「4〜6月は残業しない方が良い」はウソ?社会保険料の仕組みと2026年の変更点

「社会保険料が高くなってしまうため4〜6月には残業をしないほうが良い」という話を聞いたことはありませんか? 今回は、本当にそうなのかを検討するとともに、2026年4月から変わった社会保険料のポイントを経営者・人事担当者向けに解説します。
1. 社会保険料の決め方
社会保険料というコスト
基本的に社会保険料は、大抵の企業にとって払わずには通れない出費です。従業員ひとりにつき、月単位で換算してその人の月収の1〜2割程度の額を企業側で納める必要があり、これが全従業員分となるとかなり高額になります。この先少子高齢化が進む中、一般的な企業にとって社会保険料は、抑えられるなら抑えたい負担と言えます。
社会保険の種類
社会保険は、いくつかの保険をまとめた総称です。広義には、厚生年金保険、雇用保険、医療保険、介護保険、労災保険の5つを指し、狭義には厚生年金保険、雇用保険、健康保険の3つを指します(この場合、雇用保険と労災保険は、社会保険と区別され労働保険と称されることもあります)。また、健康保険のみで社会保険を意味することもあります。この記事では以下、狭義の3つをまとめて社会保険と呼んでいきます。
- 厚生年金保険
主に企業に勤める人が加入するもので、65歳から支給される老齢年金のほか、亡くなったり傷病により障害が残ったりした場合にもお金を受け取ることができます。なお、これと似たものに国民年金がありますが、こちらは国民全員が対象となり支払うもので、厚生年金保険は国民年金に上乗せされて受け取ることになります。 - 雇用保険
失業中の生活保障、育児や介護と就業の両立といった、雇用全般をサポートする保険です。企業に勤める人が「1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上雇用される見込みである」という条件を満たす場合、雇用保険への加入は義務となります。 - 健康保険
医療制度利用のための保険で、加入者は医療的なサービスを受ける際の負担額などが軽減されます。大手企業などでは自前の健康保険組合があり、ない場合は全国健康保険協会(協会けんぽ)を利用することになります。主に企業に勤める人を対象とするのがこちらで、自営業の人などは代わりに国民健康保険に加入します。
保険料の計算方法
- 厚生年金保険
企業と従業員で半分ずつ支払う労使折半であるため、企業の出費は「標準報酬月額(後述)×厚生年金保険料率×1/2」で求められます。厚生年金保険料率は、2004年以降段階的に引き上げられていましたが、2017年9月から18.3%に固定されました(企業負担は9.15%)。 - 雇用保険
企業と従業員で支払う額が異なり、それぞれの率は業種と年度により変動し、雇用保険料率として毎年公表されます。2026年度(2026年4月〜)の一般事業の合計料率は1.35%(事業主負担0.80%+被保険者負担0.55%)に引き下げられています。企業の出費は「毎月の給与×事業主負担分の雇用保険料率」で求められます。 - 健康保険
厚生年金保険と同様、企業と従業員で半分ずつ支払う労使折半であるため、企業の出費は「標準報酬月額×健康保険料率×1/2」で求められます。健康保険料率は、所属する組合や協会の指定により異なります。
2. 標準報酬月額とは
計算方法
上記の計算式で登場した標準報酬月額とは、社会保険料以外にも適用される、特定の方法で算出された報酬の値です。具体的には、まず個々の従業員への報酬の支払いについて、3か月分を平均して報酬月額を算出します。この報酬月額を、金額によって段階的に等級分けされた表と照らし合わせ、当てはまる等級に振り分けられた値が、その人の標準報酬月額となります。標準報酬月額は、原則として4〜6月の3か月(支払いの基礎となる日が17日未満の月は除く)の報酬の平均によって決まり、その年の9月から翌年8月まで適用されます。それゆえ、4〜6月に報酬として支払う金額が高くなるほど、その年全ての保険料も高額になってしまうために損だと言われてきました。
「報酬」の対象
注意点として、ここで言う報酬には、給与のみでなく、各種手当など、働きに対して年4回以上支給されたお金や物も含まれます。また、標準報酬月額の算出における例外として、繁忙期などを理由に4〜6月の報酬月額が、年間を通して計算した報酬月額と大きく乖離する際は、通常の計算での報酬月額と、前年7月〜当年6月で計算した報酬月額に2等級以上の差があり、これが業務上毎年発生する場合、被保険者の同意を条件に、年間平均で算出した報酬月額を適用することができます。
健康保険の標準報酬月額
東京都の健康保険の標準報酬月額は以下の通りです。下の表を見て等級を調べます。例えば報酬月額が26万円の方は等級が20で、標準報酬月額は26万円になります。この標準報酬月額を使って健康保険料と厚生年金保険料を算出するわけです。
| 等級 | 報酬月額 | 標準報酬月額 |
|---|---|---|
| 1 | 0 〜 63,000 | 58,000 |
| 2 | 63,000 〜 73,000 | 68,000 |
| 3 | 73,000 〜 83,000 | 78,000 |
| 4 | 83,000 〜 93,000 | 88,000 |
| 5 | 93,000 〜 101,000 | 98,000 |
| 6 | 101,000 〜 107,000 | 104,000 |
| 7 | 107,000 〜 114,000 | 110,000 |
| 8 | 114,000 〜 122,000 | 118,000 |
| 9 | 122,000 〜 130,000 | 126,000 |
| 10 | 130,000 〜 138,000 | 134,000 |
