芸能業・タレント業の税務を解説 確定申告は必要?経費にできるものは何?
- 最終更新日:
- 2025/12/18

- この記事の監修者
- 樽澤岳一郎税理士事務所
代表 樽澤岳一郎(税理士)
確定申告が必要な人は?
俳優、女優、声優、歌手、アイドル、モデルなどの芸能活動で得た所得には、所得税が課税されます。ただし、同じ所得でも「給与所得」なのか「事業所得」なのかによって、申告・納税のやり方が違ってきます。
給与所得になる場合とは?
芸能活動を行うときには、プロダクションと契約することが多いでしょう。そのプロダクションと「雇用契約」を結んで(=雇われて)、活動の対価を給与(固定給、固定給+歩合、完全歩合)で受け取る人は「給与所得者」になります。普通のサラリーマンと同じで、所得税や住民税は、毎月の給与から天引き(源泉徴収)され、もし“取られ過ぎ”があった場合には、年末調整で戻ってきます。
そのため、芸能活動で得た所得の税金については、基本的に「事務所任せ」で問題ないでしょう。ただし、年収が2,000万円を超える場合には自分で確定申告をしなくてはなりません。
事業所得になる場合とは?
一方、プロダクションに雇われるのではなく、単に「マネジメント契約」を結んで活動する人は「個人事業主」で、その所得は「事業所得」となります。この場合には、自ら確定申告する必要があります。
専業で芸能業に携わっている人はもちろん、会社勤めやアルバイトをしながら、兼業・副業で活動している人も、そこで得た所得(収入ではないため注意が必要です。後述で説明します)が20万円を超えた場合には、申告しなくてはなりません。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 給与所得か事業所得かの判断は、契約書の中身だけで形式的に判断することはできず、その実態で判断されうるものなので、所属するプロダクションにもあらかじめよく確認をしておいてください。
- 樽澤岳一郎税理士事務所
代表 樽澤岳一郎(税理士)
確定申告で注意すべきこととは?
確定申告では「所得」の正確な計算と「必要経費」の適切な計上が節税の鍵になります。受け取ったギャラ(収入)から経費を差し引いた金額が「所得」となり、この所得に税率を掛けて税額が決まります。所得税は累進課税のため、所得が増えるほど税率も上昇(最高45%)──認められる経費を漏れなく計上することで、大きな節税効果が生まれます。芸能業では「衣装代」「美容費」「研修費」など、経費として認められるか判断が微妙なケースが多く、税務署に否認されるリスクと、経費にできたのに見逃すリスクの両方があります。
申告のベースになる「所得」とは?
確定申告は、毎年1月1日〜12月31日の所得と税額を計算し、原則として翌年3月15日(2026年申告は3月16日)までに税務署へ申告・納税する手続きです。所得があるのに申告しなかったり、実際と異なる内容で申告すると、無申告加算税(15〜20%)や過少申告加算税(10〜15%)、悪質な場合は重加算税(35〜40%)などのペナルティが課されます。
節税の最大のポイントは「必要経費」の適切な計上です。多くの人が誤解していますが、収入と所得は全く別の概念です。受け取ったギャラの総額が「収入」、そこから仕事に必要な経費(スタイリスト報酬、衣装代、交通費など)を差し引いた残りが「所得」になります。
所得税は、この所得に対して税率を掛けて計算されます。例えば、年収1,000万円で経費が200万円なら所得は800万円。経費が400万円なら所得は600万円となり、200万円の差で約40万円の税額差(所得税・住民税合計)が生じます。
所得税は「累進課税」のため、所得が増えるほど税率も上昇します(195万円以下5%、330万円以下10%、695万円以下20%、900万円以下23%、1,800万円以下33%、4,000万円以下40%、4,000万円超45%)。このため、認められる経費を漏れなく計上することが、節税において極めて重要な意味を持ちます。
何が経費にできるのか?
