相続税の延納とは?基本の仕組みと物納との違い
延納とは、相続税を一括で納付することが困難な場合に、税務署長の許可を得て年賦(毎年分割)で納める特例制度です(相続税法第38条)。本来、相続税は相続開始を知った日の翌日から10か月以内に一括納付するのが原則ですが、一定の要件を満たせば最長20年にわたる分割払いが認められます。ただし、延納期間中は元本に加えて「利子税」の負担が生じます。
延納と混同されやすい「物納」との違いも押さえておくことが重要です。物納は、延納でもなお金銭納付が困難な場合に限り、不動産や有価証券などの財産そのもので相続税を納める制度です。物納は延納以上に厳格な要件が課されており、あくまでも最終手段と位置づけられています。
延納と物納の違い
| 延納 | 物納 | |
|---|---|---|
| 内容 | 現金による年賦(分割払い) | 財産そのもので納税 |
| 位置づけ | 一括納付困難な場合の特例 | 延納でも困難な場合の最終手段 |
| 利子税 | あり(現行:年0.1〜0.7%程度) | 物納財産の収納価額で充当 |
| 延納・収納期間 | 最長5〜20年(不動産等割合による) | - |
| 優先順位 | 一括納付の次 | 延納の次(最終手段) |
延納申請の4つの要件
延納を申請するには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。①相続税額が10万円超、②金銭での一括納付が客観的に困難、③納期限までに申請書類を提出、④担保の提供(一定額以下は不要)の4点が柱です。1つでも欠けると延納は認められないため、事前の確認が不可欠です。
①相続税額が10万円を超えていること
延納を申請する相続人本人の納税額が10万円を超えていることが最低条件です。家族全体の相続税合計額ではなく、申請者個人の納税額で判定されます。10万円以下の場合は延納を利用できません。
②金銭での一括納付が客観的に困難であること
「困難」の判断は、相続財産だけでなく申請者自身の既存の預貯金・有価証券も含めて審査されます。生活費3か月分や事業の運転資金など必要最低限は考慮されますが、それを超える手元資金がある場合は延納が認められません。「手元にお金はあるが分割にしたい」といった自己都合による申請は却下対象です。
例:相続税が2,000万円でも、申請者に預貯金2,500万円があれば「一括納付可能」と判断され、延納は認められません。
③延納申請書と担保提供書類を納期限までに提出すること
申請期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内で、相続税の申告・納付期限と同じです。1日でも遅れると受理されず、再申請もできません。担保関係書類が間に合わない場合は「担保提供関係書類提出期限延長届出書」を提出すれば、1回3か月・最長6か月の延長が可能です。ただし、延納申請書本体は必ず納期限内に提出してください。
④延納税額と利子税に相当する担保を提供すること
延納税額が100万円以下かつ延納期間が3年以下の場合は担保不要ですが、それ以外は担保提供が必須です(相続税法第38条)。担保として提供できる財産は以下に限られます。なお、相続財産だけでなく申請者の固有財産・第三者の財産も担保にできます(第三者は承諾が必要)。
担保として認められる財産:
- 国債・地方債
- 税務署長が確実と認める社債・有価証券
- 土地
- 建物・立木・登記される船舶など(保険付保が条件)
- 鉄道財団・工場財団などの財団
- 税務署長が確実と認める保証人の保証
一方、以下は担保として提供できません。担保不適格の財産を提示すると申請が却下されるため、注意してください。
- 法令上、担保権の設定・処分が禁止されている財産
- 相続人間で所有権を争っている財産
- 共有財産の持分(共有者全員が持分全部を提供する場合を除く)
- 売却できる見込みのない財産
- 担保存続期間が延納期間より短いもの

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
-
相続税の延納制度は、誰でも簡単に利用できる制度ではなく、「金銭納付が困難である」と認められる必要があります。
