誤って振り込まれた給付金4,630万円を“着服” 犯罪で稼いだお金に税金はかかるのか? – マネーイズム
 

誤って振り込まれた給付金4,630万円を“着服” 犯罪で稼いだお金に税金はかかるのか?

公開日:
2022/05/27
 

山口県阿武町で、新型コロナ給付金が誤って1人に4,630万円振り込まれ、住人の男性が一時返還を拒否するという事件が起きました。男性はその後、電子計算機使用詐欺容疑で山口県警に逮捕され、返還は困難だとみられていた送金分についても、町が大半を確保したといいます。ところで、この一件が明らかになると、メディアは「男性には2,000万円課税される」といった話でもちきりになりました。果たしてそれは事実なのでしょうか? 今回は、事件があぶり出した「犯罪と税金」について解説します。

犯罪で稼いだ金も確定申告すべし!?

国の給付金が発端の事件

はじめに、経緯を簡単に振り返っておきましょう。
事の発端は、4月8日、新型コロナウイルスの感染拡大で影響を受けた家庭への支援を目的とした政府の住民税非課税世帯への給付金(10万円)が、誤って1世帯に4,630万円振り込まれたことでした。463世帯分を送金してしまったという凡ミスでしたが、振込を受けた口座の持ち主が返還に応じず、「全額をネットカジノで使い果たした」などと述べたことから事件化します。
 

町は、給付金全額と弁護士費用などを合わせた5,100万円あまりの支払いを求めて、訴訟を提起。一方、山口県警は、5月18日に男性を逮捕しました。ただし、この時点では、「少しずつでも返していきたい」と男性は態度を変えたものの、「所持金はない」という話を反証する術はなく、大金の回収は困難という見方が支配的でした。
 

ところが、5月23日になって、事態は一変します。男性が取引していた決済代行業者から町に3,500万円あまりが返還されていたと報じられ、翌日会見した町長が、9割超に当たる4,300万円を「法的に確保した」ことを明らかにしたのです。町は、引き続き残額の返還を求めていくということです。

返還がなければ課税されていた

このような経済的な犯罪が刑事・民事上の罪に問われるのは当然です。今回のケースでは、男性の口座に入金されたお金は、民法の「不当利得」(法律上、受け取る権利がないにもかかわらず、他人の財産または労務によって受けた利益)に当たり、それと知りながら(この場合は、誤振込と認識しながら)取得すると、「元金」だけではなく、年3%の利息を付けて返済しなければならないことになっています。
 

それは理屈として理解できるのですが、では、そもそも詐欺や窃盗などの犯罪によって得た「利益」は、課税対象になるのでしょうか?答えは“YES”です。所得税法上の「収入金額」について、所得税基本通達36-1に、次のような規定があります。

法第36条第1項に規定する「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない。

要するに、「たとえ違法な手段で得た収入であっても、きちんと確定申告して税金を納めなさい」というのが、国税庁の基本姿勢なのです。規定はあくまでも通達で、法律に明記されているわけではないのですが、実際にこれに沿って法人税法違反の罪に問われた例などもあります。

課税額はいくらだった?

2,000万円vs.850万円

給付金がおおむね返済されるめどが立ったのは喜ばしいことですが、では、もし1円も返済されなかった場合、男性の支払う税金はいくらになっていたのでしょうか?
興味深いことに、これについては、テレビ報道やネット上の記事などで、「所得税、住民税合計で約2,000万円」と「同約850万円」という2つの説が「主張」されました。
 

違いが生まれたのは、この収入を「雑所得」とみるのか「一時所得」と判断すべきかで、見解が分かれたからです。まずは後者から説明します。
 
● 一時所得とは
利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得以外の「一時的な所得」。例えば、競馬・競輪・競艇などの払戻金、懸賞・クイズ番組・福引などの賞金・賞品、生命保険・損害保険などの満期返戻金(保険料負担者と受取人が同一で、満期保険金を一時金で受け取った場合)などが該当。
 