すべての領収書が経費になるわけではありません。「事業で収入を得るために必要な費用」であることが必要経費の要件です。逆に言えば、生活費の支払いは必要経費になりません。また、事業と生活の両方に使用する費用(携帯電話料金、自宅兼事務所の家賃など)は、事業使用分のみを按分計算して経費にできます。
問題は、その線引きです。税法に「芸能業の経費はこれ」と具体的に列挙されているわけではなく、個別の状況に応じて判断する必要があります。芸能業は特に判断が微妙なケースが多い業種です。例えば「役作りのための飲食」「自己ブランディングの美容費」「取材目的の観劇」など、仕事と私生活の境界が曖昧なケースが頻発します。
判断を誤ると、税務調査で否認されて追徴課税を受けるリスクがある一方、本当は経費にできたのに計上しなかったという「過剰納税」のリスクも同時に存在します。税務署に説明できる合理的な理由があるかが判断の分かれ目です。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 売上原価のように収入に直接対応する費用と、販売費一般管理費のようにその年分の業務について生じた期間対応の費用があります。原則としてその年の12月31日現在で債務の確定しているものに限られます。
- 樽澤岳一郎税理士事務所
代表 樽澤岳一郎(税理士)
以下、芸能業でよくある経費項目について、認められる範囲と判断基準を詳しく解説します。
衣装代
ステージ専用の特殊な衣装(舞台衣装、コスプレ衣装、キャラクター用の特注服など)は全額経費にできます。これらは明らかに「仕事専用」であり、私生活で着用する可能性がないためです。
一方、仕事にも使えるが普段着としても着られる洋服(スーツ、ワンピース、カジュアルウェアなど)は、全額経費にするのは困難です。この場合、購入金額の50%など、事業使用分を按分して経費計上することが可能です。ただし、なぜその按分比率になるのか、合理的に説明できることが必須です(撮影日数、着用頻度、クリーニング記録などで根拠を示す)。
例:月10日稼働のモデルで、撮影時のみ着用する服は「10日÷30日=33%」を事業使用分として按分。ただし、その服を私生活で一切着ないなら、より高い比率(70〜100%)も認められる可能性があります。
美容室代、エステ代、化粧品代
撮影やステージに合わせた特別な施術(ヘアセット、特殊メイク、エクステ装着など)で、仕事終了後に元に戻すものは全額経費にできます。これは明らかに「仕事のためだけ」の支出だからです。
通常の美容室代や化粧品代など、仕事と私生活の両方に関わるものは按分計算が必要です。例えば、月2回の美容室のうち1回が撮影前の特別セットなら50%を経費に、日常的なカット・カラーは按分比率を低めに設定します。
化粧品は「舞台用の特殊コスメ」と「日常使いできるコスメ」で扱いを分けてください。ドーラン、ボディペイント、つけまつげ(業務用)などは全額経費、一般的なファンデーションやリップは按分が妥当です。レシートに「撮影用」などのメモを残すと、税務調査で説明しやすくなります。
人件費
仕事のために雇用または業務委託したマネージャー、付き人、スタイリスト、カメラマン、動画編集者などへの報酬は全額必要経費です。雇用の場合は給与として、業務委託の場合は外注費として計上します。
注意点として、家族への給与は「青色事業専従者給与」の要件を満たす必要があります。事前に税務署へ届出を提出し、業務内容と給与額が適正であることが求められます(例:配偶者に月10万円支払う場合、週3日以上の実働と業務記録が必要)。
事務所の家賃
仕事専用の事務所を借りている場合、その家賃は全額経費にできます。賃貸契約書で事務所使用が明確であることが前提です。
自宅を「事務所兼用」にしている場合は按分計算が必要です。一般的な按分方法は「床面積比」で、例えば50㎡の自宅のうち10㎡を仕事部屋にしているなら20%(10÷50)を経費計上します。按分比率は「使用面積」「使用時間」など、客観的な基準で算定してください。「なんとなく30%」では税務調査で否認されるリスクがあります。
事務所の水光熱費
仕事専用の事務所なら、水道光熱費(電気・ガス・水道)は全額経費です。自宅兼事務所の場合は、家賃と同じ按分比率を使用するのが一般的です(床面積比20%なら、光熱費も20%を経費計上)。
より精緻に計算するなら、電気代は「仕事時間÷総時間」で按分する方法もあります。例えば、月200時間仕事をし、月720時間(30日×24時間)のうち28%(200÷720)を経費にする考え方です。
通信費
仕事専用の携帯電話・インターネット回線なら全額経費、私生活と共用なら按分計算が必要です。携帯電話の按分は「通話時間」「データ使用量」などで判断しますが、実務上は「仕事用:50%、プライベート:50%」など、説明可能な固定比率を設定するケースが多いです。
