開業医と医療法人で税金はどう違う? 医療業の優遇税制とは?

開業医と医療法人で税金はどう違う? 医療業の優遇税制とは?
公開日:
2021/06/03
最終更新日:
2024/04/09
 
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個人で医院・クリニックを開業し、順調に利益が上がるようになると、今度は「法人化すべきかどうか」を検討し始める人が多くなります。ただ、医療法人には、より高い公共性が求められるなど、一般の業種との違いもあります。今回は、個人クリニックと医療法人の特徴、法人化のメリット・デメリットをはじめ、「医療業と税金」について解説します。

個人クリニックには所得税、医療法人には法人税が課税される

個人のクリニック・医院の経営は、個人事業主として営利を追求することができます。
一方、医療法人は、法人格を取得するには都道府県知事の認可が必要で、設立された法人は、公共性の高い非営利組織という位置づけになります。
ただ、課税される主たる税金が、個人クリニック・医院は所得税、医療法人になると法人税という点は、一般の会社と変わりません。
そのため、所得が一定レベルを超えると、「法人にした方が節税になる」状態が生まれます。

所得税は、所得が上がるほど税率も高くなる累進課税になっていて、最高税率は45%(所得4,000万円以上)。地方税なども合わせると、55%ほどにもなります。
一方の法人税は、出資金1億円以下の法人の場合、所得が800万円以下の部分が15%、800万円超の部分が23.2%となっていて、法人事業税などを加えた実効税率(実質的な税負担)は30%程度です。

法人化には所得分散のメリットもある

法人化をすると、今まで個人事業主として収入を得ていた院長は、医療法人から役員として給与を受け取ることになります。その給与には所得税が課税されるわけですが、先ほど説明した累進課税の下で元々高い税金を納めていた(あるいは納めることが予想される)場合には、所得を法人所得(法人税)と個人所得(所得税)とに分散することで、納税額の総額を抑えることが可能になります。
ただし、個人所得を大きくし過ぎれば、節税メリットが薄れる可能性もありますから、両者のバランスには注意しなくてはなりません。

なお、個人の収入を給与として受け取る場合には、給与所得控除が認められます。「サラリーマンの必要経費」とも言われるもので、収入金額に応じて一定の金額がそこから差し引かれるため、所得額が小さくなる=支払う税金を減らせるのです。

法人化のデメリット・注意すべき点は?

ただし、税金面で個人クリニックと医療法人のどちらが有利なのかという損益分岐点はケースバイケースのため、「所得がこのラインを超えたら法人化」ということは、一概には言えません。
また、同時に、法人化には、次のようなデメリットもあります。所得水準と併せて検討する必要があるでしょう。

  • 法人は、個人に比べ経理・税務処理が複雑で書類も多く、関連コストがアップする。
  • 法人と個人の2本立ての税務処理を行う必要があり、その点でもコストアップが避けられない。
  • 法人になると、社会保険などへの加入義務が生じる。
  • 個人クリニックなら加入でき、節税対策にもなる(掛金が経費計上ないし所得控除できる)「小規模企業共済」(※1)、「経営セーフティ共済」(※2)を利用できない。
  • 高い公共性が求められる医療法人は、法律で「剰余金の配当」を禁じられているため、利益の分配ができない。
※1小規模企業共済:小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための積み立てによる退職金制度。
※2経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度):取引先事業者が倒産した際に、連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐため、無担保・無保証人で借入れできる制度。

医療業独自の「優遇税制」には収入制限がある

公共性の“縛り”がある医療業ですが、一方で他業種にはない税制面での優遇措置があります。
社会保険診療報酬の金額に従って、経費を概算で計算して差し引ける」という所得計算の特例で、個人クリニック・医院にも医療法人にも適用されます(医師優遇税制と呼ばれることもあります)。
控除額は、以下の表に従って計算されます。

社会保険診療報酬の金額 控除率
2,500万円以下 72%
2,500万円超から3,000万円以下 70%
3,000万円超から4,000万円以下 62%
4,000万円超から5,000万円以下 57%

具体的には、「社会保険診療報酬金額が2,500万円以下の部分は72%、2,500万円超~3,000万円以下の部分には70%」といったように、段階的に控除率が適用されることになります。
理屈の上では、実際に使った経費がゼロでも、この概算に従った控除ができるわけです。

ただし、対象になるのは「社会保険診療報酬について」です。自由診療による収入は、通常の経費計算を行う必要がありますので、注意してください。

また、収入についても、次のような条件があります。

  • 社会保険診療報酬が5,000万円以下であること
  • 自由診療を含めた医療業収入の合計が7,000万円以下であること

つまり、ある程度まで成長した医療法人などでは、この制度は使えません。逆に言えば、クリニック・医院開業当初の事業者にとっては大いに活用できる特例で、この時期にできるだけ経費を抑えることで、手元に将来に向けた資金を多く残すことができるでしょう。

もちろん、実際に使った経費が概算額より大きければ、通常のやり方で経費計上することもできます。事前に税務署への届け出などは不要で、申告の際に選択できるのもメリットです。

法人化を検討するなら医療業に詳しい税理士に相談しよう

個人クリニックと医療法人には、税金面をはじめとするメリット・デメリットがそれぞれあります。法人化を検討する場合には、医療業界に詳しい税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

この記事の執筆者
税理士紹介センタービスカス編集部
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