認定医療法人の要件緩和で、
「持分なし」への移行が進む?

認定医療法人の要件緩和で、  「持分なし」への移行が進む?

2017/12/27

 
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自らが設立した医療法人に出資を行っていたお医者さんが亡くなって、相続に。ところが、出資した「持分」に多額の相続税が課税された結果、後継者の負担が膨らんで、医業の存続自体がピンチに陥ってしまった――。そんな事態を避けるために、国は法人財産の持分のない「認定医療法人」への移行を進めています。ところが、2014年10月から3年間と定めた認定期間の成果はイマイチ。そこで、17年10月から、認定期間をさらに3年間延長するとともに、要件も緩和しました。法改正で、何が変わったのか、今度は「持分なし」への移行が進むのか? 医療機関の税務に詳しい税理士法人アフェックスの金子尚貴先生に聞きました。

◆出資者の「持分あり」と「持分なし」で、相続はどう変わる?

医療法人は、株式を発行できない

普通の会社と同じように、医療法人でも、経営者のリタイアに際して円滑な事業承継が必要になります。相続も発生します。ところが、そこに医療法人ならではの難しさがあるわけですよね。今回は、2017年秋に行われた関連法の改正も踏まえて、その問題についての「傾向と対策」を中心に、お話をうかがっていきたいと思います。初めに、そもそも一般の法人と医療法人の違いについて、説明していただけますか。
わかりました。最も違うのは、設立要件だとか法人の運営の仕方だとかが、医療法という法律によって、厳しく規定されているところですね。普通の会社だったら、個人でも簡単に作ることができますけれど、医療法人の場合にはそうはいかないのです。基本的に営利が目的ではなく、地域医療に貢献するという使命、責任が課せられているからにほかなりません。
常に国の監督下に置かれているということですね。
そうです。では、今の話に沿って、具体的に法人の“建てつけ”がどうなっているのかを説明すると、一般企業の場合には会社が株を発行し、それを保有した人は株主=出資者になりますよね。株主は、出資比率に応じて株主総会での議決権を行使でき、会社から配当を受け取ったり、上場企業の場合には市場でその株を売却したりすることもできます。
 
でも、医療法人は、株式を発行することができません。配当も禁じられています。代わりに、出資した人はその比率に応じた「持分」を有することになります。ちなみに、医療法人の場合、この出資者のことを医療法においては「社員」と呼ぶんですよ。
一般企業で社員といえば「従業員」のことですが、そこも違うんですね。
この医療法人の社員が亡くなったり、退社したりした時には、その出資持分に応じて、法人資産の払い戻しを受けることが認められています。出資時点よりも法人の資産が膨らんでいれば、そのぶんの「利ざや」を手にすることができるわけです。
配当を受けられない代わりに、出資者はそこで経済的なメリットを享受できる。
ただし、ここが今回の話のポイントなのですが、今お話ししたのはあくまでも「出資持分あり」の医療法人の場合。それとは別に、「出資持分なし」の医療法人もあるのです。

「出資持分あり」がもたらす不都合

「持分がない」というのは、ちょっとわかりにくい概念ですね。
出資ではなく、基金という形で財産を拠出します。仮にその人が1000万円の基金を拠出していたとしたら、社員で亡くなった時に戻ってくるのは1000万円のみ。もし、法人を畳む場合には、それらを差し引いてなお内部に残った資産は、基本的に国庫に入ることになります。「持分なし」の医療法人では、出資者は法人の財産権を主張できません。
常識的に考えると、それでは出資者に不利だから、「『持分あり』がいい」という話になりそうです。
実際、「持分なし」では財産権を侵害されてしまう、という意識を強くお持ちの方もいます。後で述べますが、将来的に法人のM&Aを考えている場合などには、「持分あり」のほうが話を進めやすいといったシチュエーションも、考えられるでしょう。しかし、ごく普通に子どもを後継者に考えているようなケースでは、「持分あり」だと、事業承継や相続に直面したとたん、大きな問題が発生することになりかねないのです。
それはなぜですか?
さきほど、「『持分あり』だと、法人の資産が膨らんでいれば、社員でなくなる時に、そのぶんの払い戻しを請求できる」と言いました。実は、医療法人では、設立時から年数がたつにつれ、資産は大きく増えるのが普通なんですね。これもさきほど述べた、「医療法人は配当が禁止されている」ことが大きな理由です。一般企業であれば、配当によって外部に出て行くはずの利益が、法人に内部留保としてどんどん蓄積されるわけですね。
 
