ノーベル化学賞に硤合憲三氏。賞金1億9,000万円に税金はかかる?所得税法に名指しで書かれた非課税規定

2026年10月7日、スウェーデン王立科学アカデミーは、今年のノーベル化学賞を東京理科大学名誉教授の硤合憲三(そあい・けんそう)氏とフランスのアンリ・カガン氏に授与すると発表しました。日本人の化学賞受賞は2年連続です。今年の賞金は1部門あたり1,200万スウェーデンクローナ(日本円で約1億9,000万円)。ノーベル賞創設125周年を記念して前年から100万クローナ増額されました。
これだけの金額を受け取ったら、税金はどうなるのでしょうか。結論から言うとノーベル賞の賞金には所得税がかかりません。ただしその理由は「賞金だから」ではなく、法律に書かれた特別な扱いによるものです。本記事では根拠となる条文を確認したうえで、一般の賞金や、会社が従業員に出す表彰金の扱いまで整理します。
ノーベル化学賞2026、受賞の概要
東京理科大学の発表によると、今回の受賞内容は次のとおりです。
・受賞者:硤合憲三氏(東京理科大学名誉教授・76歳)とアンリ・カガン氏(フランス・パリ南大学名誉教授・95歳)の2名
・授賞理由:不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発見
・業績:硤合氏は東京理科大学在籍時に、生成物そのものが触媒となって同じ反応を促進する「不斉自己触媒反応」を世界で初めて発見。この反応は「硤合反応」として知られています
アミノ酸や糖には、右手と左手のように鏡に映した関係にある2つの形(鏡像異性体)が存在します。ところが生物の体内では、そのどちらか一方だけが使われています。硤合反応はこの偏りを人工的に再現できる反応で、生命の起源に関わる謎の解明につながる研究として注目されてきました。医薬品や香料の開発への応用も期待されています。
硤合氏は記者会見で「アンリ・カガン先生と一緒に受賞できるということがとても嬉しい」と述べています。授賞式は毎年12月10日に行われます。
賞金は約1億9,000万円。ただし2人で分ける
ノーベル財団が各部門に用意する2026年の賞金は1,200万スウェーデンクローナです。前年の1,100万クローナから100万クローナ増え、報道では日本円で約1億9,000万円と伝えられています(為替相場によって円換算額は変動します)。増額はノーベル賞創設125周年を記念したものです。
注意したいのは、この金額は部門ごとの総額だという点です。今回の化学賞は硤合氏とカガン氏の2名が受賞しているため、賞金は2人で分けられます。単純に半分とすれば1人あたり600万クローナ、日本円で約9,500万円という計算になります。
ただし分配の割合はノーベル財団が業績に応じて決めるもので、必ず等分になるとは限りません。報道でも「2人で分け合う」ところまでが示されており、具体的な配分比率は公表されていません。
なぜ非課税なのか——所得税法に名指しで書かれている
ノーベル賞の賞金が非課税とされる根拠は、所得税法第9条(非課税所得)第1項第13号にあります。同号は非課税となる年金や金品をイからヘまで列挙しており、そのうち「ホ」に「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」と明記されています。
つまり「高額な賞金だから特別に配慮されている」のではなく、法律の条文でノーベル賞が名指しで非課税とされているというのが正確な理解です。同じ第13号には、文化功労者年金法による年金、日本学士院賞、日本芸術院賞なども並んでいます。
所得税が課されない所得は、原則として住民税の課税対象にもなりません。したがって受賞者が賞金を受け取った段階では、所得税・住民税のいずれも生じないことになります。
◆経済学賞の扱いには注意が必要
条文をよく読むと「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」と限定されています。一方、経済学賞(正式名称はアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞)は、スウェーデン国立銀行が資金を拠出しているもので、ノーベル財団が直接の原資ではありません。このため経済学賞がこの「ホ」に当てはまるかは条文の文言だけでは読み切れません。第13号の「ヘ」には財務大臣が指定した外国の団体・基金からの類似の金品も非課税とする規定があり、指定の有無によって結論が変わり得ます。今回の受賞は化学賞ですが、経済学賞について論じる場合は専門家に確認してください。
では、一般の賞金はどうなるのか
ノーベル賞のように条文で名指しされている賞はごく一部です。ほとんどの賞金は課税対象になります。経営者・個人事業主が実際に遭遇しやすいのは次のパターンです。
・懸賞・クイズ・コンテストの賞金:原則として一時所得にあたります。一時所得は「収入金額-支出した金額-特別控除50万円」で計算し、さらにその2分の1が課税対象となります。50万円以下の賞金なら特別控除で課税所得はゼロになります
・事業に関連して受けた賞金:本業の成果として受けたものは事業所得として扱われます。デザインコンペの賞金、技術開発に対する報奨など、業務の延長で得たものは一時所得ではなく事業の収入になる点に注意が必要です
・業務上の表彰・報奨金:会社が役員や従業員に支給する場合、原則として給与として課税されます。社内表彰だから経費で落ちて終わり、ではありません
賞金と税金の関係は、こちらの記事でより詳しく整理しています。
会社が「表彰金」を出すときに経営者が押さえる3点
ノーベル賞のニュースをきっかけに、社内表彰や永年勤続の報奨を検討する会社もあります。実務上の注意点は次の3つです。
・1. 現金での表彰金は原則「給与」:源泉徴収が必要で、社会保険料の算定にも影響します。「賞」という名目でも、現金を渡せば給与課税が原則です
・2. 永年勤続表彰は一定の条件で課税されない扱いがある:記念品の支給や旅行への招待などは、勤続年数がおおむね10年以上であること、同じ人を5年以上の間隔で表彰することなど、条件を満たせば課税されない取り扱いがあります。ただし現金や商品券で渡すと給与として課税されます
・3. 創業記念品なども支給方法で結論が変わる:金額の水準や支給の間隔といった条件があり、形式の選び方で課税・非課税が分かれます
いずれも「何を渡すか」と「どう渡すか」で課税関係が変わるのが特徴です。制度を設計する段階で顧問税理士に確認しておくと、後から源泉徴収漏れを指摘されるリスクを避けられます。
スポーツの大型賞金に税金がかかるかどうかを扱った記事もあわせてご覧ください。
W杯優勝賞金80億円、日本は17.6億円。あの賞金に税金はかからないのか?税理士の見解は
まとめ
ポイントを整理します。
・2026年のノーベル化学賞は東京理科大学名誉教授の硤合憲三氏とアンリ・カガン氏の2名に決定(10月7日発表)。授賞理由は不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発見
・賞金は1部門1,200万スウェーデンクローナ(約1億9,000万円)。創設125周年で前年から100万クローナ増額。化学賞は2名で分けるため単純計算なら1人約9,500万円(配分比率は非公表)
・ノーベル賞の賞金は所得税法第9条第1項第13号ホで名指しで非課税。所得税が非課税なら住民税もかからない
・条文は「ノーベル基金から」と限定されており、スウェーデン国立銀行が原資の経済学賞は同じ規定で読み切れない。断定は避けるべき論点
・一般の賞金は原則課税。懸賞などは一時所得(特別控除50万円・課税は2分の1)、事業に関連すれば事業所得、社内表彰の現金は給与
ノーベル賞の非課税は「法律に書いてあるから」という例外的な扱いです。自社で表彰制度を設けるときは、同じ感覚で考えると源泉徴収の漏れにつながります。設計の段階で確認しておきましょう。
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