高級腕時計の免税販売で5億円の「不適切還付」、なぜ店が追徴される?11月1日から免税制度はどう変わる?

外国人旅行者向けの「免税」は、お土産を安く買ってもらうための制度のはずです。ところが、免税で売った店の側が消費税の「還付」を受けていたと聞くと、仕組みが分からない方も多いのではないでしょうか。
2026年10月24日、高級腕時計の中古品を販売する東京都内の会社が、免税制度を使った消費税の還付約5億円を不適切だと東京国税局に指摘され、過少申告加算税を含めて約5億8,000万円を追徴されていたことが報じられました。結論から言うと、免税販売は売上にかかる消費税がゼロになるため、一般課税で申告している店では、仕入れで払った消費税が控除しきれずに還付される形になります。しかし、買った人が国内で転売するなど免税の要件を満たさない販売だったと判断されると、免税もその還付も認められません。そして、こうした不正利用を根本から断つために、免税制度は2026年11月1日から「リファンド方式」に変わります。
本記事では、今回の指摘の内容、免税販売で店が還付を受けられる仕組み、転売目的の販売が認められない理由、11月1日からの新制度で免税店・買取業者・海外在住で一時帰国する個人がどうなるかを解説します。
1. 高級腕時計の免税販売で約5億円の「不適切な還付」、追徴は約5億8,000万円
ここでは、報道された指摘の内容について解説します。
2025年7月までの約4年間が対象
日本経済新聞(共同通信配信)などの2026年10月24日の報道によると、高級腕時計の中古品を販売するOKURA(東京都豊島区)は、消費税の免税制度を利用し、消費税分を除いた免税価格で腕時計を販売していました。同社はこれを免税売上として申告し、仕入れにかかった消費税の還付を受けていましたが、東京国税局は2025年7月までの約4年間について、計約5億円の還付が不適切だと指摘したとされます。追徴額は過少申告加算税を含めて約5億8,000万円です。
報道では、同社はブローカーが手配した「買い子」と呼ばれる外国人らと多数回にわたって取引しており、買い子は購入した腕時計を他人に譲渡したとみられています。東京国税局は、転売目的で免税の要件を満たさず、還付の対象に当たらないと判断したもようです。FNNは、転売目的が疑われる外国人客に本人確認を十分に行わないまま免税価格で販売していたことや、一部の取引では外部のブローカーと店舗の従業員が協力していた可能性があると報じています。
同社は取材に対し、「国税局と一部見解の相違が生じる結果となったことを真摯に受け止め、管理体制の強化に努める」とコメントしています。日本テレビの取材には、追徴分はすでに納付したと答えています。なお、本記事の執筆時点で国税局・同社による公式な発表は確認できておらず、上記の経緯は関係者への取材に基づく報道です。
「買い子」を使った転売は以前から問題になっていた
免税店で買った物品を国内で転売する行為は、以前から国税当局が警戒してきました。2022年には、アップルの日本法人が、iPhoneの免税販売の一部に転売目的が疑われる取引があったとして、東京国税局から約140億円の追徴課税を受けたと報じられています。また、免税で買った高級ブランド品などを国外に持ち出した形跡がない中国人男性3人に対し、福岡国税局が約2,500万円の消費税を徴収する処分をしたことも報じられています。
国税庁は、免税店向けのリーフレットの中で、多額・多量の免税購入物品が国外に持ち出されず、国内で横流しされていると疑われる事例が多発していること、出国時に物品を持っていない旅行者から消費税を徴収しようとしても、その多くが滞納になっていることを挙げ、「輸出物品販売場制度の不正利用は看過できない状況」だとしています。
過去の事例は、アップルの日本法人に東京国税局が約140億円追徴課税「iPhone大量購入」を転売として免税認めず、免税購入で税金逃れ中国人男性3人に対して2,500万円の消費税徴収でも紹介しています。
2. なぜ免税で売った店が消費税の「還付」を受けられるのか
ここでは、免税販売の仕組みと、店が還付を受けられる理由について解説します。
免税販売とは「非居住者への輸出」扱いの販売
外国人旅行者向けの免税制度は、法律上は「輸出物品販売場制度」といいます。税務署の許可を受けた店(免税店)が、日本に住んでいない人(非居住者)に対し、国外へ持ち出すことを前提に物品を売る場合、その販売を輸出と同じように扱って消費税を免除する仕組みです。
