貿易取引が「安定して稼げる」理由と注意すべきこと

貿易取引が「安定して稼げる」理由と注意すべきこと

2019/9/5

 
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「貿易取引は、これからも安定して収益の出せる事業であると、私はお勧めします」。大手銀行で海外支店勤務の経験を持ち、電機メーカーでも十数社の海外子会社の経理、財務などの統括管理に携わっていた笹井潤一先生(笹井会計事務所)はそう言います。その成長性の源泉は、どこにあるのでしょうか? 気をつけるべきポイントと併せて、うかがいました。

強みは「競合が少ないこと」

先生のお客さまには、海外取引で利益を上げている会社がけっこうあると聞きました。国内事業に比べて、リスクが大きいようにも感じるのですが。
確かに、リスクはあります。でも、「貿易立国」とはよく言ったもので、南蛮貿易以来、現在の貿易商社まで、日本はそれで稼いできました。その基本的な環境は、これから100年たっても、まず変わることはないと私は考えています。そして、中小、零細企業であっても、その恩恵に浴することは可能なのです。
そう考える理由は?
単純な話で、「日本のいいモノは海外で売れる」「日本にない安くて良いモノを輸入すれば日本で売れる」。そのメカニズムは変わらないと思うのです。輸出に関して言えば、例えば日本の農産物は、品質の高さが折り紙付きです。化粧品や日用品なども、評価が高い。日本車も、性能や耐久性で、他の追随を許しません。「いいモノ」がいくらでもあるわけです。ですから、クライアントには、「できるのならば、貿易をやったほうがいい」と話します。
その「できるのならば」という条件は、具体的にどういうことになるのでしょうか?
1つは相手方と通じる「言葉」です。日本語でも現地語でも構いません。さらに大事なのが、相手国との良好なリレーションと信頼関係ですね。輸出の場合には、向こうにちゃんとしたキャッチャーがいること。輸入では、ピッチャーがしっかりしていること。両方自分でやるというのも可能ではありますが、自社製品を売ろうと現地に行ったとしても、どこに売ったらいいのかわからなければ、手も足も出ないでしょう。言葉がわかっただけではダメで、現地にいいパートナーが要るのです。
けっこう高いハードルにも感じられます。
実は、そこが貿易取引の要点で、だからこそ「誰にもできる」というものではないんですね。裏を返せば、要件を満たしさえすれば、競合は少ない。国内の商売のように、価格競争に巻き込まれるリスクは、ほぼないと言っていいでしょう。

取引は「薄く広く」が基本

なるほど。メリットはよくわかりました。では、首尾よく取引が始められたとして、その後、特に注意すべき点があれば、教えてください。
消費税の「輸出免税」、すなわち「輸出のための仕入れ商品などに課せられた消費税は、税務署に申告すれば還付される」という仕組みについては、みなさんご存じなのですが、申告書には税務署が点検を行う際に、なるほど、と確認の取れる資料を添付するか否かで、税務署の対応も変わってくるんですよ。ちょっと宣伝みたいになりますが、普通は2~3ヵ月はかかる還付までの時間は、当事務所の場合は1ヵ月程度が標準です。
そういうところに、貿易取引のノウハウを持つ事務所とそうでないところの差が出る、ということですね。
他にも実際の貿易で問題になるのが、1つは「インコタームズ」です。簡単に言えば、貿易の取引条件。例えば、輸入の場合、荷物は相手国の税関を通過してから船に乗せられ、日本に着いてからさらに税関を通る、という経路を辿って到着します。このルートの、どこで荷物を受け取るのか? 相手国の港渡しか、日本の港か、あるいは日本の通関(税関を通過すること)手続きを済ませ、工場まで持ってきてくれるのか、という条件をあらかじめ決め、契約する必要があるわけです。基本的に、相手側はこちらに商品を渡すまで、輸送に関する責任を負わなくてはなりません。これにより輸送コストや保険コストも変わりますし、日本側でどこまで手配しなければいけないかも変わります。当然、相手側が負うリスクが高いほど、相手に支払う金額も高くなります。
ひと口に貿易と言っても、商品の受け渡しにはいろいろなやり方があるわけですね。
そうなんですよ。もう1つ、間違いやすいものに「アンダーバリュー」があります。これも簡単に説明すると、商品の価格を意図的に下げて、関税や輸入の際の消費税を低く抑えようとする行為のことで、要するに脱税です。

ところが、その意図はないのに「アンダーバリュー」とみなされてしまうケースがあるのです。注意したいのは、輸入して販売した機械部品が故障したので修理してもらいたい、という依頼が来た。そこで、いったん輸入元に送って(輸出して)直してもらうことにした――というようなケース。

この場合、輸出価格は、部品の正規の価格から修理費だけを引いた金額にするのが原則なんですね。「壊れているのだから」と、スクラップ価格で輸出しようとすると、引っかかる恐れがあるわけです。まあ、細かなことなのですが。
とはいえ、知らずに税関の調査が入り、ペナルティを課せられる可能性がないとは言えない気がします。
その他、海外の売掛金回収には注意が必要になります。回収は、国内でも大変なのですが(笑)、貿易は回収期間が長い。船便だと、場所にもよりますが、複数の寄港地があって、運ぶだけで1ヵ月以上かかることが珍しくありません。しかも、「海外の売掛金」ですから、いったん滞ったりすると、海外の相手方と交渉して回収することが厳しい状況になりやすいのです。ですから、私は、危ないと感じたら、「会社の体力と相談して、あまり1つの会社と大口契約せずに、できるだけ分散しましょう」とアドバイスします。

それでも、トラブルになることはあります。いざというときの訴訟地は、絶対に日本にしておくべき。これも契約書を作るときの鉄則です。
そうしておかないと、どんな事態になるのでしょう?
すでに貿易をしていた社長から、相談を受けたことがあります。アメリカの会社の生産する製品を、日本国内の独占販売契約を結んで売っていたんですね。ところが、製造元が「日本での独占販売権を他社に乗り換える」と、一方的に通告してきた。相手の契約違反は明白です。「勝てる戦」だと直感した私は、契約書を見て愕然となりました。訴訟地がアメリカになっていたのです。

こうなると、まず難しい。なぜなら、相手国で、相手国の裁判のやり方に合わせて、訴状やその他のやり取りをその国の言語で行わなくてはならいからです。それを国際弁護士に頼んだら、相当な出費を覚悟しなくてはなりません。結局、泣く泣く僅かな和解金で手を引くしかありませんでした。もし訴訟地を日本にしていたら、相手方が相当な不利になりますから、契約続行か、損失に相当する賠償金の支払いが勝ち取れていたはずです。
まさに天国と地獄ですね。メリットの大きい貿易取引ですが、大きな痛手を負わないためにも、ちゃんとした専門家にサポートを頼むのがいいように感じます。
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