郵送費(台本送付、ファンレター返信など)は、仕事関連であることが明確なら全額経費にできます。
旅費交通費
仕事のための移動費用(電車・バス・タクシー・飛行機・新幹線・宿泊費)は全額経費です。撮影現場への移動、オーディション、打ち合わせ、営業活動などが該当します。
領収書またはICカード履歴を必ず保存してください。特にタクシー代は金額が大きいため、「どこからどこまで」「何の仕事で」をメモしておくと税務調査で安心です。地方ロケの宿泊費・飲食費も、仕事目的であれば経費にできます(ただし、観光部分は除く)。
接待交際費
仕事関連であることが明確な飲食費、接待費、プレゼント代、花代、祝儀、香典は経費にできます。例えば、プロデューサーとの打ち合わせ食事、共演者への差し入れ、関係者の結婚祝い・お葬式などです。
仕事仲間との単なる飲み会や、私的な友人との食事は認められません。領収書の裏に「誰と」「何の目的で」を必ずメモしてください。税務調査では「この飲食は誰との何の打ち合わせですか?」と必ず聞かれます。記録がないと否認されるリスクが高まります。
個人事業主の場合、接待交際費に上限はありませんが、売上規模に対して不自然に高額だと税務署に指摘される可能性があります(目安:売上の5%以内)。
研究費、研修費
役作りに必要な研修、トレーニング、芸能関係の書籍、観劇、資料収集、勉強会、取材旅行などは必要経費です。例えば、時代劇出演のための殺陣教室、ミュージカルのためのボイストレーニング、役作りのための映画鑑賞などが該当します。
ただし、「仕事のため」であることを客観的に説明できることが必須です。「何となく勉強になる」ではなく、「〇月〇日の△△役のために××を研修」と具体的に記録してください。特に海外旅行を「取材」として経費にする場合は、旅行後にレポートや成果物を残しておくと説得力が増します。
広告宣伝費
自己プロモーションのためのポスター、パンフレット、名刺、ノベルティグッズ、公式サイト制作費、SNS広告費などは経費にできます。近年増えているのは、YouTubeやTikTokなどの動画編集ソフト代、撮影機材費、照明器具などです。
公式サイトのドメイン・サーバー代(年間数千円〜数万円)、プロによる写真撮影費(1回3万円〜10万円)なども広告宣伝費として計上できます。
税理士などへの報酬
税理士、弁護士、社労士などの専門家への報酬や手数料は全額経費です。確定申告の税理士報酬(年間10万円〜30万円程度)、契約書チェックの弁護士費用、給与計算の社労士費用などが該当します。
税理士との顧問契約(月額1万円〜3万円)や、スポット依頼の申告書作成(10万円〜20万円)も、もちろん経費にできます。専門家への報酬は「支払調書」が発行されるため、記録が明確で税務調査でも問題になりにくい経費です。
確定申告は税理士に依頼すべき?
芸能業の確定申告は、経費判断の難しさと本業への時間確保の観点から、税理士への依頼を強く推奨します。税理士に依頼する主なメリットは「正確な申告」「時間の節約」「税務署からの信用獲得」の3点です。自分で申告すると、経費の判断ミスによる否認リスクや、記帳・決算書作成に月10〜20時間を費やす負担が生じます。税理士報酬は年間10万円〜30万円程度ですが、節税効果と本業への時間投資を考えれば十分に回収できる投資です。特に年収500万円を超える場合、税理士の専門知識によって報酬以上の節税メリットが得られるケースが多くあります。
正確な申告が行える
税理士は税務のプロフェッショナルであり、芸能業特有の経費判断を正確に行えます。前述したように、芸能業では「衣装代」「美容費」「研修費」「接待交際費」など、経費として認められるか微妙なケースが頻発します。自分だけで判断すると、過剰に経費計上して税務調査で否認されるリスクと、本来経費にできるのに計上せず過剰納税するリスクの両方があります。
税理士に依頼すれば、税法の最新動向と過去の税務調査事例に基づいた、税務署に認められる範囲での経費計上が可能です。例えば、按分比率の設定根拠、領収書への必要なメモ書き、証拠資料の保管方法など、税務調査を見越したアドバイスを受けられます。
また、青色申告特別控除(最大65万円)の適用要件、消費税の課税事業者判定(年収1,000万円超)、インボイス制度への対応など、複雑な税務判断を任せられます。税理士関与があれば、申告内容の信頼性が高まり、税務調査のリスク自体が低下します。
時間を節約できる
税理士に依頼すれば、確定申告にかかる年間50〜100時間を本業に振り向けられます。自分で確定申告する場合、以下の作業が必要です。
・日々の領収書・レシート整理(月2〜3時間)
・会計ソフトへの記帳入力(月3〜5時間)
・経費科目の判断と按分計算(月1〜2時間)
・決算書・確定申告書の作成(10〜20時間)
・税務署への提出と納税手続き(2〜3時間)