財産が増えるのは好ましいことのように思えますけど、相続になれば、そこに相続税がかかってきます。法人内部にプールされたお金は、不動産などと異なりそのまま評価されます。10億円の資産があったら、その金額がそのまま相続財産にカウントされ、税額計算のベースになってしまうんですよ。
相続人に高額の税負担がのしかかるのは、想像に難くないですね。
「持分」を上場企業の株のように売却することはできませんから、相続人は、別に納税資金を用立てる必要が生じます。仮に子どもが3人いて、そのうちの1人が家業を継ぐとしましょう。初代院長の保有する出資持分を引き継ぐ彼は、それだけで多額の相続を受けたことになりますから、その他の現金や不動産といった親の遺産は、他の兄弟に渡さなくてはならないかもしれません。そうなると、ますます後継者の「資金繰り」が危うくなる可能性があります。
未上場企業でも、事業承継の際には自社株の評価が大きな問題になりますけど、内部留保が溜まりやすい仕組みの医療法人では、さらにリスクが大きそうです。

法改正はありつつも、いぜん76%は「持分あり」

そうした問題が浮上したのを受けて、2006年に、07年4月以後新設される医療法人はすべて「持分なし」とする、という医療法の改正が行われました。「持分なし」ならば、法人の内部留保は個人の資産ではなくなります。
相続財産ではないのだから、そこに相続税が課税されることもなくなるわけですね。
そういうことです。しかし、その法改正で一件落着とはいきません。すでにある「持分あり」医療法人をどうするか、という難問が残るからです。具体的には、相続の発生を見越して、「持分あり」から「なし」に移行してもらわなければならないのです。
移行のためには、どんな手順を踏む必要がありますか?
手続き的には、すべての出資者が持分の放棄に同意し、法人の解散時の残余財産の帰属制限を盛り込むよう定款を変更すれば移行完了なのですが、実際には遅々として進まないというのが実情です。
 
国は、この移行を促進することを目的に、2014年10月から3年間の予定で「認定医療法人制度」を実施したんですね。「持分なし」への移行計画が認定された医療法人については、最大3年の計画期間中に出資持分に関わる相続が発生しても、相続税の納税が猶予され、相続人が持分を放棄した場合には納税自体が免除される――という仕組みです。これは、ある出資者が持分を放棄したため、他の出資者の持分が増えた場合に、他の出資者に課せられる贈与税、いわゆる「みなし贈与税」にも適用されました。
 
ところが、この制度が始まってからちょうど2年後の16年9月時点で、認定を受けた医療法人は61件、移行が完了したのは13件しかなかったんですよ(厚生労働省調べ、以下同)。ちなみに、改正医療法が施行された07年3月末から16年3月末までの間に、「持分あり」から「なし」に移行をしたのは、513法人に留まっています。その結果、約5万件ある医療法人のうち、およそ76%はいぜんとして「持分あり」の状態です。“笛吹けども踊らず”というのが現実なんですね。
先生の事務所のクライアントの反応は、どうだったのでしょう?
やはり、「制度ができたからやろう」というお客さまは、ほとんどいませんでしたね。相談があったのは、実際に相続が発生してしまい、緊急避難的に「持分なし」に移行せざるをえない、といった事例に限られました。
相続税を計算してみたら大変なことになっていた、というパターンですか。その場合、認定自体は相続発生後でも認められるんですね?
相続税の申告期限までにきちんと申請できれば、OKです。とはいえ、申告期限は被相続人が亡くなってから10ヵ月以内ですから、時間との勝負になるのは間違いありません。

高すぎた「認定」のハードル

それにしても、国がそんなふうに後押ししたにもかかわらず、「持分なし」への移行が進まないというのは、不思議な感じもします。
移行をためらわせる理由が、ちゃんとありました。この制度では、今説明したように個人の相続税や贈与税の問題はクリアするのですけれど、「持分なし」への移行の際に、法人に多額の贈与税がかかる可能性が高かったのです。出資者が財産権を放棄して法人に渡すのだから、渡されたほうから税金を取る、というロジックですね。でも、財産の規模にもよりますが、4割、5割の課税になりますから、法人にとってはかなりのダメージになりかねません。
 
