相続財産のトラブルは「分けにくい財産」と「相続人の事情」が重なって起きる
相続財産の争いは、大きく2つの要因が重なったときに起きます。
ひとつは財産が分けにくいこと。自宅などの不動産が財産の大半を占めたり、自社株や受取人の偏った生命保険が含まれていると、きれいに分けられず取得額に差が生じます。
もうひとつは相続人側の事情です。特定の人だけが生前贈与を受けていた、介護の負担が偏っていた、前妻の子や疎遠な親族がいる、相続人に認知症の人がいる、同居の相続人に預金の使い込みを疑う声が出る、といった感情や利害の対立がきっかけになります。
令和6年の司法統計でも、家庭裁判所が扱う遺産分割の争いは高い水準で推移しています。遺言がなければ相続人全員による遺産分割協議が必要で、1人でも合意しなければ預金の引き出しも不動産の名義変更も進められません。だからこそ、争いが起きてからの解決よりも、財産の全体像の把握・遺言・生前の話し合いといった「起きる前」の対策が要になります。
相続財産をめぐる代表的なトラブルと、税理士が教える防ぎ方
相続財産のトラブルは、家庭ごとに事情が異なり、法律だけでなく税金や感情も複雑に絡む点が特徴です。ここからは、相続の現場で実際に多い相談をもとに、監修税理士に、揉める原因と防ぎ方を伺います。
相続財産をめぐるトラブルは、どんな家庭で起きやすい?
質問: 相続でもめるのは資産家の家庭だけというイメージがあります。実際はどうなのでしょうか?

末永 寛先生
もめやすいのは、むしろ財産が自宅不動産中心で相続財産が少なめな「普通の家庭」です。令和6年の司法統計でも、裁判所で決着した遺産分割事件のうち遺産額5,000万円以下が約4分の3を占めます。理由は、財産の大半が自宅など分けにくいもので占められ、現金でならすことが難しいからです。現場でも「財産は実家と少しの預金だけ。だから揉めるはずがない」とおっしゃる方ほど、いざ分割の段になって兄弟の主張が食い違うケースをよく見ます。額の多寡ではなく、「きれいに分けられるか」で危険度を測ってください。
遺産の大半が不動産だと、なぜ揉めやすい?
質問: 主な財産が自宅の土地建物です。子ども3人でどう分ければトラブルを避けられますか?

末永 寛先生
不動産は物理的に切り分けられず、誰か1人が受け取ると他の相続人との差が一気に開くため、争いの火種になりやすい財産です。代表的な解決策は3つあります。取得した人が他の相続人へ現金を払う「代償分割」、売って現金で分ける「換価分割」、共有にする方法です。ただし共有は、売却や建て替えに全員の同意が要り、次の代で権利者が増えて動かせなくなる「塩漬け」を招くため、実務ではおすすめしていません。代償分割を選ぶなら、支払う側にその資金があるかを生前に確認しておくことが欠かせません。評価額そのものでも意見が割れやすいので、早い段階で不動産の目安評価を出しておき、相続人間で相続財産の状況を共有ておくと話し合いが進めやすくなります。評価額そのものでも意見が割れやすいので、早い段階で不動産の目安評価を出しておき、相続人間で相続財産の状況を共有ておくと話し合いが進めやすくなります。
生前贈与や生命保険金の偏りは、トラブルのもとになる?
質問: 長男にだけ住宅資金を援助し、生命保険の受取人も長男にしています。問題になりますか?

末永 寛先生
特定の相続人だけが生前に多くを受け取っていると、他の相続人が不公平を感じ、争いに直結します。住宅資金などの贈与は「特別受益」として、遺産分割で持ち戻して計算される場合があります(民法903条)。生命保険金は受取人固有の財産で原則は遺産分割の対象外ですが、金額が遺産に比べて極端に大きいと、例外的に持ち戻しの対象と判断された裁判例もあります。税金面では、2024年以降、亡くなる前の贈与を相続財産に加算する期間が3年から7年へ段階的に延びており、贈与のタイミングによる節税効果にも影響します。贈与するなら、契約書で記録を残し、なぜその配分にするのかを家族に伝えておくことが何よりの予防策です。
親を介護した相続人は、遺産を多くもらえる?
質問: 私が同居して母を介護してきました。相続で多めにもらうことはできますか?

末永 寛先生
介護の貢献は「寄与分」として上乗せが認められる可能性はありますが、実際のハードルは高いのが現実です。寄与分(民法904条の2)が認められるのは、通常の親族の助け合いを超える「特別の寄与」があった場合に限られ、金額の評価でも意見が割れます。相続人でない長男の妻などが介護した場合は、2019年施行の「特別寄与料」(民法1050条)を相続人へ請求できる仕組みもできました。現場では、介護した側の「これだけやったのに」という思いと、他の相続人の「親の家にタダ同然で住めていたはず」という反発がぶつかり、感情面から長期化しがちです。このような事態を避けるためには、介護の記録を残しつつ、被相続人が元気なうちに遺言で報いる形にしておくのが最も確実です。
遺言書があれば、相続財産のトラブルは防げる?
質問: 遺言書さえ書いておけば、遺産分割で揉めることはなくなりますか?

末永 寛先生
遺言書は最も有効な予防策ですが、書き方を誤るとかえって火種になります。兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」という最低限の取り分があり(民法1042条)、これを侵害する内容だと、不足分をお金で請求する「遺留分侵害額請求」(民法1046条)を起こされます。なお2019年の改正で、かつての「遺留分減殺請求」から金銭で精算する制度に変わっており、古い解説を参考にすると誤ります。実務で効くのは、遺留分に配慮した配分にしたうえで、「なぜこう分けたか」という想いを付言事項として残すことです。自筆の遺言は保管場所が分からず見つからない事故も多いため、公正証書遺言や法務局の自筆証書遺言保管制度を使うと安心です。
相続財産のトラブルは、税理士と弁護士のどちらに相談すべき?
質問: 相続でもめそうなとき、税理士と弁護士のどちらに相談すればよいですか?

末永 寛先生
すでに相続人同士が対立しているなら弁護士、揉める前の備えと財産・税金の整理なら税理士が適任です。交渉や調停で相手方とやり取りする紛争解決は、弁護士だけができる領域です。一方、財産の全体像を把握する財産目録づくり、不動産や自社株の評価、分け方による相続税額のシミュレーション、納税資金の確保といった「争いを未然に防ぐ設計」は税理士の得意分野です。現場では、分割方法しだいで相続税が数百万円単位で変わることも珍しくなく、感情論になる前に数字で選択肢を示すと、話し合いがまとまりやすくなります。どちらか一方に絞るのではなく、状況に応じて両者を使い分けるのが賢い進め方です。
まとめ
相続財産のトラブルは、不動産への偏り、生前贈与や保険の偏り、介護の寄与、遺言の不備など、どの家庭にも起こり得る事情から生まれます。共通する防ぎ方は、財産の全体像を早めに把握し、遺留分に配慮した遺言と生前の話し合いで「分け方」を先に決めておくことです。相続財産センターでは、1995年の創業以来培ったご紹介データをもとに、相続に強い税理士を無料でご紹介しています。財産評価や分割の見通し、納税資金の相談まで、争いになる前の備えをお手伝いします。