相続税で税理士が必要かは金額ではなく財産の中身で決まる
国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、亡くなった方1,605,378人のうち相続税の申告書提出に至った被相続人は166,730人、課税割合は10.4%でした。約9割は申告そのものが不要です。一方で、申告した人の86.5%には税理士が関与しています(財務省「令和6事務年度 国税庁実績評価書」)。つまり「申告が必要な段階まで来た人は、ほとんどが専門家を使っている」というのが実態です。判断で押さえるべきは、相続税の手続きが「申告不要」「税額ゼロだが申告は必要」「税額あり」の3段階に分かれること、そして自力申告が現実的なのは財産が預貯金中心で名義や贈与の論点がない場合に限られることの2点です。
相続税には「申告不要」「税額ゼロでも申告必要」「税額あり」の3段階がある
自分の状況がどの段階かを先に確定させてください。ここを取り違えると、払わなくてよい税金を払うか、無申告のまま放置するかのどちらかになります。
遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら、申告も納税も不要です。問題は2段階目で、配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分のいずれか大きい額まで非課税)や小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等は330㎡まで評価額80%減)を使って税額がゼロになる場合、申告書を提出しなければ特例そのものが適用できません。「税金がかからないから申告もいらない」と自己判断した結果、期限後に特例を使えず本税と加算税を負担する事例は珍しくありません。
3段階目の税額ありのケースでは、令和6年分の統計で被相続人1人あたりの平均税額は1,946万円。金額規模が大きいぶん、判断の誤りがそのまま金額差として跳ね返ります。
自力申告が現実的なのは預貯金中心で名義と贈与の論点がない場合
税理士なしで完結できるのは、財産が現金・預貯金・上場株式など評価額が一義的に決まるものだけで構成され、かつ名義預金と生前贈与の論点がないケースです。
土地は同じ面積でも、形状、接道状況、間口、奥行、貸付けの有無によって評価額が変わります。旗竿地や不整形地、私道負担のある土地、賃貸アパートの敷地などは、補正の適用可否そのものが判断事項です。非上場株式も同様で、会社規模の判定から評価方式が分かれます。
見直しのサイン:被相続人名義以外の口座に家族名義の預金がある/亡くなる7年以内に贈与を受けた相続人がいる/自宅以外に土地がある/賃貸物件を持っている。ひとつでも当てはまるなら、自力申告は判断リスクを抱えたまま進めることになります。
依頼するか迷いやすい6つの場面と監修税理士の判断基準
判断が割れるのは、基礎控除ぎりぎり、期限が迫っている、財産の一部だけ評価が難しいといった中間的なケースです。その中間帯で相談が集中するポイントを監修税理士に確認しました。
基礎控除以下なら税理士に相談しなくていい?
質問:計算したら基礎控除額をわずかに下回りました。それでも相談したほうがよいのでしょうか。

徳永 圭先生
基礎控除をわずかに下回るというギリギリのラインに該当する方は、専門家に相談することをおススメします。自己計算で漏れていた財産(名義預金や生前贈与加算など)がある場合は基礎控除を超え、相続税申告が必要となるからです。家族名義でも原資と管理実態が被相続人にあれば相続財産に含まれ、令和6年1月1日以後の贈与は加算期間が段階的に7年へ延長されます。この2つを加えた結果、基礎控除を超えていたという判定の逆転が起こります。無申告加算税と延滞税の負担を考えれば、確認だけでも価値があります。
自分で申告すると税務調査のリスクはどれくらい上がる?
質問:自力で申告書を出すと、税務署に目をつけられやすくなりますか。

徳永 圭先生
国税庁が公表しているわけではないので断言できません。ただ、税理士は多くの現場を経験しており、どんな場面で指摘が多いか把握しています。よって、税理士が関与している申告より関与していない申告の方が指摘事項が多くなりそうだ、と税務職員が考えてもおかしくはないです。国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」では、実地調査9,512件のうち非違割合は82.3%、1件あたりの追徴税額は867万円でした。加えて、文書や電話で確認する簡易な接触が約21,969件と急増しています。調査に入られた場合、8割超で何らかの指摘を受ける計算です。税理士法33条の2に基づく書面添付は税理士が関与した申告でのみ利用でき、調査に移行する前に税理士が意見を述べる機会が確保されます。
報酬を払っても結果的に得になるのはどんなケース?
質問:税理士費用を払ってまで依頼する価値があるのは、どんな相続ですか。