これらを合計すると、年間50〜100時間を経理作業に費やすことになります。税理士事務所の多くは、記帳代行から決算書作成まで一括で依頼できます。依頼者は領収書を月1回郵送またはスキャン送付するだけで、あとは税理士が処理してくれます。
芸能業では、自分に代わって営業活動や撮影をしてくれる人はいません。任せられる確定申告は税理士に依頼し、オーディション、営業、スキルアップなど、替わりのきかない芸能活動に専念する方が、中長期的なキャリア形成において効率的です。
例えば、月5時間の経理作業を削減できれば、年間60時間を本業に使えます。この時間でオーディションを10件多く受けたり、ボイストレーニングを20回増やしたりできれば、将来の収入増につながる可能性が高まります。
信用を得られる
決算書に税理士の署名・押印があれば、税務署からの信頼性が大幅に向上します。税務署は、税理士が関与している申告書については「専門家がチェックしている」と判断し、税務調査の対象に選定される確率が低くなります。
実際、国税庁のデータによれば、税理士関与のない申告書は、税理士関与の申告書に比べて税務調査の対象になる確率が2〜3倍高いとされています。一度税務調査の対象になると、過去3〜5年分の全書類をチェックされ、対応に数週間〜数ヶ月を要します。調査中は精神的な負担も大きく、本業に支障が出るケースも少なくありません。
また、金融機関から融資を受ける際や、賃貸物件を借りる際にも、税理士関与の決算書は信頼性の証明になります。特に住宅ローンや事業資金の借入では、税理士が作成した確定申告書の方が審査で有利に働きます。
税理士報酬は年間10万円〜30万円程度かかりますが、税務調査回避による時間節約、適正な節税による税額軽減を考えれば、十分にペイする投資です。特に年収500万円を超える芸能人は、税理士の専門知識によって報酬以上の節税メリットが得られるケースが大半です。

- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 記帳代行を依頼できる事務所もありますが、毎日の記帳が重要な証拠物作成活動となります。可能であれば現金出納帳だけでも毎日記帳し、帳簿残高と実際残高を一致させるようにしましょう。
- 樽澤岳一郎税理士事務所
代表 樽澤岳一郎(税理士)
まとめ
芸能業の確定申告では、「給与所得」か「事業所得」かの判断が最初の分岐点です。マネジメント契約で個人事業主として活動する場合、収入から必要経費を差し引いた「所得」に対して税金が課されるため、認められる経費を漏れなく計上することが節税の鍵になります。
芸能業では「衣装代」「美容費」「研修費」「接待交際費」など、経費として認められるか判断が微妙なケースが多く、自己判断で申告すると、税務署に否認されるリスクと過剰納税のリスクの両方が生じます。按分計算の根拠、領収書への記録、証拠資料の保管など、税務調査を見越した対応が必要です。
税理士に依頼すれば、正確な申告・時間の節約・税務署からの信用獲得という3つのメリットが得られます。年収500万円を超える場合、税理士報酬(年間10万円〜30万円)以上の節税効果が得られるケースが大半です。本業である芸能活動に専念し、替わりのきかない営業・スキルアップに時間を投資するため、確定申告は税理士に相談してください。
経費判断で迷ったら、自己判断で放置せず、早めに芸能業に詳しい税理士へ相談することをお勧めします。
よくある質問
芸能業で確定申告が必要な人は誰ですか?
俳優、声優、モデルなどで得た所得がある人は、給与所得者か個人事業主かに関わらず、確定申告が必要です。
芸能活動の所得はどう区別されますか?
プロダクションと雇用契約がある場合は給与所得、マネジメント契約のみの場合は事業所得として扱われます。
必要経費にできるものは何ですか?
仕事に関連する衣装代、美容室代、交通費、宣伝費などが必要経費として計上できます。
事業所得の場合、経費計上のポイントは?
収入から必要経費を差し引いた金額が所得となります。経費が多いほど支払う税金が少なくなります。
確定申告を税理士に依頼するメリットは何ですか?
正確な申告が行え、時間を節約できるほか、税務署からの信頼も得られます。
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記事監修者 樽澤税理士からのワンポイントアドバイス
何が経費にできるのか判断が難しいことも多いと思います。
また、取引を正規の簿記の原則に従って記録しているなど、一定の要件を満たすと青色申告特別控除など税務上の特典を受けられるので、判断に迷う場合には早めに税理士に相談してみることをお勧めします。

- この記事の監修者
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代表 樽澤岳一郎(税理士)
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