相続人以外の人物がキーマンに
そんな相続もある

相続人以外の人物がキーマンに  そんな相続もある

2019/11/20

 
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親族でありながら「他人」の嫁と姑。その関係がこじれるのは、特段珍しいことではありません。しかし、ただでさえデリケートな問題が山積の相続に、その関係が持ち込まれたら……。税理士法人アクトライズの松尾基宏先生が依頼を受けたのは、そんな八方ふさがりにみえる案件。状況を打開するのに貢献したのは、「相続人以外の人」、「親族同士の意外なつながり」でした。

「あの子たちには、びた一文渡さない」

長年相続に携わっていると、家族、親族のあり方は、本当に千差万別なのだということを実感させられます。例えば、こんな相続がありました。

高齢の男性が亡くなって発生した相続です。相続人は、妻と次男、そして長男の子ども、被相続人(亡くなった人)から見て孫2人の計4人でした。この時、長男はすでに他界していました。こうした場合、代襲相続と言って、その子どもが相続の権利を引き継ぐのです。

さて、問題は、相続人であるお婆ちゃんと長男のお嫁さんが犬猿の仲で、特に長男の死後は絶縁状態にあったこと。お婆ちゃんは、「嫁のほうには、1円も渡したくない」と言うわけです。

「長男の嫁」は相続人ではないから関係ありませんが、今説明されたように孫には相続の権利があります。
実は、この案件は、仕事関係でお付き合いのあった、次男の長女の方から相談されて、引き受けたんですよ。「親たちが揉めそうなので、何とかしてくれませんか」と。ちなみに、この方も、相続人ではありません。

依頼を受けて、まずお婆ちゃんと次男に会って話を聞いたのですが、特に次男の方は、甥っ子たちに対してカンカンに怒っていて、「父親の財産を相続させるなどもってのほか。顔も見たくない」という状況でしたね。2人の孫は、お爺ちゃんの葬儀にも出なかったそうなのです。

遺産はどれくらいあったのでしょうか?
自宅のほかに不動産、といっても「負の資産」に近い山林や田畑と、預貯金が2000万円、合わせて5000万円程度でした。正直、目の色を変えて奪い合う、という遺産ではなかったのです。

渡したくない。でも無視はできない

とはいえ、なんとか話をまとめなくてはなりません。困りましたね。
次男さんサイドがいくら「顔も見たくない」といっても、孫たちが正式な相続人である以上、彼らを無視して遺産を分けることはできません。相続人で話し合ったうえで、全員が署名、捺印した遺産分割協議書を作成しないと、不動産の名義変更はできないし、被相続人名義の銀行預金を引き出すこともできないのです。私は、率直に「取り分がゼロでは、私でも納得しないと思いますよ」という話もしました。

それでも態度は頑ななうえに、そもそも音信不通状態なので、彼らの連絡先もわからないわけです。困り果てていたのですが、そこに予想外の糸口が見つかりました。私にこの案件を依頼した次男の長女と、相続人である孫たちが、いとこ同士LINEでつながっていたのです。

なるほど。親同士は喧嘩状態だったけれど、その子どもたちの関係は、壊れてはいなかったわけですね。
そこで、長女の方からいとこたちに連絡してもらい、私が次男の方の代理人として、会いに行ったのです。話してみると、彼らは彼らで「どうして直接おじさんが来ないのか」という対応でしたね。一方で、叔父に対しては「怖い」という感情も抱いていたようで、お爺ちゃんの葬儀に出なかったのも、「怒られそうだ」という気持ちがあったからなのでした。
そのへんは、なんとも複雑な感情と言うしかないですね。結局、どのような落としどころになったのでしょう?
先ほども説明したように、遺産の不動産は、売買も困難な山林と田畑です。一部でも相続すれば、周囲との「田舎の付き合い」も必要になります。孫たちには、これも率直に「この不動産をもらった場合には、こういうことが考えられますよ」という話をしたんですよ。紆余曲折はあったのですが、最終的には、現金部分2000万円の法定相続分(※)である1/8=250万円ずつを受け取ることで、納得してくれました。

「1円もやらない」と言っていたお婆ちゃん、次男にとっても大きな妥協ではありました。ただ、いくら断絶状態といえども、相続になったら「あの人たちは関係ない」という話は通らないのです。

今回のケースでは、相続人ではないにもかかわらず先生にサポートを依頼した、次男の長女の方の存在が大きかったですね。裏を返すと、彼女がいなかったらどうなっていたかわかりません。
そうですね。まあ、相続のためにとは言いませんが、親族同士、最低限のコミュニケーションを維持していることが大事だと思います。そうでないと、いざという時に困った事態に陥ってしまうかもしれません。
※法定相続分
民法に定められた、各相続人の遺産の取り分。この場合は、配偶者が1/2、長男、次男は1/4ずつ。長男は亡くなっているので、代襲相続したその子ども2人が1/8ずつとなる。
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