平成30年度税制改正の目玉である 新しい所得拡大税制について徹底解説 | MONEYIZM
 

平成30年度税制改正の目玉である
新しい所得拡大税制について徹底解説

平成30年度の税制改正により、所得拡大税制も改正されました。企業の賃上げをバックアップする優遇税制であり、特に中小企業の節税効果は大きくなることが期待できます。従業員に教育訓練を施すとさらに節税効果が得られます。そこで、所得拡大税制のアウトラインと教育訓練を中心に解説します。

そもそも所得拡大税制とは何か?

所得拡大税制の節税効果

国内雇用者に対する給与等支給総額が前年度よりも増加した場合、法人税から次の税額控除が受けることができます。

(1)中小企業

税額控除の計算は通常分と上乗せ分に大別できます。

①通常分

給与等支給総額が前年度よりも増加した場合、基本的には次の金額が税額控除の対象となります。

給与等支給総額の対前年度増加額×15%

②上乗せ分

後述する要件を満たす場合は、通常分に代えて次の金額が税額控除の対象となります。

給与等支給総額の対前年度増加額×25%

(2)大企業

大企業の場合、上乗せ分の税額控除の金額は中小企業より下がります。

①通常分

給与等支給総額の対前年度増加額×15%

②上乗せ分

給与等支給総額の対前年度増加額×20%

ここから中小企業を例にして、節税効果をシミュレーションしましょう。

例)

給与等支給総額が対前年度増額100万円の場合

①通常分

100万円×15%=15万円

②上乗せ分

100万円×25%=25万円

※中小企業の範囲

次のうちいずれかの個人事業主や法人が中小企業の範囲に含まれます。

(1)資本金が1億円以下の法人(大企業のグループ企業を除く)

(2)従業員の数が1,000人以下の個人事業主または資本金が存在しない法人

 

※国内雇用者の範囲

国内での雇用契約に基づく従業員のうち、次の人を除いた人が国内雇用者の範囲となります。

(1)役員との特殊関係者

特殊関係者とは親族のことを指します。親族の範囲は6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族までとなります。

(2)使用人兼務役員

従業員の立場のうち、役員に就任している人のことを指します・

所得拡大税制が受けられる条件

所得拡大税制で税額控除が受けられる条件は中小企業と大企業では若干異なります。それぞれの条件について見ていきましょう。

(1)中小企業

次の2つの条件を満たす必要があります。

①国内雇用者に対する給与等支給総額が前年度以上であること

②国内雇用者一人当たりの平均給与等支給額が前年度比で1.5%以上増加していること

(2)大企業

中小企業よりも条件は厳しくなります。次の3つの条件を満たす必要があります。

①国内雇用者に対する給与等支給総額が前年度以上であること

②国内雇用者一人当たりの平均給与等支給額が前年度比で3%以上増加していること

③国内設備投資額(減価償却の対象資産)が減価償却費の総額の90%以上であること

税額控除が上乗せできる条件

(1)中小企業

国内雇用者一人当たりの平均給与等支給額が前年度比で2.5%以上に限り、次のいずれかの条件を満たす必要があります。

①教育訓練費が対前年度比10%以上増加していること

②中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けており、経営力向上がなされていること

(2)大企業

教育訓練費が前年度、前々年度の2期分を平均した金額と比較して20%以上増加していること

教育訓練費について解説

所得拡大税制により上乗せ分の税額控除が受けられるかどうかは教育訓練費の金額に左右されます。そこで、教育訓練費について説明します。

教育訓練の対象者は国内雇用者である

そもそも所得拡大税制は国内雇用者に対する給与等支給総額の増加額に対する優遇税制です。そのため、教育訓練費の計算対象も国内雇用者に限定されています。たとえば、法人が研修費を負担したとします。その場合、国内の従業員に対する費用なら国内雇用者に対する教育訓練費になります。しかし、海外支店など国外の従業員に対する費用なら教育訓練費の計算対象から除かれます。

教育訓練費の具体的な範囲

教育訓練費の範囲は次の通りです。

(1)その法人が自ら行う教育訓練費

教育、訓練、研修、講習などの外部講師謝金、研修所など外部施設の使用料の費用などが挙げられます。

(2)外部委託して教育訓練等を行わせる場合の委託費
(3)外部研修に参加させる場合の参加費用

税制改正後の所得拡大税制の注意点

税制改正によって、特に中小企業は税額控除の受けられる金額と条件が緩くなりました。しかし、次の注意点を知らないと思わぬ落とし穴が待っています。そこで、所得拡大税制の注意点について説明します。

青色申告の承認を受けることが大前提

そもそも所得拡大税制は青色申告をしていることが大前提です。つまり、単に国内雇用者に対する給与等支給総額が前年比以上だけでは税額控除を受けることはできません。特に新規開業する個人事業主や法人は青色申告承認申請書の税務署へ提出し、承認を受ける必要があります。開業した場合、青色申告承認申請書の提出期限は次の通りです。

(1)個人事業主

①3月15日までに開業した場合:その年の3月15日
②3月16日以降に開業した場合:開業日から2カ月以内

(2)法人

①設立の日から3月を経過した日(設立日が9月1日の場合、提出期限は11月30日)
②設立年度の終了日(決算日が10月31日の場合、提出期限は10月30日)

設立年度は所得拡大税制が受けられない

所得拡大税制は前年度より国内雇用者に対する給与等支給額が増加した場合に対する優遇税制であり、前年度が存在しない設立年度は所得拡大税制が受けられません。そのため、所得拡大税制を活用するためには、たとえば設立年度は雇用をする代わりにアウトソーシングをして、2期目以降に従業員を雇用するなどの工夫が求められます。

税制改正後の所得拡大税制が受けられる期間

税制改正後の所得拡大税制が受けられる期間は平成30年度(平成30年4月1日以降に開始する年度)から平成32年度(平成32年4月1日以降に開始する年度)までになります。そのため、平成33年度(平成33年4月1日以降に開始する年度)については税制改正または所得拡大税制が廃止される可能性があります。

まとめ

所得拡大税制は特に中小企業にとって使い勝手のよい優遇税制といえます。たとえば、設立年度の次年度以降に雇用を拡大すれば、所得拡大税制が受けられる条件を満たす可能性があります。また、節税効果が大きいのも特徴でしょう。前年度より国内雇用者の給与等支給総額の増加額の15%または25%の税額控除が受けられます。この記事を機に従業員の雇用を検討してはいかがでしょうか。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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