| 11 | 138,000 〜 146,000 | 142,000 |
| 12 | 146,000 〜 155,000 | 150,000 |
| 13 | 155,000 〜 165,000 | 160,000 |
| 14 | 165,000 〜 175,000 | 170,000 |
| 15 | 175,000 〜 185,000 | 180,000 |
| 16 | 185,000 〜 195,000 | 190,000 |
| 17 | 195,000 〜 210,000 | 200,000 |
| 18 | 210,000 〜 230,000 | 220,000 |
| 19 | 230,000 〜 250,000 | 240,000 |
| 20 | 250,000 〜 270,000 | 260,000 |
| 21 | 270,000 〜 290,000 | 280,000 |
| 22 | 290,000 〜 310,000 | 300,000 |
| 23 | 310,000 〜 330,000 | 320,000 |
| 24 | 330,000 〜 350,000 | 340,000 |
| 25 | 350,000 〜 370,000 | 360,000 |
| 26 | 370,000 〜 395,000 | 380,000 |
| 27 | 395,000 〜 425,000 | 410,000 |
| 28 | 425,000 〜 455,000 | 440,000 |
| 29 | 455,000 〜 485,000 | 470,000 |
| 30 | 485,000 〜 515,000 | 500,000 |
| 40 | 810,000 〜 855,000 | 830,000 |
| 41 | 855,000 〜 905,000 | 880,000 |
| 42 | 905,000 〜 955,000 | 930,000 |
| 43 | 955,000 〜 1,005,000 | 980,000 |
| 44 | 1,005,000 〜 1,055,000 | 1,030,000 |
| 45 | 1,055,000 〜 1,115,000 | 1,090,000 |
| 46 | 1,115,000 〜 1,175,000 | 1,150,000 |
| 47 | 1,175,000 〜 1,235,000 | 1,210,000 |
| 48 | 1,235,000 〜 1,295,000 | 1,270,000 |
| 49 | 1,295,000 〜 1,355,000 | 1,330,000 |
| 50 | 1,355,000 〜 1,390,000 | — |
標準報酬月額決定のタイミングは?
標準報酬月額の決定は3つのタイミングで行なわれます。
資格取得時に決定する
標準報酬月額は従業員を雇用して、社会保険の被保険者資格を取得した時に行なわれます。しかし入社した時点では報酬は支払われていないため、1カ月あたりの報酬の見込み額を届け出ます。
その年の8月までは届け出た標準報酬月額を使い、9月以降は定時決定を行ないます。ただし6月1日以降に資格を取得し、随時改定にも該当しない場合は、翌年の8月まで資格取得時の標準報酬月額が使われます。
定時決定
定時決定はその年の4月から6月までの実際の報酬月額を基準にして、7月に毎年行います。
7月に行われた標準報酬月額の結果は9月から翌年8月まで適用されます。正社員の場合は、4月〜6月で17日以上勤務があった月の平均を使います。
随時改定
随時改定は基本給が大きく変わったときに、行なわれます。たとえば昇給があった場合は、3カ月査定期間があり、月平均額が2等級以上変動した場合に行なわれます。
3. 2026年度の社会保険料の変更点
子ども・子育て支援金の上乗せ徴収が始まった(2026年4月〜)
2026年4月から、子ども・子育て支援金の徴収が始まりました。少子化対策の財源として、医療保険(健康保険)の保険料に上乗せされる形で徴収される新たな負担です。
2026年度の拠出率は被保険者1人当たり標準報酬月額×約0.23%(事業主・被保険者の合計)です。社会保険料と同様に労使折半のため、事業主の負担は約0.115%相当となります。
| 標準報酬月額 | 月額負担合計(事業主+被保険者) | うち事業主負担(目安) |
|---|---|---|
| 20万円 | 約460円 | 約230円 |
| 30万円 | 約690円 | 約345円 |
| 40万円 | 約920円 | 約460円 |
| 50万円 | 約1,150円 | 約575円 |
従業員30名・平均標準報酬月額30万円の企業では、年間で約12.4万円(345円×12か月×30名)の追加負担となります。支援金率は2028年度までに段階的に引き上げられる予定(最終的に約0.4%)のため、今後の動向も注視が必要です。
雇用保険料率が引き下げられた(2026年4月〜)
2026年度(2026年4月〜2027年3月)の雇用保険料率は、2025年度から引き下げられました。
| 区分 | 2025年度 | 2026年度 |
|---|---|---|
| 一般事業(合計) | 1.45% | 1.35% |
| うち事業主負担 | 0.85% | 0.80% |
| うち被保険者負担 | 0.60% | 0.55% |
月給30万円の従業員の場合、事業主負担の雇用保険料は月2,550円(2025年度)→ 月2,400円(2026年度)と、月150円・年間1,800円の節減となります。子育て支援金の上乗せと合わせると、全体として社会保険料の構成が変わっているため、給与計算システムの設定更新も忘れずに確認しましょう。
4. 4〜6月の残業は本当に損なのか?
