「年金211万円の壁」とは? ポイントの「住民税非課税世帯」について解説 | MONEYIZM
 

「年金211万円の壁」とは? ポイントの「住民税非課税世帯」について解説

年収には、その金額を超えると税金や社会保険の扱いが不利になる「壁」が、いくつかあります。例えば、パートの給与が年収103万円を超えると税金が増える「103万円の壁」、合計年収が130万円を超えると扶養から外れる「130万円の壁」などです。一方、リタイア世代にも「年金211万円の壁」があることをご存知でしょうか。その中身、注意点などを解説します。

住民税の課税・非課税の「壁」

結論をいえば、「年金211万円の壁」の211万円とは、年金収入のみで生活している65歳以上の夫婦2人の世帯が、「住民税非課税世帯」になるかどうかのボーダーラインとなる年金収入額を意味します。収入がこれを超えるかどうかで、税金の支払い以外にも、後述するような有利・不利が生じるのです。
 

「壁」の条件について、詳しくみていきましょう。

世帯主の年金収入が211万円以下

正確には、211万円は、1級地(「級地」については後述します)に住む世帯主の年金収入についての基準です。収入がこの金額を超えれば、住民税非課税世帯には該当しません。
 

65歳以上の年金生活者である世帯主の非課税限度額は、次のように計算されます。
 

・35万円(a:基礎控除)×2(世帯人員)+10万円(所得金額調整控除)+21万円(b:被扶養者がいる場合に加算できる金額)=101万円

 

年金収入は、公的年金等控除(110万円)が受けられます。ですから、101万円+110万円=211万円が住民税非課税限度額となるわけです。

配偶者の年金収入が155万円以下

ただし、住民税非課税世帯とされるのは、世帯の全員、すなわち配偶者についても非課税レベルの収入であることが前提です。配偶者(65歳以上)の収入の上限は、155万円となります。世帯主が「211万円の壁」をクリアしていても、配偶者がこれを上回った場合には、やはり非課税世帯には該当しません。
 

計算方法は、以下の通りです。
 

・35万円(a:基礎控除)+10万円(所得金額調整控除)=45万円

 

これに公的年金等控除を加算し、45万円+110万円=155万円となります。

「203万円の壁」「193万円の壁」もある

また、この「壁」=住民税非課税限度額には、居住地の「級地」により3パターンがあり、説明してきたのは大都市圏を中心とする「1級地」の基準です。「級地」とは、生活保護による扶助を行う際に、地域ごとの物価や生活水準の差などを、保護の基準額に反映させることを目的に定められました。
 

級地ごとに、さきほどの計算式のaとbに差が設けられており、それに基づく非課税限度額(65歳以上)を整理すると、次のようになります。
 

世帯主 配偶者
1級地(大都市など) 211万円 155万円
2級地(中核都市など) 203万円 152万円
3級地(それ以外) 193万円 148万円

級地区分の詳細は「級地区分(H30.4.1)❘厚生労働省」をご覧ください。

そもそも住民税非課税世帯とは

ところで、コロナ禍に伴う低所得の世帯への給付の際にも、「住民税非課税世帯 」という基準がクローズアップされました。最後にその概要について述べておきたいと思います。

非課税世帯の要件

住民税は、「所得割」と「均等割」から成ります。所得割とは、所得額に応じて課税される部分で、標準的な税率は10%(都道府県民税4%、市区町村民税6%)です。均等割は、所得に関係なく課税される部分で、基本的には都道府県民税が1,500円、市区町村民税が3,500円です。ただし、自治体によっては金額が異なる場合があります。
 

住民税非課税世帯とは、一般にこの所得割と均等割の両方が非課税になる世帯のことをいいます。その要件は、次の通りです。
 

  • 生活保護法による生活扶助を受けている場合
  • 障害者・未成年者・寡婦またはひとり親で、前年の合計所得金額が135万円以下(給与所得者の場合は、年収204万4,000円未満)の場合
  • 前年の合計所得金額が下記の金額以下である場合
  •  

    <同一生計配偶者または扶養親族がいる場合>
    ・35万円×(本人・同一生計配偶者・扶養親族の合計人数)+31万円
     

    <同一生計配偶者または扶養親族がいない場合>
    ・45万円

    ※地域によって金額が異なることがあります。

     

    また、世帯の全員が住民税非課税である必要があります。

    住民税非課税世帯はどれくらいある?

    では、いったいどれくらいの世帯がその対象となっているのでしょうか。厚生労働省の「2021年国民生活基礎調査」によると、世帯総数5,142万のうち、住民税課税世帯は3,924万となっており、残りの1,218万世帯が「非課税」であることがわかります。全世帯の1/4近くに住民税が課税されていないことになります。
     

    この調査には、年代別の住民税納付状況も明示されています。それを基に、年代別の住民税非課税世帯数(万世帯)とその比率を計算すると、次のようになります。
     

    年代 世帯数 非課税世帯数 非課税世帯に占める比率
    29歳以下 149 35(23.5%) 2.9%
    30~39歳 354 40(11.3%) 3.3%
    40~49歳 640 57(8.9%) 4.7%
    50~59歳 840 87(10.4%) 7.1%
    60~69歳 1,063 220(20.7%) 18.1%
    70~79歳 1,317 436(33.1%) 35.8%
    80歳以上 778 343(44.1%) 28.2%
    総数 5,142 1,218(23.7%)

    出所:2021年 国民生活基礎調査【厚生労働省】
     

    例えば80歳以上の世帯では、44.1%が所得税非課税世帯で、非課税世帯全体の28.2%は、この世代が占めていることになります。
    いわゆる年金世代である60代以上の所得税非課税世帯は999万世帯で、非課税世帯全体の82%に達します。つまり、所得税非課税世帯という基準で給付金などを支給すれば、その8割を年金世代が手にする一方、子育て世代の家庭などには、ほとんど分配されないことになるわけです。

    住民税非課税世帯が受けられる優遇措置とは

    住民税非課税世帯に該当すると、さまざまな優遇措置を受けられます。では、どのようなメリットがあるのでしょうか。

    (1)住民税がかからない

    そもそも論をいえば、年金生活者といえども、現役世代同様住民税の納税義務があります。しかし、冒頭で説明した「世帯主の年金収入が211万円以下」かつ「配偶者の年金収入が155万円以下」であれば課税されません。

    (2)国民健康保険料、介護保険料が安くなる

    「国民健康保険料」と「介護保険料」が減額されるのも大きなメリットです。減額の幅は、自治体によって異なります。

    (3)高額療養費、高額介護サービス費でもメリットが

    「高額療養費制度」では、同一月に高額な医療費の自己負担が必要となった際に、限度額を超えた分について還付(払い戻し)を受けられます。住民税非課税世帯は、この自己負担の限度額が低く設定されています。つまり、同じ支払額でも、課税世帯に比べて多くの還付を受けることができます。
     

    また、介護サービスを利用した際に発生する一定額以上の費用に関して毎月還付を受けられる「高額介護サービス費」についても、課税世帯に比べ上限額が低く設定されています。

    (4)自治体による特典を受けられる

    年金生活者で住民税非課税世帯になると、住んでいる自治体によって、例えばインフルエンザなどの予防接種の無料化、「シルバーパス」の減額といったサービスを受けられることがあります。

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    住民税非課税世帯の支援制度で得するのはどの世代?

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    まとめ

    年金にも「211万円の壁」がありました。年金収入を抑えることで、住民税が非課税になるなどのメリットがありますが、意図的な減額にはリスクも伴います。年金の「繰上げ受給」などについては、慎重に判断するようにしましょう。

    マネーイズム編集部
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