日本の「貿易収支」が大幅な赤字に 赤字の原因は? 経済への影響はあるの? | MONEYIZM
 

日本の「貿易収支」が大幅な赤字に 赤字の原因は? 経済への影響はあるの?

日本の「貿易赤字」が拡大し、ニュースになっています。財務省が発表した2022年の貿易統計によると、輸出額から輸入額を差し引いた1年間の貿易収支は、およそ20兆円の赤字になりました。赤字額は前年より18兆円あまりも増えていますから、異常事態といっていいでしょう。なぜこのような状況を招いたのか、経済や暮らしにはどんな影響が考えられるのか、解説します。

「過去最大」の赤字額

国際収支とは

ある国の一定期間におけるあらゆる対外経済取引についての経済指標を「国際収支」といい、「貿易収支」は、この国際収支の一部を構成します。国際収支の説明から始めましょう。それは、次の3つに大別されます。
 

  • ①経常収支:海外とのモノやサービスの取引、投資収益のやり取りなどの経済取引で生じた収支
  • ②資本移転等収支:生産資産(モノ・サービス)、金融資産以外の取引や資本移転で生じた収支
  • ③金融収支・・・対外金融資産・負債の増減に関する取引で生じた収支

 

さらに、①の経常収支には次のような項目があり、貿易収支はその1つです。
 

◆貿易・サービス収支:貿易収支及びサービス収支の合計。実体取引に伴う収支状況を示す。
  • 貿易収支:財貨(モノ)の輸出入の収支を示す。国内居住者と外国人(非居住者)との間のモノ(財貨)の取引(輸出入)を計上する。
  • サービス収支:サービス取引の収支を示す。

〈サービス収支の主な項目〉
輸送:国際貨物、旅客運賃の受取・支払
旅行:訪日外国人旅行者・日本人海外旅行者の宿泊費、飲食費等の受取・支払
金融:証券売買等に係る手数料等の受取・支払
知的財産権等使用料:特許権、著作権等の使用料の受取・支払

◆第一次所得収支:対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況を示す。

〈第一次所得収支の主な項目〉
直接投資収益:親会社と子会社との間の配当金・利子等の受取・支払
証券投資収益:株式配当金及び債券利子の受取・支払
その他投資収益:貸付・借入、預金等に係る利子の受取・支払

◆第二次所得収支:居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支状況を示す。官民の無償資金協力(例えばODA=政府開発援助)、寄付、贈与の受払等を計上する。

貿易収支の状況は、国の経常収支、国際収支に少なからぬ影響を及ぼすことになります。

輸出入とも過去最高だったが

22年は、この貿易収支が19兆9,713億円の赤字を計上しました。輸出入とも過去最高だったものの、大幅な輸入超過となったためです。赤字額は、前年の21年より約18兆円増えていて、比較可能な1979年以降で過去最高となりました。
 

内訳をみると、輸入額は前年比39.2%増の118兆1,573億円で、史上初めて100億円を突破しました。品目別では、原油粗油13兆2,701億円(91.5%増)、液化天然ガス8兆4,493億円(97.5%増)などの伸びが目立ちました。原油価格は、円建てで前年比76.5%上昇し、円建て単価は1キロリットル当たり8万4,728円と過去最高を記録しました。
 

一方、輸出は、自動車5兆636億円(21.4%増)、鉄鋼4兆7,388億円(24.2%増)などが好調で、前年比18.2%増の98兆1,860億円となりましたが、輸入の増加をカバーすることはできませんでした。
 

国・地域別では、対米国は6兆5,356億円の黒字、対中国は5兆8,270億円の赤字でした。エネルギー価格の上昇で、対中東は12兆6,450億円の赤字となっています。

貿易赤字をもたらした原因

資源高と円安

こうした貿易赤字の原因としてメディアで報じられているのが、石油や天然ガスなどのエネルギー資源価格の高騰による輸入額の増加と、為替の円安です。
 

資源価格は、「新型コロナ後」の世界的な景気回復に伴う需要増に、ウクライナ戦争の影響が重なって、高止まりとなっています。原発の再稼働が思うに任せない状況で、依然として発電の7割程度を火力に依存せざるをえない日本にとっては、非常に厳しい環境といえるでしょう。
 

22年は、10月に一時1ドル=150円を突破するなど、歴史的ともいえる円安に見舞われました。円が安くなるというのは、円の価値が下がることを意味します。そのため、輸入額も輸出額も「自動的に」増加します。22年の輸出入額が史上最高になったのには、そのことも関係しているわけです。ただ、輸入が輸出を上回る場合には、金額の大きな輸入のほうが、より円安の影響を多く受ける、すなわち赤字額が増幅されることになります。

日本経済の「弱体化」も一因?

