企業で導入が始まった「インフレ手当」 とは? 税金はかかる? – マネーイズム
 

企業で導入が始まった「インフレ手当」 とは? 税金はかかる?

電気代や食料品、生活必需品を中心に急激な価格上昇(インフレ)が進み、私たちの暮らしに大きな影響を及ぼしています。こうした中、従業員の不安を取り除くことなどを目的に「インフレ手当」の支給を始めた企業があります。具体的には、どのような中身なのでしょうか? 支給を受ける場合の注意点なども併せて解説します。

収まらない物価上昇

2022年に入り、国内の物価の上昇が加速し、収まる気配がありません。主な原因は、3つあります。
 

1つは、コロナ禍の反動です。中国やアメリカをはじめ、世界的にパンデミックで落ち込んでいた需要が回復したため、モノ不足が顕在化し、価格が上昇しました。
 

2つ目に、ロシアによるウクライナ侵攻が大きな影響を与えました。両国とも世界有数の穀倉地帯。ロシアは天然ガスなどエネルギーや木材の一大輸出国でもあります。紛争になったことに加え、ロシアの場合は、経済制裁に対する見返りという政治的意図もあって、これらの供給に支障をきたしました。
 

そして、3つ目が歴史的ともいえる円安の進行です。円相場は、9月2日、ついに24年ぶりの円安水準となる1ドル=140円台まで値下がりし、これも歯止めがかからない状況になっています。円安(円の価値の下落)が進めば、モノの輸入価格は上がります。現状は、国際相場の値上がりとの“ダブルパンチ”になっているわけです。
 

消費者物価指数は、昨年の今頃からじりじりと上昇を始め、今年4月には前年同月比2.1%アップに急伸(生鮮食料品を除く。3月は0.8%アップ)。5月、6月も2%台をキープし、7月は2.4%アップとなりました。

「インフレ手当」とは?

支給の目的

「インフレ手当」は、こうした急激な物価上昇を背景に、今年に入って一部の企業が導入を決めた新しい制度です。従業員の不安を取り除き、仕事へのモチベーションを高める、などの狙いがあるものとみられます。
 

従業員にとってありがたい制度であることはもちろんですが、人手不足に悩む企業にとっても、人材採用、離職防止といった面でのメリットが期待できそうです。

制度の中身は?

では、実際にはどんな制度なのでしょうか? 多くのメディアに取り上げられ、すでに「インフレ特別手当」を支給した(22年7~8月間に1回)IT企業サイボウズの例をみることにします。
 

同社によれば、同社の給与改定は、一部の拠点を除き、基本的に毎年1月に実施されていますが、今回はインフレへの早急な対応が必要と判断し、特別一時金の形で支給されました。支給額は、「各種情報を参照したうえで、各国・地域のサイボウズの給与、インフレによる影響額、税金、社会保険負担等も加味して決定」したということです。
 

同社の発表資料(2022年7月13日)に基づく支給の具体的な内容は、次のようなものでした。
 

  • 対象者:支給対象拠点に支給日に在籍かつ支給日以降に勤務する直接雇用メンバー(無期・有期雇用ともに)
  • 支給時期:7〜8月間に1回(給与支給のタイミングにより、各拠点で決定)
  • 支給額:月の就業時間に対し、以下の金額とする。

【日本】

  • 128時間超/月(8時間/日で週4日超勤務): 15万円
  • 96時間超128時間以下/月(8時間/日で週3日超勤務): 12万円
  • 64時間超96時間以下/月(8時間/日で週2日超勤務): 9万円
  • 64時間以下/月(8時間/日で週2日以下勤務): 6万円

()内は目安の勤務時間/日数

【その他の拠点】
各拠点で金額を決定し、支給。海外赴任メンバーは、駐在先または駐在元拠点の多いほうの支給額とする。
 

つまり、契約社員やアルバイトを含む従業員を対象に、最高15万円が「一時金」のかたちで支払われたわけです。
 

初めての試みということで、従業員からは様々な質問も寄せられ、それに答えるかたちで、同社は制度について次のように説明しています。
 

  • サイボウズでは外部の給与相場も給与評価時の指標の一つになっており、今後デフレ(物価下落)になった場合には、逆に給与が下がることがあり得るかもしれない。
  • 希望すれば「辞退」することも可能。実際に扶養の関係などで辞退した従業員もいる。
  • 今回は、急速なインフレに対応したもので、今のところ継続支給の予定はない。
  • 支給額については、民間のアナリストなどが出しているデータなど、様々な調査を参考に決定した。
  • 他社の導入例は?

    報道によれば、同社のほか次のような企業が、同様の手当や給与の底上げを実施、ないし予定しているそうです。

    ●ケンミン食品「インフレ手当」

    7月8日の賞与支給にあわせて、今年1月までに入社した正社員と契約社員190人に支給。支給額は、在籍日数1年以上の正社員と契約社員170人には一律5万円、それ以外の20人には、在籍日数に応じて1万~3万円。物価上昇の推移を見ながら、追加の支給も検討。
     

    ●大都「インフレ特別手当」

    全社員29人に、一律10万円を支給。
     

    ●ノジマ「物価上昇応援手当」

    正社員と契約社員の計約3,000人を対象に、7月支給分の給与から毎月1万円を支給。
     

    ●トヨクモ

    来年度、業績変動の影響を受けない固定賞与を1ヵ月分引き上げる。
     

    「インフレ手当」の注意点

    所得税は課税される

    企業によって、一時金として支給されたり、継続的な「賃上げ」だったりしますが、いずれにしても、そのまま手取りになるわけではなく、所得税が課税されます。所得税は、所得が増えるほど段階的に税率が上がる仕組み(累進課税)になっていますから、手当をもらったために納税額が大きく増える、ということも可能性としてはあり得ます。
     

    また、サイボウズ社の説明でも出てきた、扶養関係には気をつける必要があります。世帯主の扶養に入っている場合、給与所得が103万円を超えると、配偶者控除が受けられなくなります。一方、世帯主のほうも、所得が1,000万円を超えると、やはり控除は受けられません。支給額と控除額のバランスは、検討の要ありです。
     

    継続的なサポートが必要

    最初に説明したように、最近のインフレには、円安という構造的な要因が絡んでいることもあり、ウクライナ紛争が終われば沈静化する、といった単純なものではなさそうです。生活水準の低下を防ぐためには、こうした取り組みを行う企業が増え、さらには継続的に従業員をサポートしていく制度を構築していくことが求められるでしょう。

    まとめ

    急激な物価上昇を背景に、「インフレ手当」を創設する企業が出てきました。継続的な生活支援を行うことは、従業員にとってメリットがあるだけでなく、離職の防止などの面で、企業にとっても大きなプラスになる可能性があります。
     

    マネーイズム編集部
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