厚生年金保険の場合
厚生年金保険の標準報酬月額は31の等級に分かれており、始めの1等級は報酬月額が93,000円未満、31等級は605,000円以上がそれぞれ該当します。もし通常の報酬が月605,000円をすでに超えているのであれば、どんなに残業を増やしても標準報酬月額は報酬月額の範囲の上限である62万円から変わりません。それ以外の場合でも、通常の報酬に適用される等級から外れない範囲内でなら残業を増やしても損にはならず、むしろ報酬に対する保険料の割合は低下します。一方、残業して通常の報酬の等級よりも上の等級になってしまうと、4〜6月に働けば働くほど、本来の報酬から乖離してその1年間の保険料が高くなるので、損になります。したがって、厚生年金保険に関して言えば、4〜6月の残業で損になるかどうかは、通常の報酬額と残業による増額の程度次第で決まります。
ただし、従業員の立場から見れば、厚生年金保険料を多く払えば将来的に貰える金額も増えるので、短期的な観点と長期的な観点とでは、損得のありようも自ずと変わってくるでしょう。厚生年金受給額の計算は大変複雑ですが、「標準報酬月額×加入月数×0.55%」という式で簡易的に概算を出すことができます。ここでは仮に、通常の報酬は30万円ほどの従業員が、残業代の影響により、標準報酬月額が通常よりも2等級上の34万円になったというケースを想定してみましょう。この場合、厚生年金保険料は27,450円から31,110円となり、年間で43,920円の差となります。先ほどの式を用いて、この1年間だけを考慮した厚生年金受給額を計算すると、標準報酬月額30万円では19,800円、34万円では22,440円と、年額でおよそ2,500円の差が出ることになります。これを損とするか得とするかは、老齢年金をどれくらいの期間受給し続けられるかによるでしょう。なお、ここでの計算はあくまで厚生年金保険だけを検討したもので、健康保険や雇用保険は考慮に入れていない点に注意してください。
標準報酬月額が増えると受給額も増えるもの
社会保険により受給できるお金のなかで、厚生年金保険と同様、標準報酬月額が適用され、かつ支払った額に応じて受給額も増えるものが他にもいくつかあります。以下、その代表例を取りあげます(上限額や期間など詳細は別途確認してください)。
- 遺族厚生年金
支給年額は、「(平均標準報酬月額×125/1,000×平成15年3月までの加入月数+平均標準報酬額×5.481/1,000×平成15年4月以降の加入月数)×3/4」で求められます。式中の平均標準報酬月額とは、被保険者であった期間中の標準報酬月額の平均値のことで、平均標準報酬額は、期間中の標準報酬月額と賞与の合計額の平均値を指します。標準報酬月額が増えれば支給年額も増えるので、その分保障も手厚くなります。 - 傷病手当
支給日額は、「支給開始以前の12か月間の各月の標準報酬月額の平均×1/30×2/3」で求められます。こちらも式の通り、標準報酬月額が増えれば支給日額も増えます。 - 出産手当
支給日額は、「支給開始以前の12か月間の各月の標準報酬月額の平均×1/30×2/3」で求められます。こちらも同様に、標準報酬月額が増えれば支給日額が増えます。 - 育児休業給付金
支給日額は、6か月まで「休業開始時賃金日額×67/100」、6か月以降は「休業開始時賃金日額×50/100」で求められます。式中の休業開始時賃金日額とは、育児休業開始前6か月間の総支給額を180で除した値のことです。標準報酬月額と同様、賞与を除く残業代などの各種手当も考慮されるので、通常のケースでは標準報酬月額が増えれば支給日額も増えます。
本当に損なのか
結論として一概に損とは言えず、出費にどのような価値を見出すかにより結論も変わります。払うべき社会保険料が増えても、その代わりに貰える手当なども増えれば損していないと見ることもできます。逆に、特に手当などを貰う予定がなければ、等級を上げて社会保険料を多く払う事は損だと捉えることもできます。この際に大切であるのは、損か否かよりむしろ、どのようにコストとリターンを調整するか、将来的にどのような価値を期待するかと言えるでしょう。