● 雑所得とは
一時所得を含む今の9種類の所得に当てはまらないもの。例えば文筆業を営む人以外が、原稿料を受け取った場合など。
 
極めてアブノーマルな事例なだけに見方が分かれたのだと思いますが、どちらとみるかで、納税額は倍以上違ってくるのです。その理由は、税額を計算するベースとなる「課税所得金額」に差が出るからです。

一時所得なら課税対象は「半額」に

以下、順を追って説明したいと思います。
前提として、雑所得も一時所得も、他に給与所得など他の所得がある場合には、それらと合算した金額に所得税の税率を掛ける「総合課税」なのですが、今回は他に収入がどのくらいあったのかは不明です(住民税非課税世帯ということですから、低所得だったことは確かですが)。そのため、仮に収入は誤振込された給付金のみと仮定して計算しています。また、所得税の基礎控除をはじめとする各種所得控除なども、考慮から外しています。
 

まず、男性の支払う税金が「約2,000万円」という見解について。これは、今回の不当利得を「雑所得」とみた場合の計算です。雑所得は、「収入-必要経費」で算出します。経費は、収入を得るために使った金額ですが、今回は黙っていたら振り込まれたので「0円」でしょう。ですから、4,630万円がまるまる課税所得となります。
 

所得税は所得が高くなるほど税率もアップしていく「累進課税制」になっているのもポイントです。課税所得が4,000万円を超えた場合、適用されるのは最高税率の45%。この税率では、最終的に約480万円が差し引かれる(税額控除される)ので、所得税は「4,630万円×45%-480万円≒1,600万円」ということになります。これに、一律10%の住民税を足して、およそ2,000万円というわけです。
 

一方、一時所得とした場合にはどうでしょう?一時所得の課税所得の計算式は、「(収入-必要経費-特別控除50万円)×1/2」となっています。このケースでは、「(4,630万円-0円-50万円)×1/2=2,290万円」と、この時点で雑所得に比べ課税対象が半分以下に圧縮されるのです。
 

加えて、課税所得が少なくなったぶん税率も若干下がり、40%(控除額約280万円)です。その結果、所得税の納税額は、「2,290万円×40%-280万円≒635万円」となるわけです。この場合も、課税所得に10%の住民税が別に課税されます。

加算税、延滞税も課税される

ところで、どちらの所得であっても、来年の確定申告(2023年3月15日まで)では、申告・納税しなくてはなりません。「お金を使い切ってしまった」としてこれを怠った場合、加算税(※)というペナルティが課されることにより、さらに「納税額」が膨らみます。

申告を怠った場合の「無申告加算税」は、税率20%(50万円を超える部分、それ以下は15%)ですから、雑所得とされた場合には、本税(本来納税すべき金額)の約1,600万円におよそ320万円がプラスされ、所得税だけで2,000万円近くになってしまいます。
 

加えて、納税が遅れると、その期間に応じた「延滞税」の支払いも求められます。税率は、納付すべき日から2ヵ月を過ぎると、原則年14.6%(2ヵ月までは7.3%)。これが本税にかかってきますから、1年で230万円ほどになります。
 

ちなみに、税金は、仮に自己破産が認められても、1円たりとも“チャラ”にはなりません。この男性は、恐らくそうした「税金の恐ろしさ」も知らなかったのでしょう。入金していた決済代行業者が町側の圧力に屈して返金に応じたことに、むしろ感謝すべきかもしれません。
 

※加算税には、「過少申告加算税」(申告期限内に提出された申告書に記載された納税額が、過少だった場合)、「無申告加算税」(申告書を申告期限までに提出しなかった場合)、「不納付加算税」(源泉所得税を納付期限までに納付しなかった場合)、「重加算税」(事実を仮装隠蔽し申告を行わなかった場合、仮装に基づいて過少申告を行った場合)がある。

まとめ

4,600万円あまりの給付金が、誤って1人に振り込まれた事件は、決済代行業者からの返金という形で“解決”に向かいました。ただ、もしも振り込みを受けた男性側からお金が返されなかった場合でも、それに対しては「雑所得」ないし「一時所得」として課税され、来年の確定申告では、高額の納税が求められていたでしょう。いずれにせよ、税金を甘くみないほうがいいようです。

マネーイズム編集部