全東信の未入金、今期の損金にできる?決算月で分かれる境目を税理士が解説

[取材/文責]マネーイズム編集部
プロゴ税理士事務所代表 好川 寛(税理士)

クレジットカード決済代行の全東信(大阪市)が大阪地裁から破産手続開始決定を受けてから、7週間が過ぎました。

破産管財人によると、7月以降に入金されていないケースは2万件以上、総額は53億円に上ります。決済端末は使用できなくなり、立替支払を受けていない売上金は破産債権として扱われることが管財人から告知されています。「入金されるのか」を待つ段階は終わり、決算と申告の段階に入りました。

ここで多くの事業者が2つの誤解を抱えています。ひとつは「破産したのだから今期の損金にできる」。もうひとつは「消費税分も取り戻せる」。

いつ、いくら損金にできるのか。消費税はどうなるのか。税理士に伺いました。

損金にできるのは債権額の50%、時期は決算月で決まります

破産手続開始の申立てがあった事業年度に、未回収の債権額の50%を個別評価貸倒引当金として損金に算入できます(法人税法52条1項、同法施行令96条1項3号)。申立ては2026年7月6日です。この日を含む事業年度がどれかで、今期に落とせるか翌期になるかが決まります。

未入金が500万円あれば250万円が損金です。実効税率を30%とすれば、税負担はおよそ75万円軽くなります。

分かれ目は6月末決算です。6月30日で事業年度が閉じているため、7月6日は翌事業年度の出来事になります。いま8月末期限で組んでいる2026年6月期では計上できず、処理は2027年6月期です。7月末・8月末決算の会社は、まさにいま作っている申告書がその事業年度にあたります。12月末決算なら2026年12月期、3月末決算なら2027年3月期です。決算時点で対象となる債権額を確定し、所定の方法で貸倒引当金を計上することがポイントです。

ただし、貸倒引当金を使えるのは資本金1億円以下の中小法人等などに限られます。担保や保証で回収が見込める部分も、50%を計算する債権額から除きます。個人事業主も同じ考え方で債権額の50%を必要経費にでき(所得税法52条1項)、2027年3月の確定申告での処理になります。

残りの部分を損金にできるのは、破産手続の進展を待ってから

破産手続には、会社更生や民事再生のような債務免除の裁判がありません。そのため法律上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-1)には原則として当たらず、残額を損金にできるのは、手続の廃止や終結によって法人格が消滅した時点というのが実務です。数年単位の話になります。

もうひとつの入口が、事実上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-2)です。債務者の資産状況・支払能力からみて全額が回収できないことが明らかになれば、その事業年度に損金経理で貸倒れにできます。ただし「全額」が条件です。数%でも配当が見込まれる段階では使えず、一部だけ落とすこともできません。管財人から配当の見込みや配当率について具体的な情報が示され、回収不能額が明らかになった場合には、事実上の貸倒れに該当するかを検討することになります。

形式基準(同9-6-3)が使えるかは論点が残ります。この基準は継続的な取引から生じた売掛債権を前提としていますが、加盟店が持っているのは商品やサービスの売掛金ではなく、立替払を求める債権です。契約の形態によって判断が分かれ得ます。

配当の見込みも、それ自体では結論になりません。東京商工リサーチは、粉飾を是正すると2026年3月期で実質約605億円の債務超過だった可能性を指摘しており、一般債権への配当を多く見込める構造ではありません。ただし、それだけで税務上「回収不能が明らか」と扱われるわけではありません。

消費税分まで取り戻せるとは限りません

消費税の貸倒れに係る税額控除(消費税法39条)の対象は、課税資産の譲渡等の相手方に対する債権です。加盟店が商品やサービスを売った相手方は来店した顧客であり、その代金はカード決済で既に完了しています。回収できなくなったのは、全東信に対する立替払の請求権です。

両者は性質が異なるため、法人税で50%を引当できても、消費税で同じように控除できるとは限りません。判断を分けるのは契約の中身で、加盟店契約が債権譲渡を伴う形か、立替払を約束する形かで結論が変わり得ます。法人税と同じ結論になる前提で申告を組まず、契約書と精算の流れが分かる資料を用意して個別に確認してください。

税務より先に、資金繰りと管財人からの通知です

7月31日の官報告示で、全東信はセーフティネット保証1号の指定事業者になりました。50万円以上の売掛金債権等を持つ中小企業者、または50万円未満でも取引依存度が20%以上の中小企業者が対象で、通常の保証枠とは別枠の100%保証を受けられます。利用には本店所在地の市区町村での認定が必要で、認定書の有効期間は発行日から30日です。日本政策金融公庫などへは、返済猶予といった既往債務の条件変更や貸出手続の迅速化も要請されています。経営セーフティ共済に加入していれば、共済金の貸付けの対象にもなります。

債権の届出は、いま急ぐ段階ではありません。管財人は、配当が見込める可能性が生じた段階で改めて案内するとしています。待つ間に、未入金の明細を日付と金額で集計し、加盟店契約書をそろえてください。その資料が、引当金の計算にも消費税の判断にもそのまま使えます。

まとめ

未入金の50%を損金にできるのは、破産手続開始の申立てがあった2026年7月6日を含む事業年度です。7月末・8月末決算なら今期、6月末決算なら翌期と、決算月で扱いが分かれます。残額が落ちるのは手続が終わる数年先で、消費税の控除は法人税とは別の判断になり得ます。未入金の明細と加盟店契約書を持って、決算直前ではなく今の時点で税理士に相談してください。

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プロゴ税理士事務所代表 好川 寛(税理士)

東京国税局で15年にわたり、税務調査・審理・国税不服審判所の業務に従事。非居住者課税の相談実務に精通する。大手YouTuberエージェンシーでの実務経験から、フリーランス・インフルエンサー特有の税務にも明るい。その後、IT企業でのプロダクトマネジメントを経て神奈川県川崎市で独立。現在はクリエイターやスタートアップの税務支援を中心に活動し、税務メディアの記事監修も多数手がける。国税の現場で培った課税庁側の視点を活かした解説を得意とする。

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