ここで注意したいのは、相続した財産だけでなく、ご自身が保有している預金や有価証券も審査対象になる点。また、生活費や事業経費を計算することも明示されており、納税後の資金繰りも考慮する必要があります。
申請の結果、許可された延納額が想定より少ないと、不足分を手元資金で補うことになり、生活に影響を及ぼすこともあります。こうしたリスクを避けるためにも、まずは早めに専門家へ相談し、延納が認められる見込み額や支払計画を具体的にシミュレーションしておくことが大切です。
延納以外の方法も含めて事前の検討を十分に行い、納税への負担を最小限に抑えましょう。 - 鈴木洋輔税理士事務所
所長 鈴木 洋輔
延納期間と利子税の一覧(国税庁準拠)
延納期間と利子税は、相続財産の中に占める「不動産等の価額の割合」によって区分されます。不動産等の割合が高いほど延納期間が長く(最長20年)、利子税率は低くなります。逆に不動産等の割合が50%未満の場合は最長5年、利子税率は高い区分となります。なお「不動産等」には、不動産・立木・事業用の減価償却資産・特定同族会社の株式および出資が含まれます。
下表は国税庁「No.4211 相続税の延納」をもとにした早見表です。
| 区分 | 対象 | 延納期間 (最高) |
延納利子税割合 (年割合) |
特例割合※ (現行) |
|---|---|---|---|---|
| 不動産等の割合 75%以上 |
①動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.6% |
| ②不動産等に係る延納相続税額(③を除く) | 20年 | 3.6% | 0.4% | |
| ③森林計画立木(割合20%以上)に係る延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.1% | |
| 不動産等の割合 50%以上75%未満 |
④動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.6% |
| ⑤不動産等に係る延納相続税額(⑥を除く) | 15年 | 3.6% | 0.4% | |
| ⑥森林計画立木(割合20%以上)に係る延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.1% | |
| 不動産等の割合 50%未満 |
⑦一般の延納相続税額(⑧⑨⑩を除く) | 5年 | 6.0% | 0.7% |
| ⑧立木(割合30%超)に係る延納相続税額(⑩を除く) | 5年 | 4.8% | 0.5% | |
| ⑨特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額 | 5年 | 4.2% | 0.5% | |
| ⑩森林計画立木(割合20%以上)に係る延納相続税額 | 5年 | 1.2% | 0.1% |
※特例割合は令和7年1月1日現在の延納特例基準割合(0.9%)で計算しています。延納特例基準割合は毎年変動するため、申請時に所轄税務署または国税庁「No.4211 相続税の延納」で最新値を確認してください。
特例割合の計算式
延納特例基準割合が7.3%を下回る場合(現在はその状況)、実際の利子税は以下の「特例割合」で計算されます。
(0.1%未満の端数は切り捨て。計算結果が0.1%未満の場合は年0.1%)
【計算例】不動産等75%以上・不動産等に係る税額(②)の場合
3.6% × 0.9% ÷ 7.3% = 約0.4%(年)
利子税は延納期間中に固定金利で適用されます。各分納期間ごとに、その期間の開始年の延納特例基準割合をもとに割合が確定します。なお利子税は所得税の経費とはなりません。
繰上返済と延納条件の変更
延納許可後に資金に余裕ができた場合、残額を一括で繰り上げ返済することができます。残余の利子税を節約できるため、経済状況が改善した際は積極的に検討してください。また、経済状況が悪化した場合も、申請により延納条件(分納額・期間)の変更が認められる場合があります。さらに、申告期限から10年以内であれば、分納未到来の税額部分について延納から物納へ切り替える「特定物納制度」も利用できます。
延納の申請手続きと必要書類
