。事業計画の内容や成長性、実現可能性などを踏まえて審査されます。
2. 4つの申請枠を徹底比較 どれを選ぶか判断するための基準
事業承継・M&A補助金は、申請枠が4つあり「事業承継促進枠」「専門家活用枠」「PMI推進枠」「廃業・再チャレンジ枠」の公募が実施されます。それぞれの枠は目的や対象者、補助率、補助上限額、対象経費などが異なるため、事業承継の方法や目的に合わせて選択します。
事業承継促進枠 親族内・従業員承継を予定する事業者の設備投資に最大1,000万円
事業承継促進枠は、親族や従業員への承継を予定している中小企業や個人事業主が、承継を契機として生産性を高めるために取り組む場合に、費用を補助する制度です。
・対象者:親族内承継、従業員承継によって事業を引き継ぐ中小企業や個人事業主
・補助率:小規模事業者の場合は3分の2、それ以外は2分の1
・補助上限額:800万円(一定の賃上げ要件を満たした場合には最大1,000万円)
・対象経費:設備費用、店舗改修費用、システム導入費用、外注費用、委託費用、旅費など
この枠は、親族や従業員への承継に伴い生産性を向上させるための取り組みを検討している場合に選択します。補助を受けるには、単なる設備更新ではなく「承継後の成長戦略」が明確であることが求められます。
参照元:15次公募 事業承継促進 公募要領等ダウンロード|事業承継・M&A補助金事務局
専門家活用枠 M&Aの仲介・FA手数料やデューデリジェンス費用を補助する買い手・売り手支援
専門家活用枠は、M&Aを実施する際に専門家に支払う費用を補助する制度です。
買い手企業だけでなく、売り手企業も対象である点が特徴です。
・対象者:
M&Aによって経営資源を「引き継ぐ(買い手)」または「譲り渡す(売り手)」予定の中小企業・小規模事業者など
・補助率:
買い手3分の2、売り手2分の1(赤字や物価高騰により営業利益率が低下している場合は3分の2)
・補助上限額:
600万円(DD費用上乗せ時は800万円、買い手の「100億企業特例」を適用する場合は2,000万円)
・対象経費:
FA・仲介手数料、デューデリジェンス費用、旅費、謝金、保険料、システム利用料など
専門家活用枠は、親族や従業員へ承継するのではなく、第三者とのM&Aの際に、専門家への委託費用を抑えたい場合に選択します。
・【買い手支援類型 売り手支援類型】 【公 募 要 領】 15 次 公 募 Ver.1.0|事業承継・M&A補助金事務局
・【買い手支援類型 100 億企業特例】 【公 募 要 領】 15 次 公 募 Ver.1.0|事業承継・M&A補助金事務局
PMI推進枠・廃業再チャレンジ枠 M&A後の統合支援と廃業費用への上乗せ補助の使い方
PMI推進枠は、M&Aが成立した後のPMI(経営統合)を支援する制度です。異なる業務システムや給与体系などの統合にかかる費用を補助することで、M&A後の混乱を防ぎシナジー効果を促進します。
PMI推進枠には「PMI専門家活用類型」と「事業統合投資類型」があります。
・対象者:M&Aにより経営資源を引き継ぎPMIに取り組む中小企業者等
・補助率:2分の1もしくは3分の2
・補助上限額:PMI専門家活用類型は150万円、事業統合投資類型は800万円(一定の賃上げを実施する場合は1,000万円)
・対象経費:システム導入費用、コンサルティング費用、設備費用、外注費用など
一方、廃業・再チャレンジ枠は、事業承継やM&Aに伴って既存事業を廃業し再チャレンジする場合の費用を補助する制度です。
廃業・再チャレンジ枠は、他の枠と併せて申請できるのが特徴です。
・対象者:事業承継やM&Aに伴って廃業する中小企業者等
・補助率:3分の2(ほかの枠と併用する際はそれぞれの枠の補助率を適用する)
・補助上限額:300万円(ほかの枠と併用する場合は各枠の補助上限に加算)
・対象経費:廃業支援費用、在庫廃棄費用、建物解体費用、原状回復費用、リース解約費用など
事業承継やM&Aに伴って採算の取れない一部の事業や店舗を整理したり、不要な設備を処分したりする際に選択します。
3. 補助金額・補助率・採択率 第14次公募の数字で読み解く
ここでは、補助上限額やリスク、採択率について紹介します。
最大2,000万円の特例措置から300万円の廃業枠まで 枠別の補助上限額一覧
事業承継・M&A補助金の4つの枠について解説してきましたが、各枠の補助上限額をまとめると以下の通りです。
・事業承継促進枠:最大800万円(一定の賃上げ要件を満たすと1,000万円)
・専門家活用枠:最大600万円(DD費用上乗せ時は800万円、買い手の「100億企業特例」を適用する場合は2,000万円)
・PMI推進枠:PMI専門家活用類型が150万円、事業統合投資類型が800万円(一定の賃上げを実施する場合は1,000万円)
・廃業・再チャレンジ枠:最大300万円(ほかの枠と併用する場合は各枠の補助上限に加算)
このように、事業承継・M&A補助金は申請枠によって補助上限額が異なるのです。特例措置を活用すると、最大2,000万円の支援を受けられるケースもあります。一方で、廃業・再チャレンジ枠のように比較的小規模な補助額設定がされている枠もあります。
