会社を立ち上げた。取引先もできた。
なのに、預金通帳が作れないことも!?

会社を立ち上げた。取引先もできた。  なのに、預金通帳が作れないことも!?

2019/11/11

 
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脱サラして会社をつくり、事業を始めたい。個人でやっていたけれど、そろそろ法人にしようか――。夢は膨らみますが、「やり方」を間違えると、大きく出ばなをくじかれることもあるようです。会社設立に詳しい桑原正樹先生(桑原税務会計事務所)に、「設立時だからこそ、冷静になって考えるべきこと」についてうかがいました。

共同経営には要注意

先生は、数多くの会社の立ち上げをサポートされてきたとうかがいました。そうした経験を踏まえて、「会社設立の前に、ぜひ考えておくべきこと」についてお話しいただきたいと思います。
わかりました。「会社を立ち上げるぞ!」というタイミングでは、どうしても気持ちが“前のめり”になりがちなのですが、そこでしっかり足元を固めておかないと、のちのち困った事態になりかねないんですね。

総論的に言うと、会社設立前に決めておくべきことは、会社名、出資者、出資比率、資本金、事業目的、代表者、事業年度など。このうち、意外な落とし穴になるのが「出資者」なんですよ。1人で始める場合は問題ないのですが、「ともに頑張ろう」と共同で事業を始めるようなケース。オーナーの出資を受けて会社をつくり、自分が代表取締役を務めるといった場合もあるでしょう。

具体的に、どこに気をつける必要があるのでしょう?
重要なのは、出資比率です。50%を超える株を持っていれば、株主総会で役員の選任や解任、報酬の決定といった「普通決議」を単独で可決することができます。3分の2を超えれば、定款の変更や合併、解散などの「特別決議」も意のまま。安定的な経営のためには、そのレベルの出資比率を保持するのが理想でしょう。でも、それが逆だったら。つまり、自分以外の人間に多数の株を握られていたら、どうでしょう?
最悪、総会で首を切られる可能性がありますね。
そうです。業績が上向いてきたところで、「お役御免」。自分のアイデアを形にした事業だったのに、乗っ取られてしまうといったことが、けっこう起こるのです。そこまでいかなくても、大きく利益を伸ばしたのに、十分な報酬がもらえない、とか。
それでは、「夢を形に」どころではなくなってしまいますね。
かつては資本金が1000万円以上ないと、株式会社は設立できませんでした。そういう時代には、今お話ししたような基礎知識がないと、怖くて起業などできなかったはずです。今は1円でも会社がつくれますから、いろんなことが「気軽に」なっているようにも感じますね。でも、資本金は1000万円でも10万円でも、総会で問われるのは出資比率なのです。そのことは肝に銘じてほしいと思います。

通帳の発行が年々厳しくなっている!

資本金について、「1年でも会社がつくれる」と言いましたが、例外のあることにも注意してください。建設業の許可を得るためには500万円以上、人材派遣業の場合は2000万円以上の資本金が必要になりますから、これらの業種で起業を考えている人は、事前に確認したほうがいいでしょう。
「1円起業」できる業種であっても、資本金が少ないと銀行の融資が難しいといった話も聞きます。実際には、いくらぐらいにすればいいのでしょうか?
融資が受けられないどころか、資本金が少なすぎたり、オフィスが「バーチャル」だったりすると、通帳が作れないこともあるんですよ。「そんなバカな」と思われるかもしれませんが、新規の口座開設に対する銀行の姿勢は、3年前ぐらいと比べても確実にシビアになっています。

「バーチャルオフィス」というのは、例えば実際の取引は東京都内の業者がほとんどなのだけれど、都心は家賃が高いので事務所は埼玉や千葉などに構えて、その住所で登記を行っている、といったケースです。自宅もハードルは高いですね。それまで、個人事業の取引口座を設けていたような場合は、問題ないのですが。

厳しくなっているのは、やはり「特殊詐欺」対策でしょうか?
そういうことです。お金を振り込ませるのに、法人名は都合がいい。被害者も「安心」しますから。そういう口座が10万、20万の「出資」で手に入るというのは、彼らからすれば願ったり叶ったりなのです。そうした口座は、「資金洗浄」(※)の武器にもなりますから、トレンドとして、銀行の対応が厳しくなるのも無理はありません。
「通帳を作るのが大変だった」という話は確かに最近よく聞きます。
起業家の方の多くも、そういう認識なのではないでしょうか。でも、会社の登記を済ませたし、すでに大口の契約も取り付けているし、と銀行の窓口に出かけたら、なかなか通帳が作れなかった、という悲劇が実際に起こっています。

そうした現状を分かってもらったうえで、さきほどの質問に戻ると、業種などによって違いはあると思いますが、資本金は100万円以上あるのが理想です。資本金が少ない場合には、口座開設がスムーズにいかないかもしれないと考えてください。

「資本金は気にせず、会社をつくろう」といわれていた頃には考えもしなかったことが原因で、起業のハードルが上がってしまいました。困りましたね。
資本金には、「現物出資」が認められています。例えば、乗っている車を個人から会社所有に移せば、時価で資本金を積み増すことができるのです。どうしても現金が足りなかったら、そうした可能性を検討してみるのも1つの方法だと思います。

付け加えれば、かつては払い込んだ資本金は、登記が完了するまで手を付けられなかったのですが、いまは申請時に残高があれば、その後は引き出して使うこともOKになりました。そうしたことも頭に入れて、しっかりした「資本金対策」を考えるべきでしょう。

儲けることも節税も、事業が立ち上がってからのこと。会社の通帳が作れなかったら何も始まらないことを、肝に銘じてほしいのです。

※資金洗浄
犯罪で得た資金を、その出所を分からなくするために、架空口座などを使って送金を繰り返す行為。マネーロンダリング。
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