申請期限は相続税の納期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)と同じです。書類不備・担保選定ミス・期限超過が主な却下原因のため、相続開始直後から税理士と連携して準備を進めることが重要です。審査期間は原則3か月以内で、担保評価等に時間がかかる場合は最長6か月となります。
申請の流れ
- 延納計画の検討(相続開始直後):相続税額・不動産等の割合・担保候補財産を確認し、延納期間と利子税のシミュレーションを行う。銀行借入との総コスト比較も必ず実施してください。
- 申請書類の準備:「相続税延納申請書」「金銭納付を困難とする理由書」「担保提供関係書類」を作成。自己資金・相続財産の状況を具体的な数値で示し、相続税申告書との数値整合を確認する。
- 税務署へ提出(納期限=10か月以内):申請書一式を提出。担保書類が間に合わない場合は「担保提供関係書類提出期限延長届出書」を同時に提出して期限を延長する。
- 審査・追加資料への対応:提出期限の翌日から3か月以内(最長6か月)に許可または却下が通知される。税務署から追加資料の要請があった場合は速やかに対応してください。
- 分割納付の開始:許可通知書記載のスケジュールに従い、毎年の分納税額と利子税を期限内に納付する。分納を滞納すると延納許可取消の原因となります。
必要書類一覧
| 書類名 | ポイント・注意点 |
|---|---|
| 相続税延納申請書 | 延納申請税額・分割回数・納付スケジュールを記載。申告書の数値と整合させること。 |
| 金銭納付を困難とする理由書 | 相続財産・申請者の自己資産・生活費等を具体的数値で記載。住宅ローン・教育費等は領収書等の根拠書類も添付する。 |
| 担保目録及び担保提供書 | 担保財産の種類・価額・所在地を明記。評価額が延納税額を下回ると追加担保を求められる。 |
| 担保提供関係書類 | 不動産:登記事項証明書・固定資産税評価証明書・抵当権設定登記承諾書等。有価証券:供託書正本等。担保の種類によって異なる。 |
申請でよくあるミスと対処法
期限超過:延納申請は1日でも遅れると受理されません。「納付困難」と判断した時点で、相続開始直後から準備を始めてください。
「納付困難」の誤解:税務署は申請者の既存の預貯金・有価証券も含めて審査します。必要最低限を除いた手元資金で納税可能と判断されると却下されます。「相続財産では足りないが自分の貯蓄で補える」という状況では延納は認められません。
担保の選定ミス:共有持分のみの不動産・争いのある財産・法律上担保設定が禁止されている財産は担保不適格です。担保評価額が延納税額を下回る場合も却下されるため、余裕を持った評価額の財産を選んでください。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
-
延納を申請する際、担保として提供できる財産には審査があり、想定していた資産だけでは不足する場合があります。申請した担保について、評価額が不足したり、適格でないと判断されると、追加の担保を求められ、希望している担保の範囲で収まらないケースもあります。
また、延納の審査には時間がかかるため、審査結果に満足できず延納を諦めてから不動産等の売却を検討しても、納税期限に間に合わないことがあります。急いで売却を進める場合、売り急ぎと見なされ、買い手に足元を見られて相場より低い価格で売却を迫られるリスクもあります。
こうしたリスクを回避するためには、延納と一括納付の両方のケースを想定し、資産売却による資金確保も視野に入れてスケジュールを組むことが大切です。 - 鈴木洋輔税理士事務所
所長 鈴木 洋輔
延納が難しい場合の代替手段
延納の要件を満たせない、または申請が却下された場合でも選択肢はあります。物納・金融機関からの借入・資産の一部売却の3つが主な代替手段です。いずれも早期の検討が重要で、納期限ぎりぎりに動き始めると選択肢が狭まります。
物納
物納は、延納でもなお金銭納付が困難な金額について、不動産や有価証券などの財産そのもので相続税を納める制度です。延納以上に厳格な要件があり、提供できる財産の種類・順位も法令で定められています。延納と物納は互いに移行できる場面もあるため(特定物納制度を含む)、セットで検討してください。
金融機関からの借入