これらに加え、日本経済の構造的な変化を指摘する声もあります。一般的に、為替が円安に振れるというのは、輸出に有利な環境です。海外から見れば、日本のものが安く買えることになるからです。大幅な円安になれば、輸出が急増してもおかしくはないのですが、そうはなっていません。
 

その原因の1つとして考えられているのが、製造業の海外生産シフトです。かつて日本は、高性能・低価格の工業製品を中心に、「輸出大国」の名をほしいままにしていました。ところが、電気機械などのメーカーが製造コストの安い海外に生産拠点を移した結果、輸出するにも「モノがない」状況になっているのです。

経済への影響は?

貿易赤字は続くのか

少なくとも、こうした日本の貿易赤字が早期に解消される可能性は低いようです。
 

輸入額を押し上げているエネルギー価格の動向は、当面、ウクライナ情勢の動向がカギを握っています。西側は武器の支援などを強化しているものの、アメリカの高官(制服組トップ、マーク・ミリー統合参謀本部議長)が「今年(23年)中にロシア軍を追い出すのは困難」と述べるなど、さらに長期化の様相をみせています。
 

為替の先行きも不透明です。ただ、日銀のゼロ金利政策の修正観測を背景に、円高が進むのではないか、という見方もあります。そうなれば、輸入価格の引き下げにつながり、貿易赤字の幅は縮小に向かうでしょう。ただ、それも、黒字に転換するほどのインパクトは期待できないものと思われます。

日本にとって悪いシナリオ

貿易収支は、必ずしも黒字になればいいというものではありません。日本には、アメリカなどから「集中豪雨的輸出」を批判され、貿易に関する様々な規制を受け入れざるを得なくなった歴史もあります。赤字についても、輸入が増えれば国内経済などに寄与しますから、それ自体が必ずしも「悪」というわけではないのです。
 

ただし、大幅な赤字が常態化するようなことになれば、話は別です。冒頭で国際収支の説明をしましたが、21年は、経常収支のうち第一次所得収支が21兆5,883億円の黒字、第二次所得収支が2兆4,973億円の赤字で、所得収支全体では19兆910億円の黒字でした。一方、22年の貿易赤字は20兆円弱でしたから、この黒字を帳消しにする水準です。
 

22年暦年の所得収支についてはまだ発表されていませんが、貿易赤字の大幅拡大により、国の経常収支が“プラマイゼロ”に近づいているのは確かです。ちなみに、22年10月には、単月で経常収支が赤字となりました(11月には黒字に転換)。
 

仮に、今後、暦年ベースでの経常収支の赤字が発生した場合、どんなことが起こるのでしょうか? 心配されるのは日本の「信用力」の低下です。赤字になっても、日本は21年3月末で410兆円を超える対外純資産残高がありますから、すぐに大きなリアクションが起きるようなことはないでしょう。ただし、財政で1,000兆円を超える債務を抱える日本が、同時に「経常赤字が普通の国」になると、為替市場での円売りが加速し、一気に円安が進む、といった可能性を否定できません。そうなったら、輸入価格はさらに上昇し、厳しいインフレに苛まれることになります。
 

エネルギー資源の相場を主体的にコントロールすることは不可能です。国の貿易収支を建て直すためには、生産拠点の国内回帰を促すなど、長期的視点に立った手立てが必要かもしれません。

まとめ

「貿易立国」の看板を掲げていたはずの日本の貿易収支が、大幅な赤字を記録しました。輸入に依存する資源価格の高騰、為替の円安に加えて、製造業の海外生産シフトという日本経済の構造的な問題などが原因とされ、しばらくは赤字基調が続きそうです。国の信用力低下に結びつかないよう、政府には抜本的な対策を望みたいと思います。
 

マネーイズム編集部