国税庁・観光庁の案内によると、免税の対象になる「免税購入対象者」は、非居住者のうち、短期滞在・外交・公用などの在留資格で在留する外国籍の人(観光庁の案内では、入国後6か月未満であることが確認できる人)と、国外に引き続き2年以上住所または居所があることを、最後に入国した日から6か月前の日以後に作成された「在留証明」や「戸籍の附票の写し」で確認できる日本国籍の人です。対象物品は家電・カバン・時計・宝飾品などの一般物品と、食品・化粧品・医薬品などの消耗品で、いずれも同じ店で1日の販売合計額が5,000円以上(消耗品は50万円以下)であることが条件です。そして、非居住者が事業用または販売用として購入することが明らかな場合は、免税の対象になりません。
店側は、販売時にパスポートなどを確認したうえで、購入記録情報を国税庁に電子送信する義務があります。国税庁の案内では、購入者に対して「国外に持ち出すために購入するものであること」「出国時に税関でパスポートなどを提示すること」「出国時に物品を持ち出していなかった場合は、免除された消費税相当額を徴収されること」の3点を説明することも求められています。
売上の消費税がゼロなら、仕入れで払った消費税が戻ってくる
消費税は、受け取った消費税(売上分)から支払った消費税(仕入分)を差し引いて納める仕組みです。免税販売は売上にかかる消費税がゼロなので、差し引きがマイナスになれば、その分が還付されます。
たとえば、腕時計を税込110万円(うち消費税10万円)で仕入れて、免税価格の150万円で外国人旅行者に売ったとします。
| 項目 | 国内の客に税込165万円で売った場合 | 免税で150万円で売った場合 |
|---|---|---|
| 売上にかかる消費税 | 15万円 | 0円 |
| 仕入れで払った消費税 | 10万円 | 10万円 |
| 納付(マイナスは還付) | 5万円を納付 | 10万円が還付 |
※消費税率10%、他の取引がないものとした単純化した例です。還付を受けられるのは一般課税で申告する課税事業者に限られ、みなし仕入率で仕入税額を計算する簡易課税制度を選択している場合は還付になりません。
つまり、一般課税で申告している店で免税販売の割合が高ければ、申告で仕入れの消費税の還付を受けること自体は珍しくなく、不正でもありません。問題になるのは、免税の要件を満たさない販売を「免税売上」として申告していた場合です。その販売は本来、消費税がかかる国内の売上として扱われるため、免税を前提にした還付は認められず、受け取るべき消費税の納付に加えて、過少申告加算税などの加算税を課される場合があります。今回の指摘は、この構図に当たるとみられます。
「転売目的」だと何が崩れるのか
免税は、買った本人が物品を国外へ持ち出すことが前提です。消費税法は、免税で買った物品を国内で譲渡したり譲り受けたりすることを原則として禁じています(第8条第4項)。買い子が国内で別の人に渡してしまえば、本人が持ち出す物品ではなくなり、免税の前提が崩れます。ブローカーが外国人を集めて免税価格で買わせ、国内の業者に横流しすれば、免税価格と国内の税込価格との差を利ざやにできるため、高額で転売しやすい腕時計やブランド品、スマートフォンが狙われてきました。
店側にとって難しいのは、販売の時点で転売目的かどうかを見抜きにくいことです。ただし、同じ人物が短期間に何度も高額品を買う、付き添いの人物が主導する、支払い方法が不自然といった事情は、国税庁が免税購入品と疑われる例として挙げているサインと重なります。事業用または販売用の購入が明らかだと判断されれば、免税は認められません。会社側が「一部見解の相違」と述べている具体的な争点は報じられていませんが、販売時に転売目的を見抜けたかどうかが論点になった可能性があります。
3. 免税制度の不正利用に国が打った3つの手
ここでは、免税品の転売を防ぐために設けられた仕組みについて解説します。
(1)出国時に持っていなければ、その場で消費税を徴収
免税で買った物品は、出国時に税関で確認を受けます。購入記録は店から国税庁へ電子送信され、税関もその情報を見られる仕組みです。出国までに物品を国外へ持ち出さないことが確認された場合や、出国前に譲渡・消費していた場合は、免除された消費税相当額が徴収されます(出国時に税関が徴収するほか、後から国税局が徴収処分を行うこともあります)。福岡国税局が中国人男性3人から約2,500万円を徴収した処分は、免税で買った物品を国外に持ち出した形跡がないとして、免税の要件を満たさないと判断した例です。