そこで、この認定制度では、一定の要件を満たせばその贈与税を非課税にすることにしたんですね。しかし、現実問題として、この要件が医療法人にとって、かなり厳しいものだったのです。
認定のハードルが高かったわけですね。具体的には、どんな要件が課せられていたのでしょう?
主なものを列挙すると、「理事の定数6人以上、監事は2人以上」「役員の親族が役員等の総数の3分の1以下」「医療機関名の医療計画への記載」「法人関係者に利益供与しないこと」――などでした。中でもネックになったのは、「3分の1以下」という「親族要件」だったんですよ。
同族経営だと非課税にならないというのは、医療法人の実情にそぐわない気がします。
おっしゃる通りで、要件を満たすために、わざわざ親族以外の人に声をかけて役員に入ってもらうというのも、別のリスクを生みかねません。結局、「そんな条件を付けられたのでは、手を挙げたくても挙げられない」と、みんな二の足を踏んでしまったわけですね。あえて付け加えておくと、そうした要件が課せられたのは、あくまで「持分あり」から「なし」に移行させる場合です。「なし」の医療法人を新設させる際には、親族要件などの縛りはありません。
え、そうなんですか。それはちょっと不公平ですよね。
いずれにしても、「持分なし」への移行が思うように進まない現状は、国も認めざるをえない。そこで、前の認定制度が終わった2017年10月から20年9月までの3年間、さらに制度を延長させることになりました。単に期間を延ばしただけではありません。認定の要件を緩和して、今度こそ「持分なし」への切り替えを本格的に進めようというのが、今回の法改正の目的です。事実上、新しい認定医療法人制度がスタートしたと言っていいでしょう。

「新認定医療法人制度」で、どう変わるのか?

前の制度とどこが変わったのか、簡単に説明をお願いします。
大きいのは、「理事、監事」についての定めが、それぞれ「3人以上、1人以上」に緩和され、問題の親族要件も撤廃されたことです。これで、移行へのハードルはぐっと下がったはず。
 
また、新たな制度では、「役員報酬が不当に高額にならないよう定めていること」「社会保険診療にかかわる収入が、全体の80%以上」、すなわち「自由診療」の比率が低いこと――といった、新たな要件が明文化されました(表参照)。新認定医療法人は、移行後6年間はこの要件を維持し、運営状況について厚生労働大臣に報告しなければなりません。

~「新認定医療法人」の要件~

運営方法 ①法人関係者に対し、特別の利益を与えないこと
②役員に対する報酬等が不当に高額にならないような支給基準を定めていること
③株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと
④遊休財産額は事業にかかる費用の額を超えないこと
⑤法令に違反する事実、帳簿書類の隠ぺい等の事実その他公益に反する事実がないこと
事業状況 ①社会保険診療等(介護、助産、予防接種含む)にかかる収入金額 が全収入金額の80%を超えること
②自費患者に対し請求する金額が、社会保険診療報酬と同一の基準によること
③医業収入が医業費用の150%以内であること
ズバリ、この新制度の実行で、「持分あり医療法人」から「持分なし」への移行は進むとみていらっしゃいますか?
今まで以上にその動きが加速するのは、間違いないと思います。実際、当事務所のお客さまの中にも、「それならやろうか」という話が出始めているんですよ。ただし、ハードルは低くなったとはいえ、まだ課題が残るのも事実です。
それは、どんな点でしょう?
例えば、今お話しした「社会保険診療」の売上比率です。「自費」のウエートがそれなりに高くなっている医療機関が、それを引き下げるというのも、現実には難しいですよね。「移行への動きは活発化するけれど、これで一気に進むかどうかはまだわからない」というのが、正確なところだと感じています。
 
とはいえ、最初に述べたように、「持分あり」から「なし」への移行というのは、医療法人の事業承継の障害をなくして、地域医療を守り発展させるという「大義名分」のあるお話です。そうである以上、仮に今回の新制度でも思うように成果が上がらなかったような場合には、さらなる要件の見直しなどが行われる可能性もあるのではないでしょうか。
大きな流れとしては、これからも「持分なし医療法人」への移行にインセンティブが働く公算大、ということですね。

制度の活かし方には「各論」がある

さて、ここまで医療法人の「制度改革」について、総論的な話をしてきましたが、それぞれの法人には、そうした大きな流れを踏まえた「各論」が必要になります。
ひとくちに医療法人と言っても、規模や診療科目、資産の状況、組織のあり方、そもそも誰が後継者になるのか……それらは、みなそれぞれ違いますよね。
例えば、後継者は息子と決まっている、できれば代々引き継いでいってもらいたい。しかし院長である自分が大半を出資していて、このままだと遠からず発生する相続が、間違いなく問題になる。とはいえ、社会保険診療の収入比率を8割まで高めるのは困難だ――という法人があったとしましょう。この場合、「法人が贈与税を払ったうえで、『持分なし』に移行する」という選択肢もアリでしょう。
 