5. 経営者・人事担当者が4〜6月に確認すべきポイント
4〜6月の残業が会社の社会保険料負担を増やす仕組み
標準報酬月額は従業員だけでなく、事業主(会社)側の社会保険料負担にも直結します。健康保険・厚生年金は労使折半のため、4〜6月の残業で従業員の標準報酬月額が1等級上がると、その差額分の保険料が会社の負担として翌年8月まで続きます。
例えば、月給30万円(等級22)の従業員が4〜6月の残業により平均報酬が32万円となり等級23に上がった場合:
| 項目 | 等級22(30万円) | 等級23(32万円) | 差額(月) |
|---|---|---|---|
| 厚生年金(会社負担) | 27,450円 | 29,280円 | +1,830円 |
| 健康保険(会社負担)※東京・協会けんぽ | 約14,820円 | 約15,808円 | +988円 |
| 月合計増加 | — | +2,818円 | |
| 年間影響(12か月) | — | +33,816円 | |
残業代の支払いに加え、社会保険料の事業主負担も増えることを踏まえた人件費管理が重要です。2026年度からは子育て支援金も加わるため、従業員の標準報酬月額上昇による会社の総コスト増は以前より大きくなっています。
繁忙期シフトの見直しと年間平均活用のすすめ
会社側の対策として以下が考えられます。
- 繁忙期を4〜6月から外す 可能であれば、残業が集中する繁忙期を7月以降にシフトすることで、標準報酬月額の上昇を抑え、翌年8月まで続く会社負担増を回避できます。
- 年間平均での標準報酬月額算出(特例)を申請する 4〜6月の報酬が業務上の繁忙期により年間平均と2等級以上乖離する場合、年間平均特例を申請することで、標準報酬月額の不当な上昇を防ぐことができます。申請には被保険者の同意と所定の書類が必要です。
- 社労士・税理士に相談する 給与体系や社会保険料の最適化については、社会保険労務士や税理士に相談することで、法令を遵守しながら効果的な対策を検討できます。
☆ヒント
4〜6月の残業と社会保険料の関係は、従業員個人だけでなく会社の人件費にも大きく影響します。2026年度からは子育て支援金の上乗せも加わり、社会保険料の仕組みはさらに複雑になっています。給与計算の見直しや標準報酬月額の適正管理については、ビスカスが紹介する社会保険労務士・税理士にお気軽にご相談ください。
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4月〜6月は残業しないほうが税金が安くなると聞くけど本当?【フリーランスの税金】|3分でわかる!税金チャンネル
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まとめ
4〜6月に残業すると損するというのは、社会保険の一面しか見ていない意見です。本来の目的や総合的な利益を見失わないよう、社会保険料が増えても残業するのか、今は多く払っても後から多く貰うのかなど、多面的に判断することが重要です。
また、2026年4月からの主な変更点として以下の2点を押さえておきましょう。
- 子ども・子育て支援金の徴収開始:標準報酬月額×約0.23%(労使折半)が健康保険料に上乗せ。支援金率は2028年度に向けて段階的に引き上げられる予定です。
- 雇用保険料率の引き下げ:一般事業の合計料率が1.45%→1.35%に。事業主負担分は0.85%→0.80%となりました。
経営者・人事担当者は毎年4〜6月の標準報酬月額の変動を意識した人件費管理を行い、必要に応じて年間平均特例の活用や繁忙期シフトの見直しを検討してください。社会保険に関する複雑な判断や給与計算の見直しについては、社会保険労務士(社労士)・税理士への相談をおすすめします。
東京大学卒。現、同大学院所属。
不動産投資に長らく関わっており、不動産に関する税制や相続が得意分野。
税理士事務所でアルバイトとして従事。
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