ただし、国税庁のリーフレットにあるように、徴収しようとしても滞納になるケースが多く、この方法だけでは不正を止められませんでした。
(2)2024年4月から:免税購入品と知りながら仕入れた業者は仕入税額控除を受けられない
横流しされた免税品を買い取る側にも網がかけられています。2024年4月1日以後の仕入れから、免税店で消費税が免除された物品(免税購入品)であることを知りながら仕入れた場合、その仕入れにかかる消費税額は仕入税額控除の対象外になりました。古物商が帳簿の保存だけで仕入税額控除を受けられる「古物商等特例」を使っていても、この制限は変わりません。
国税庁は、免税購入品と疑われる事例として次のような場合を挙げています。
- 本人確認書類などから、日本に居住していない非居住者からの買取りだと分かる場合
- 本人確認書類の偽造が疑われる場合
- 持ち込まれた物品に免税用のパッケージがされていた(または痕跡があった)場合
- 同種同等の物品について、大量または定期的に買取りを求められた場合
- 本人ではなく付添人が主導的に対応するなど、持込者の物品でないことが疑われる場合
- 高級物品の買取りで、持込者の様子から所有者であることに疑いがある場合
- 仕入先がSNSで免税品購入のアルバイト(いわゆる買い子)を募集しているなど、制度の不正利用が疑われる場合
国税庁は、疑わしい仕入れでは本人確認を確実に行い、物品の調達先などを仕入先に確認して記録を残す、現金で買い取らずに本人の口座へ振り込む、場合によっては仕入れそのものを避けるといった対応を求めています。制限の対象は「免税購入品であることを知りながら」行った仕入れですが、こうしたサインを見過ごして仕入れていれば、知りながら仕入れたと認定されるおそれがあります。中古品の買取りを行う経営者にとっては、疑わしいサインを放置できないことを示す改正です。
(3)2026年11月1日から:店頭では税込みで売り、出国時の確認後に返金する「リファンド方式」
最も大きな変更が、2026年11月1日から始まるリファンド方式です。令和7年度税制改正で決まったもので、国税庁のリーフレットは次のように説明しています。免税店は、免税対象物品を税込価格(課税)で販売し、外国人旅行者等が出国時にその物品を持ち出すことが税関で確認された場合に免税販売が成立します。免税店はこの確認の後に、消費税相当額を旅行者に返金します。
国税庁のQ&Aや解説によると、新制度の主なポイントは次のとおりです。
| 項目 | 2026年10月31日まで | 2026年11月1日から |
|---|---|---|
| 店頭での販売価格 | 消費税を除いた免税価格 | 税込価格(いったん課税) |
| 免税が成立する時点 | 販売時 | 出国時に税関で持ち出しが確認された時点 |
| 消費税相当額の返金 | 販売時に免税価格にするため、出国後の返金はない | 税関確認後に免税店(または委託を受けた返金事業者)が返金 |
| 税関確認の期限 | 出国時 | 購入日から90日以内に出国して確認 |
| 一般物品と消耗品の区分、消耗品の50万円上限、特殊包装 | あり | 廃止 |
| 店の保存義務 | 購入記録情報 | 購入記録情報に加え、税関確認情報 |
この方式なら、買い子が国内で横流ししても、出国時に物品を持っていなければ税関の確認を受けられず、返金も起きません。旅行者は最初に消費税分を払っているので、物品を持ち出さなかった人から国が後から徴収しなければならない場面は大きく減ります(税関の確認を受けた後に輸出しなかった場合には、消費税相当額が徴収されます)。国税庁は、不正利用を排除するとともに、「免税店が不正の排除のために負担を負うことのない制度」にすることが目的だと説明しています。免税店が販売時に転売目的を見抜けたかどうかをめぐる争いは、新制度では起こりにくくなるわけです。
なお、同じ購入記録に含まれる物品のうち一つでも出国時に持っていないと、その購入記録の物品すべてについて確認を受けられないとされています。旅行者が買える量は、実際に持ち出せる範囲に限られることになります。
4. 免税店・買取業者・海外在住で一時帰国する人はどうなる?