さきほど挙げた要件は、あくまでも法人が非課税で「持分なし」に移行する際の必要条件なんですね。その要件をすべて満たさなければ「持分なし」には移れない、ということではないのです。
なるほど。息子さんが負担する相続税と、法人が払う贈与税を天秤にかけることもできるわけですね。
そうです。後々の法人の経営に支障をきたすようなことがなければ、税金を支払って「持分なし」にしておいたほうが安心だ、というお考えの方も、実際にいらっしゃいます。
確かに、医業を親族で継いでいく場合には、いったん「持分なし」にしてしまえば、それ以降の相続でも、法人の財産が問題になることはなくなりますよね。
では、親族や今の法人の関係者などの身近に、後継者が見当たらなかったらどうでしょうか? これもケースバイケースなのですけど、将来的にM&A、すなわち同業などに法人を売却するという選択がありえるでしょう。そういう展望を持っている場合には、「持分あり」のままのほうが、交渉が有利に進むかもしれません。M&Aの場合は、とりあえず相続云々は関係なくて、「買う側が医療法人の財産権を握れるか・握れないか」が、大きなポイントになる可能性があるからです。
新しい認定医療法人制度ができたからといって、みんながそれに「乗る」必要はない。「事業承継を進めるための重要なオプションが1つ増えた」くらいに考えて、それぞれの法人にとってよりよい選択をすればいい――ということでしょうか。
そうですね。ただし、「よりよい選択」をするためには、まず自らの医療法人の置かれた状況、相続で発生するリスクなどを正確に認識したうえで、早めに方向性を定める必要があると思います。さきほど例に挙げたように、相続が起こってから急ぎ対応するというのでは、できることが狭まってしまう可能性がありますから。

◆スムーズに引き継ぐために、まずリスクを認識する

お医者さんの後継者選びは大変。でも決まれば早い

ここまで制度面のお話を中心にうかがってきましたが、そもそもの問題として、子どもに医者という家業を継がせるのは、他の業種に比べて、より苦労が多いようにも感じます。実際にはどうなのでしょうか?
どんなにやる気があっても、水準の高い国家資格を取る必要がありますから、時間やコストも含めた承継のハードルが高いのは、確かだと思います。少子化だし働き方は多様化しているし、医業でも子どもにすんなりバトンタッチするのは、少しずつ難かしさを増しているのかなという感じはします。
反対に、医者になった子どもが複数いる場合などに、誰が病院を継ぐかで争いになるようなケースもあると聞きます。
当事務所のお客さまでも、父親が院長の病院に兄弟で勤めていて、いざどちらが新たな院長になるかという段階で揉め、結局一方が外に出て新しく病院をつくった、という例がありました。ただ、私の経験上、そうした問題が起こるのはレアケースですね。
 
むしろ医業の場合は、「彼を跡継ぎにする」という方向性が明確になると、その後にはあまり大きな問題は起こりにくいように思うんですよ。さきほど言いましたように、後継者を決めて育てるというハードルがけっこう高いですから、そこをクリアすればわりとうまく承継は進むし、相続になっても大揉めになったりはしないように思うのです。
普通の企業に比べて、相続の争いは起きにくいということでしょうか?
当事務所には、一般の事業会社のお客さまも数多くいらっしゃいます。さきほどの話と逆で、企業経営者には基本的に難しい国家資格はいりませんよね。誤解を恐れずに言えば、多少未熟でも、“社長の器”でなかったとしても、経営者の子どもであればトップに就く「資格」があるわけです。そういう「事業承継のハードルの低さ」が、かえって兄弟間の諍いを生みやすい素地になっている面は、あるのではないでしょうか。
なまじっか手が届きそうなところにあるから、「社長は俺が継ぐ」「私にもできる」ということになる可能性があるということですね。
もちろん、そういう家族構成にある多くの会社で、事業承継をめぐるトラブルが起こっているということではありませんよ。あくまでも、医業との対比で見た場合の、私の印象です。

医療法人のM&Aも増えている

後継者がいない場合、法人を売却するという選択もあるというお話を、さきほどされました。医療法人のM&Aは、けっこう盛んに行われているのですか?
金融機関などから「病院を売りたいという人がいるのですが」という案件を持ち込まれるようなことは、ちょくちょくあります。やはり、「跡を継ぐ人間がいないから」というのが主な理由です。
 