現在の延納利子税の特例割合(年0.1〜0.7%程度)と、銀行の相続ローン金利を必ず比較してください。不動産を担保にした借入であれば、相続財産を売却せずに納税資金を確保できる場合もあります。手続きの煩雑さや担保財産への制約を踏まえると、総支払額で借入の方が有利なケースも少なくありません。
資産の一部売却
換金しやすい不動産や株式がある場合、早期売却で納税資金を確保するのが最もシンプルな方法です。相続開始日の翌日から申告期限の翌日以後3年以内に相続した不動産を売却した場合は「取得費加算の特例」を活用でき、譲渡所得税を軽減できます。延納や物納の手続きが煩雑に感じられる場合は、先にこの選択肢を検討してみてください。
まとめ
相続税の延納について、重要ポイントを整理します。
- 延納の4要件:①税額10万円超、②金銭一括が客観的に困難、③納期限(10か月)以内に申請書提出、④担保の提供(100万円以下・3年以内は不要)
- 延納期間と利子税:不動産等の割合75%以上なら最長20年・特例割合0.4%、50%未満なら最長5年・特例割合0.7%(令和7年1月1日現在)
- 申請期限は厳守:相続開始から10か月以内。1日でも過ぎると申請不可・再申請もできない
- 代替手段は早めに検討:物納・金融機関借入・資産売却のいずれも、納期限ぎりぎりに動き始めると選択肢が狭まる
延納の審査は厳格で、申請書類の準備も複雑です。認められる見込み額のシミュレーションや担保財産の選定を含め、相続開始直後から相続に強い税理士に相談することをお勧めします。
相続税の延納に関するよくある質問(FAQ)
相続税の延納とは何ですか?
相続税を一括で納付できない場合に、税務署長の許可を得て最長20年の年賦(毎年分割)で納める特例制度です。延納期間中は利子税がかかります。
延納を申請するための要件を教えてください。
①相続税額が10万円超、②金銭での一括納付が客観的に困難、③相続税の納期限(相続開始から10か月)以内に申請書類を提出、④延納税額に相当する担保を提供(100万円以下・3年以内は不要)の4つをすべて満たす必要があります。
延納できる期間はどのくらいですか?
相続財産に占める不動産等の割合によって異なります。不動産等の割合が75%以上なら最長20年、50%以上75%未満なら最長15年(不動産等分)、50%未満なら最長5年です。
利子税はどのくらいかかりますか?
延納特例基準割合(令和7年1月1日現在は0.9%)をもとに計算した特例割合が適用されます。現行では不動産等に係る税額で年0.4%、一般の税額で年0.7%程度です。毎年変動するため、申請時に最新値を確認してください。
延納の申請期限はいつですか?
相続開始を知った日の翌日から10か月以内(相続税の申告・納付期限と同じ)です。1日でも遅れると受理されず、再申請もできません。
手元に預貯金があっても延納を申請できますか?
申請者の既存の預貯金・有価証券も審査対象に含まれます。生活費等の最低限を除いた手元資金で納税可能と判断された場合は延納が認められません。延納できるのは「客観的に一括納付が困難」な場合に限ります。
担保が用意できない場合はどうなりますか?
延納税額が100万円以下かつ延納期間が3年以下の場合は担保不要です。それ以外で担保を用意できない場合、原則として延納は認められません。自己財産だけでなく第三者の財産も担保として使えます(承諾が必要)。
延納中に担保財産を売却できますか?
担保に入れた財産の処分には事前に税務署の承認が必要です。売却代金で未納額を全額清算するか、代わりの担保を提供するかを選択します。無断売却は延納許可取消の原因となります。
延納の審査期間はどのくらいですか?
延納申請書の提出期限の翌日から原則3か月以内に許可または却下が通知されます。担保評価等に時間がかかる場合は最長6か月まで延長されます。
延納途中で繰上返済はできますか?
できます。残額を一括返済すれば残余の利子税を節約できます。申請により期間短縮を認めてもらう手続きが必要です。また、申告期限から10年以内であれば延納から物納への切り替え(特定物納)も可能です。
延納が認められなかった場合はどうすればよいですか?
物納(財産そのもので納税)・金融機関からの借入・相続財産の一部売却の3つが主な代替手段です。納税期限が迫ってからでは選択肢が狭まるため、却下の通知を受けたら速やかに税理士に相談してください。