徳永 圭先生
土地を保有している相続では、報酬を上回る差額が出やすい傾向があります。小規模宅地等の特例は特定居住用宅地等で330㎡まで評価額が80%減となり、適用の可否と対象地の選択で課税価格が数千万円単位で動くためです。報酬の相場例は遺産総額の0.5〜1%程度が目安ですが、土地の利用区分数や相続人数、非上場株式の有無で加算されます。判断材料は「節税見込額と報酬の比較」です。また、時間価値も併せて考えるべきかもしれません。人生で相続税申告をする場面は限られます。その数回の為に調査(勉強)し、不慣れな申告を不安を抱えながらやり遂げるのは苦痛、自分の仕事(本業)に専念したいというお客様もいます。
申告期限まで残り数か月でも依頼できる?
質問:相続開始から半年が過ぎてしまいました。今から頼んでも間に合いますか。

徳永 圭先生
会計事務所の人材、時間的余力(時期)によります。期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。残り3か月を切ると受任を断る事務所も出てくるため、動くなら早いほど選択肢が残ります。遺産分割が終わっていない場合でも、法定相続分で取得したものとして未分割申告を行い、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付すれば、分割確定後に配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できます。この書類の添付漏れは取り返しがつきません。
全部を任せず一部だけ頼むことはできる?
質問:書類集めは自分でやりたいのですが、依頼は全部お任せしかないのでしょうか。

徳永 圭先生
税理士側からすると全部任せてもらった方が漏れがなく仕事がしやすいのは事実です。ただし、全部お任せしてくれない事を理由に受託不可という会計事務所は聞いたことがありません。事務所によって「一部」の認識にズレはあるかもしれませんが、申告が必要かどうかの要否判定だけ、土地の評価だけ、作成済み申告書のセカンドオピニオンだけといった部分的な依頼を受ける事務所はあると思います。戸籍や残高証明の収集を相続人側で担い、評価と申告書作成を税理士に任せる分担も一般的です。報酬は業務範囲に連動するため、依頼範囲を絞れば費用を抑えられます。最初の相談時に「どこまで自分でやれば報酬がいくら下がるか」を確認してください。
二次相続まで考えると税理士は必要?
質問:今回は配偶者が多く相続すれば税金がかからないと聞きました。それで問題ないでしょうか。

徳永 圭先生
被相続人とその配偶者の年齢が大きく離れているなど、二次相続発生までにしっかり対策がとれるのであれば問題ありません。ただし、一次相続の税額だけで決めると、二次相続で子の負担が膨らみます。配偶者が亡くなる二次相続では基礎控除額が減り、配偶者の税額軽減も使えないためです。判断に必要なのは、一次と二次を合算した世帯単位のシミュレーションで、これは遺産分割協議がまとまる前でなければ手を打てません。分け方を決める段階で試算できるかどうかが、依頼する価値の分かれ目になります。
まとめ
相続税で税理士が必要かどうかは、遺産の金額ではなく財産の中身で決まります。財産が預貯金中心で名義預金も生前贈与もなければ自力申告は選択肢になりますが、土地や非上場株式がある、特例を使って税額をゼロにする、遺産分割が未了といった条件がひとつでも入るなら、判断を誤ったときの金額が報酬を上回ります。まずは自分が3段階のどこにいるかを確定させ、迷う要素があれば分割協議を固める前に相談してください。
相続財産センターでは、創業以来30年、44万件を超える紹介実績をもとに、全国の相続に強い税理士を無料でご紹介しています。「申告が必要かどうかだけ知りたい」「部分的に依頼できる事務所を探したい」といったご相談も可能です。相続発生後は期限が動き続けるため、早い段階でのご相談が選択肢を広げます。