賃上げ達成で800万円→1,000万円に引き上げ 達成できなかった場合の減額リスクも確認
事業承継・M&A補助金において、事業承継促進枠とPMI推進枠の事業統合投資類型は一定の賃上げ要件を満たすと補助上限額が引き上げられる仕組みです。ここで注意しなければならないのは、賃上げ要件を盛り込んで補助上限額が引き上げられて採択されたにもかかわらず、一定の賃上げを達成できなかった場合のことです。
一定の賃上げを達成できなかった場合は、交付される補助金額が減額される可能性があります。補助上限額の引き上げを目指すだけでなく、実現可能な賃上げかどうかを慎重に検討し無理のない計画を設計することが大切です。
第13次公募の採択率は約61% 「出せば通る」ではない理由と計画書の重要性
事業承継・M&A補助金の第13次公募における各枠の採択率は、以下の通りです。
・事業承継促進枠:61.0%
・専門家活用枠:61.0%
・PMI推進枠:59.4%
全体では約61%であり、申請すれば必ず採択されるわけではありません。不採択とされる原因には、申請の要件を満たしていないケースや、申請書類に不備があるケースなどが考えられます。
また、多くの申請の中から採択されるためには、審査員になぜその投資が必要なのか、どのような成果を見込んでいるのかといったことを伝える必要があります。計画書では、取り組みの目的と必要性、実現可能性、収益性、継続性などについて具体的にアピールすることが大切です。
4. 申請の流れと次回公募に向けた今からの準備ガイド
ここでは、実際の申請に向けて必要な準備と注意点について解説します。
電子申請(Jグランツ)のみ受付 GビズIDプライムの取得に2〜3週間かかる落とし穴
事業承継・M&A補助金は、国の電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」を通じてのみ申請が可能です。jGrantsにログインするためには「GビズIDプライム」を取得する必要があります。
ここで注意しておきたいのは、GビズIDプライムは即時取得できない点です。申請から発行まで2〜3週間程度かかる場合があり、事業承継・M&A補助金の公募締切直前では間に合わない可能性があります。補助金の申請を検討している場合は、余裕を持って早めに手続きしましょう。
採択通知≠補助金受取 交付決定前の発注は原則対象外 14次から事前着手制度が廃止
採択通知が届いた段階では、まだ発注や契約をしてはいけません。以前は事前着手が認められていましたが、第14次公募からは原則事前着手が認められていないのです。
そのため、採択後に交付申請し、交付決定通知を受けてから発注・契約・支払いをしなければなりません。
交付決定前に発注・契約・支払いをした経費に関しては、補助対象外とされてしまいます。タイミングを誤ると補助対象外とされる可能性があり、想定していた資金計画に影響を及ぼすおそれがあるため、注意が必要です。
次回公募(第15次)に向けて今すぐできる3つの準備 GビズID取得・事業計画の整理・専門家への相談
次回の第15次公募の受付期間は、2026年6月中旬〜2026年7月下旬に予定されています。公募が始まってから締め切りまでは、1カ月程度しかないため、早めに準備を開始しておくと安心です。
今すぐできる3つの準備を紹介します。
1.GビズIDプライムの取得:
申請から発行まで2〜3週間程度かかる場合があるため、まず申請手続きを済ませましょう。
2.事業計画の整理:
現在の経営課題を把握し、なぜ承継するのか、承継後に何を強化したいか、どのように売上や利益を伸ばすのかといったことを具体的に整理しておくと、スムーズに申請準備を進められます。
3.専門家への相談:
税理士や中小企業庁が全国に設けている「事業承継・引継ぎ支援センター」などに相談することで、制度選択や計画書作成の精度向上が期待できます。
直近の第15次は7月24日が締切となっており、今回の公募に大急ぎで滑り込みたい方は今すぐGビズIDの取得に動きましょう。もしくは、計画的に来年の申請を目指し、来年の準備に向けて、今から事業計画の整理や税理士への相談をスタートさせましょう。
まとめ
事業承継・M&A補助金は、社会課題とされている後継者不足に対応するために設けられた重要な支援制度です。単に承継費用を補助するのではなく、承継後の生産性を向上させるための取り組みを支援する点が特徴です。
事業承継・M&A補助金には4つの枠が用意されているため、自社の状況に応じた枠を選択する必要があります。
また、補助上限額や賃上げ要件、電子申請対応など注意点もあるため、公募要領を十分確認した上で準備を進めなければなりません。次回公募に向けては、GビズIDの取得や事業計画の整理、専門家への相談などを早めに行い、余裕を持って申請準備を進めることが大切です。
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