今、1つのトレンドとしてあるのは、地方の医療法人が、東京など都市部の医療機関を買収するというパターンですね。地方にも、内部留保の厚い医療法人はたくさんあります。このままでは、人口減による先細りが目に見えているので、M&Aを東京進出の足掛かりにしたい、という思惑があるのでしょう。
売ろうと思えば、スムーズに売れる環境にありますか?
そこは、他のいろんな取引と同じで、価格設定が「適切」であれば、買い手はいると思います。医師の過剰が問題になっている歯科医院は厳しい状況ですけれど、普通の医療法人の場合は、「需給」はまだバランスしていますから。
 
法人への「出資持分あり」のほうが、売る場合には有利かもしれない、という話もしました。ただしこれも、それがメリットだと評価する相手があってこそなんですね。「持分あり」の法人の場合は、そういう買い手を見つけて交渉を進めるというのも、M&Aを成功させる1つのポイントになると思います。

1に分割、2に納税。節税はその次に考える

実際に、お医者さんの相続でシビアな争いになったようなケースはありますか?
おかげさまで、遺産分割協議がまとまらずに骨肉の争いに発展したような事例は、ほとんど経験がないんですよ。当事務所は、基本的に月に1回のペースでお客さまのところを訪問するようにしているのですが、その際に、時々の税務や経営相談に加えて、将来のこともうかがうようにしています。そうした事前のアプローチが、事業承継や相続を円滑に進めるうえで役立っているのは、確かだと感じます。
どんなアドバイスをなさるのでしょうか?
まず、先々どのようにしていきたいのかを、よくお聞きします。息子さんに継がせるのか、他の誰かを後継者に考えているのか、M&Aをやりたいのか? 状況によっては、廃業という選択だってあるでしょう。具体的な話は、あくまでもそうしたお客さまの意志を踏まえて、していくことになります。
 
例えば、前段で説明したような「持分あり」から「なし」への移行を目指すケースでも、想定される障壁は、法人によって違うのが普通です。それらをどう取り除いていくのかを、今までの蓄積も活かしながら、一緒に考えていくというスタンスで向き合うんですね。
 
ただし、医業に限らず、事業承継や相続ともなれば、“ノーリスク”というのは、現実には難しいのも事実なのです。将来考えられるリスク、例えば「ご子息へのスムーズな事業承継を第一に考えるならば、ある程度の税金の支払いが必要になるかもしれません」といった話をきちんとして、認識していただくことが、とても大事だと思っています。
そうした心構えもなく、突然現実を知らされて、「こんなはずではなかった」という状況になることが、往々にしてあるんですね。
リスクも含めて、将来がなんとなく見えていれば、覚悟も決められるわけです。見えないから、ただ不安なまま時間だけが過ぎていく、といった状況にもなってしまうのではないでしょうか。
こういう制度改革の最中にある時には、特にそうですよね。最後に、相続のアドバイスにおいて、先生が心掛けていらっしゃることを教えてください。
相続対策というと、ともすればイコール節税というイメージがあるのですけど、私はその優先順位は3番目だと思っているんですよ。遺産を分ける側が相続で最も重視すべきなのは、「分割」です。相続人の間でトラブルが起きないように、将来に渡って幸せに暮らしていくために、財産をどのように分けるのがいいのか? まずは、ここに頭を絞ってほしいんですね。
 
次に考えるべきなのは、「納税」です。すべての相続人が、その資金を確保できるようにしておかなければ、そのこと自体が争いのタネになりかねません。不動産をたくさんもらったのはいいけれど、納税のための現金が手元にないといった事態は、避けなくてはならないのです。
 
以上のメドがついたら、初めて節税の話になるでしょう。言い方を変えると、「分割」や「納税」の妨げになるような「節税」は危険です。相続税を減らす=相続財産を縮小させるために一番手っ取り早いのは、持っている現金を不動産などのモノに変えること。でも、不動産が多くなると、遺産分割はより複雑化します。借入までして不動産を購入すれば、結局、損得変わらない“トレードオフ”になってしまうかもしれません。
賃貸用の不動産を建てたのに、思うように部屋が埋まらず四苦八苦、という話もよく耳にします。
もちろん、節税は私たち税理士の大事な仕事ですが、「分けられる」「払える」とのバランスを欠いては、元も子もありません。相続に実績を持つ専門家であれば、そうした点を考慮した、相続全体を俯瞰したコントロールも可能です。不安に思う方は、ぜひ頼ってもらいたいと思います。
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