「100点」よりもスピードが大事なことも~大企業の
ノウハウ、問題点を中小企業経営に活かす・その1~

「100点」よりもスピードが大事なことも~大企業の  ノウハウ、問題点を中小企業経営に活かす・その1~

2019/3/1

 
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頑張っているのに、なかなか業績が伸びない――。そんな思いを抱えつつ、忙しい日々を送っている経営者の方は、少なくないはず。その場合、どこかで頑張りが「空回り」しているのかもしれません。今回は、大手メーカーで経営企画やバックオフィスの仕事に従事した経験もある吉野拓朗先生(吉野拓朗税理士事務所)に、ちょっとした「経営のヒント」をうかがいましょう。

債務と債権を相殺し、資金繰りを改善

先生は、大手企業からコンサルティングファームに転職し、その仕事と並行して個人事務所を立ち上げられたのですね。
はい。そういうキャリアや経験も、中小企業経営者のみなさんへのアドバイスに活かせたらいいな、と考えています。
今回は、いろんな事例も含めてお話をうかがっていきたいのですが。
わかりました。まず、メーカーの資金繰り改善の案件に携わった時の事例からお話ししましょう。ただし、超具体的には語れないのをお許しください(笑)。
 この取り組みは、売り上げは順調に上がっているのに、営業活動に投下されているお金があまりいい具合に回っていないのはなぜか、という疑問に端を発したものでした。原因を探っていくと、ある問題が浮かび上がったのです。
 そのメーカーでは、ある製品について、各地の取引先から製品の原料を仕入れ、ある程度加工した状態で再び取引先に委託して最終製品にする、という仕組みで生産を行っていました。メーカー側からすると、取引先に対して、仕入れに際して債務を負い、再び委託する時には債権が発生していたんですね。
同じ取引先に対して、債権と債務が発生していた。
そういうことです。でも、債権のほうが債務よりも回転期間が長い、要するに回収までに時間がかかるわけです。この場合は、債権回収は3ヵ月、債務支払いの方は1ヵ月でした。調べていくと、このタイムラグが資金繰りに響いていることがわかったのです。そこで、ある提案を行い、実行しました。
どんな手立てを打ったのでしょう?
仕入れ債務と債権の相殺です。これにより、いったん支払いのために出ていくお金が減り、営業キャッシュフローが大幅に改善したんですよ。
 もちろん、取引先の理解も必要な案件でしたが、彼らにもメリットはあります。取引先からすると、基本的に債権が債務を上回っていますから、相殺すれば債務はゼロ。この取引に関する債務の管理は不要になります。債権の方も、管理すべき金額は減らせますから、債権・債務の管理にかかわるコストを削減できるはずなのです。
今のノウハウは、中小企業経営にも応用できますか?
法的に問題はないし、もちろん可能ですが、同じような取引はあまりないかもしれません。ただ、「売上は立っているのに、どうもお金が効率的に回っていない」というような場合には、必ずどこかに今お話ししたような表面上は見えない「病巣」が潜んでいるものです。常にそうした視点で、会社の舵取りをしていくという姿勢が大事になるのではないでしょうか。

大企業の決定には時間がかかる

実は今の事例には、もう1つ重要な教訓があるんですよ。さらりと話しましたけど、「ここが問題だ」と気づいて改善を提案してから実行されるまでに、2年ほどかかったのです。
そんなにすったもんだしたのですか?
というか、大企業にはいろんなセクションがあります。今の話は、生産部門や営業部門にも関わる案件ですから、管理部門だけで進めるわけにはいきません。各部門のしかるべきポジションの人たちに納得してもらい、ゴーサインをもらうまでに、非常に時間がかかるわけですね。中には、抵抗する人もいますし。
現状を変えるのを、とにかく嫌がる人たちですね。
しかし、基本的に決定権が経営トップに集中している中小企業には、そういう「組織ゆえ」の煩わしさはないでしょう。私は、その強みを十分に生かすべきだと思うのですよ。
 私はITのコンサルに携わったこともあります。少し専門的になりますが、今までは例えば何かのシステムを導入する時には、「ウォーターフォール型」と言って、機能を細かくつくり上げていき、みんなの合意を形成してから一気に運用をスタート、というやり方が主流でした。でも、今は「アジャイル型」という、重要なところから、完成品を開発して、早く成果を取りに行く、というスタイルが増えているんですね。
なるほど。それは経営にも当てはまる。
そういうことです。特に中小企業には、後者が適していると思うのです。「100%絶対に大丈夫」ではなく、7割、8割見えたら行動を起こす。そういう発想が、ますます求められているような気がします。
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