ここでは、立場ごとに11月1日以降の確認ポイントについて解説します。
免税店を運営している事業者:10月31日までの届出と、返金の実務
観光庁によると、2026年3月31日時点の全国の免税店は6万4,127店で、半年前より372店減りました。三大都市圏に3万9,753店、それ以外の地方に2万4,374店あり、百貨店や家電量販店だけでなく、観光地の小さな土産物店や中古品店にも広がっています。
国税庁の案内では、免税販売手続の電子化(購入記録情報の電子送信)に対応するための届出書を2026年10月31日までに提出していない免税店は、同日をもって許可の効力を失うとされています。すでに電子化に対応している店は、11月1日に新制度の許可を受けたものとみなされます。
11月1日以降は、レジで税込価格を受け取り、税関確認の情報を取得・保存したうえで、消費税相当額を返金する流れになります。返金の方法や、免税販売管理システムの改修、カウンターの案内表示の変更など、実務の準備が必要です。細かな手続きは国税庁のリファンド方式特設サイトと、所轄の税務署で確認してください。
中古品の買取りをしている事業者:本人確認と記録を残す
リファンド方式になれば、店頭で消費税を引いた「免税価格」で物品が売られることは原則なくなり、免税価格の物品が市中に出回る余地は小さくなります。ただし、10月31日までに免税で買われた物品が持ち込まれる可能性はしばらく残りますし、2024年4月からの仕入税額控除の制限がリファンド方式への移行で廃止されると案内されているわけでもありません。免税用のパッケージの痕跡、非居住者からの持込み、同じ物品の大量・定期的な持込みといったサインがあれば、本人確認と調達先の確認を記録に残し、現金ではなく本人の口座への振込みで支払うなど、国税庁が示した対応を取っておくことが、消費税と加算税のリスクを避ける近道です。
海外在住で一時帰国する人:いったん税込みで払い、出国時の税関確認後に返金
免税の対象は外国人だけではありません。日本に住んでいる人が海外旅行に行くときは対象になりませんが、海外に引き続き2年以上住んでいる日本人が一時帰国した場合は、そのことを在留証明や戸籍の附票の写しで示せれば免税購入の対象になります。11月1日以降は、店で税込価格を払い、購入日から90日以内に出国して税関で持ち出しの確認を受け、その後に消費税相当額の返金を受ける流れに変わります。出国前に物品を人に渡したり使い切ったりすると、税関の確認を受けられず返金もありません。返金は免税店または委託を受けた返金事業者から行われ、方法や時期は店ごとに異なるため、購入時に確認しておきましょう。
免税制度の基本は、来たるべき海外旅行解禁に向け、免税について知っておこうでも解説しています。
5. まとめ
一般課税で申告する免税店が消費税の還付を受けること自体は、仕組み上おかしなことではありません。問題は、転売目的の「買い子」への販売のように、免税の要件を満たさない取引を免税売上として申告した場合で、その分の消費税に加えて加算税を課されることがあります。今回の高級腕時計の中古販売業者への約5億8,000万円の追徴は、その典型例として報じられました。
国は、出国時の即時徴収、2024年4月からの買取業者への仕入税額控除の制限に続き、2026年11月1日から店頭で税込みで売って出国確認後に返金するリファンド方式へ移行します。免税店を運営する事業者は10月31日までの届出と返金の実務を、中古品の買取業者は本人確認と記録を、海外在住で一時帰国する人は「購入日から90日以内の出国時に持ち出して税関の確認を受ける」ことを、それぞれ押さえておきましょう。
※本記事の事件に関する記述は、2026年10月24日時点の報道に基づくものです。執筆時点で国税局・会社側の公式発表は確認できておらず、会社側は「一部見解の相違」があったとしています。
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