公益性が高いから法人税はかからない?
「社会福祉法人」の税金について解説します

公益性が高いから法人税はかからない?  「社会福祉法人」の税金について解説します
公開日:
2021/09/06
最終更新日:
2023/05/04
 
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社会福祉法人は、営利を目的とする一般企業とは違うため、法人税が課税されないと思われがちですが、それは違います。社会福祉法人には多くの税制上の優遇措置が設けられているものの、行う事業によっては課税対象になる場合があるので、注意が必要です。その基準は、「収益事業」かどうか。今回は、社会福祉法人の税金のポイントを解説します。

そもそも社会福祉法人とは?

社会福祉法人が行える事業は3種類

社会福祉法人の「社会福祉事業」には、第1種社会福祉事業(特別養護老人ホーム、児童養護施設、障害者支援施設、救護施設など)と、第2種社会福祉事業(保育所、訪問介護、デイサービス、ショートステイなど)があります。これらが、社会福祉法人の主たる事業です。

社会福祉法人は、この他にも「公益事業」「収益事業」を行うことができます。「公益事業」は、子育て支援事業、入浴・排泄・食事等の支援事業、介護予防事業、有料老人ホーム、老人保健施設、人材育成事業などが該当します。また、「収益事業」は、貸しビル、駐車場、公共的な施設内での売店の経営などで、収入は社会福祉事業や公益事業の運営に充てられます。

税は優遇されている

通常、法人の所得には、その全額に「法人税」が課税されます。しかし、社会福祉法人の場合、収益事業に関する所得だけが法人税の課税対象で、それ以外に対して法人税はかかりません。裏を返せば、収益事業には課税されます。そして、収益事業に該当するかしないかの見極めには、後述するように注意が必要です。
なお、社会福祉法人は、所得税法の「公益事業等」に該当するため、課税された場合の税率も、一般の企業より優遇されています(収益事業から生じた所得の19%、年800万円以下の金額については15%)。

「消費税」に関しても、多くの取引が非課税扱いになっています。また、契約書の作成の際などに必要な「印紙税」も、社会福祉法人にはかかりません。不動産を取得したり、保有したりする場合も税金の優遇が受けられます。社会福祉法人が社会福祉事業のために取得した不動産に対しては、「不動産取得税」「登録免許税」が課税されません。社会福祉事業のために保有している不動産は、原則として「固定資産税」の非課税対象です。

社会福祉法人 一般企業
法人税 基本的に非課税。ただし、法人税法で規定する収益事業を行っている場合には、課税される。「医療保険業」を営む場合は、非課税。 普通法人には、一律23.20%が課税される。
住民税 法人税割:収益事業を行っている場合には、課税される。
均等割:基本的に課税される。ただし、収益の90%以上を社会福祉事業の経営に充てる場合には、非課税。
・法人税割:都道府県は「法人税額×1.0%」、市町村は「法人税額×6.0%」。黒字法人のみに課税される。
・均等割:資本金額、従業員数に応じて、等しく課税される。
事業税 収益事業を行っている場合には、課税される。 法人が行う事業に対して課税される都道府県税。法人の種類、規模、所得などに応じて課税される。
消費税 収益事業を行っているか否かにかかわらず、納税が必要。ただし、非課税取引が多い。 納税が必要。
源泉所得税 納付義務あり。 給与や報酬から源泉徴収して納める所得税。納付義務あり。
印紙税 収益事業に関する領収書も含めて、非課税。 経済取引などに伴う契約書や領収書などの文書を作成した場合に、印紙税法に基づきその文書に課税される税金。法に定める20種類の文書に課税される。
固定資産税 社会福祉事業のための不動産は、非課税。 土地や家屋、償却資産に、原則として「固定資産税評価額(課税標準額)×標準税率(1.4%)」が課税される。

法人税は何に課税されるのか?

課税される「収益事業」とは?

説明したように、社会福祉法人は、その「収益事業」のみに法人税が課税されます。
ここで気をつけたいのが、さきほど説明した「社会福祉法上の収益事業」と、「法人税法上の収益事業」はイコールではない、ということです。
つまり、前者の収益事業(貸しビルや駐車場など)をやっていないから法人税は非課税、と思い込んでいると、最悪の場合「申告漏れ」を指摘される可能性があるのです。

では、税法上の収益事業とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか? 要件は2つあります。

1つは、「販売業、製造業その他の政令で定める事業」(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む)で、具体的には、法人税法に34業種が限定列挙されています。詳しくは「一般社団法人・一般財団法人と法人税」(国税庁) をご参照ください。
2つ目は、「継続して事業場を設けて行われているもの」とされています。

この両方に該当すれば、法人税の課税対象になるわけで、例えば「社会福祉法上の公益事業」である有料老人ホームを運営して得た所得には、税金がかかることになります。
しかしながら、法人の行っている事業が「所得税法上の収益事業」に該当するかどうか、微妙なケースも、実際にはあるのです。

非収益事業となるケースは?

さらに言うと、「所得税法上の収益事業」に該当しても、「非収益事業」として課税されない場合もあります。

不動産貸付業・席貸業(施設の一部を使用させること)は、さきほどの34業種の事業に当たるのですが、社会福祉法人が医療保険業や社会福祉事業として行う場合は、非収益事業となります。
また、国や地方公共団体から事務処理の委託を受けた場合には、同じく請負業に該当しますが、委託の対価が事務処理のために必要な費用を超えず、あらかじめ所轄税務署長の確認を受けた場合には非収益事業となります。
さらに、障害者・生活保護者・寡婦・高齢者(65歳以上)が、その事業に従事する者の総数の半数以上を占め、かつ、その事業がこれらの者の生活の保護に寄与している事業も、非収益事業となります。

社会福祉法人の事業については、このほか、収益事業に属する資産のうちから非収益事業のために支出した金額については、一定の限度額まで損金に算入できる優遇制度(「みなし寄付金制度」)が設けられています。

「みなし寄付金制度」とは、収益事業→非収益事業という法人内の資金移動を「寄付」とみなして税を優遇するもので、公益法人に認められています。ただし、「寄付」には限度額が設けられており、社会福祉法人の場合は、

  • 寄附金支出前の所得金額の50%
  • 年200万円

のどちらか大きい金額まで、損金とすることができます。
「みなし寄付金制度」を利用する場合には、収益事業から非収益事業に、実際に資金を移動させる必要があります。「収益事業以外の事業から収益事業へその金銭等の額に見合う金額に相当する元入れがあったものとして経理するなど実質的に収益事業から収益事業以外の事業への金銭等の支出がなかったと認められるとき」には、適用されませんから、注意しましょう(法人税法基本通達15-2-4)。

まとめ

説明したように、「所得税法上の収益事業」の線引き、さらには「非収益事業」の見極めなどには、専門知識が必要です。判断に迷うような場合には、社会福祉法人に詳しい税理士に相談してみることをお勧めします。

この記事の執筆者
税理士紹介センタービスカス編集部
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