公正取引委員会、巨大IT企業からの人材引き抜きに着手 | MONEYIZM
 

公正取引委員会、巨大IT企業からの人材引き抜きに着手

公正取引委員会(以下、公取委)が、巨大IT企業からの人材引き抜きに乗り出し、規制強化の進行中に巨大IT企業に対抗するために内部情報に精通した人材を獲得する動きを強化しています。
公取委は、特定の業種に焦点を当て、巨大IT企業やその取引先で4年以上の実務経験がある個人を対象に、10月に人材募集を開始しました。

政府渉外経験者の採用で公取委の交渉力向上

今回、公取委は政府の規制が自社に有利になるよう働きかける「政府渉外」の経験者を念頭に、まず1人の人材を採用する予定です。
採用された人材は、主に公取委側に立って、巨大IT企業との交渉を担当します。
 

公取委が巨大IT企業からの人材引き抜きに取り組むことで、日本のIT産業における競争が活発化し、新たな技術やサービスの開発が促進される可能性があります。
 

実際、「GAFA(ガーファ/Google(グーグル)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック※2021年にメタに社名変更)、Amazon(アマゾン)」などで知られる巨大IT企業の日本法人では、経済産業省、総務省などの官僚出身者が政府渉外の担当幹部を務めており、官庁の実務や政治家との折衝に精通した元官僚が政府との交渉をリードしています。
公取委は、このような人材を取り込んで、今後の交渉を有利に進めたい狙いがあります。
 

今回、公取委が募集したポジションの任期は原則2年で、最大5年まで延長可能です。
若手を中心に経験を積みたい人材にとって魅力的な選択肢となっています。
とはいえ、公取委が巨大IT企業から人材を引き抜くには、給与水準も重要です。
なぜなら、公取委で経験を積みたい人材が一定数いたとしても、給与が公取委の他の職員と同じ場合、巨大IT企業の給与水準の方が高い可能性があり、求める水準の人材が集まりにくいからです。
そのため、今回の取り組みが成功するためには、給与の他に魅力的な職務内容とキャリアパスも重要になるでしょう。
 

さらに、この新たな取組みが成功することで、日本のIT産業全体にポジティブな影響が及ぶかもしれません。
公取委では常に欧米の独禁法事案をベンチマークとしており、最新のテクノロジーやサービスもフォローし、それらが日本の競争法の規制にどんな影響を与えるのか調査しています。
また、政府渉外経験者が新しい規制環境を理解し、巨大IT企業との交渉をリードすることで、新たな技術やサービスの導入が推進され、業界全体の発展に寄与する手段となり得るからです。
 

競争が活発化し、新しいアイデアや技術が促進されることでイノベーションが加速し、消費者に新たな価値が提供される可能性が高まります。
 
これは、消費者にとって多様な選択肢や革新的なサービスの提供といった恩恵をもたらし、市場全体が活発化することが期待されます。
また公取委の取り組みが成功すれば、公取委は競争と規制の側面で有力な立場を築くことになります。
今後、政府渉外の経験者を取り込むことで、政府と企業の協力が強化され、規制の実施と強化において効果的な役割を果たせるのか注目です。
 

近年、GAFAなどの巨大IT企業による市場支配が懸念され、各国政府は規制強化に向けた動きを広げています。こうした状況下で公取委は、内部の調査能力を向上させるために、多くの民間弁護士を採用しています。
仮に適切なバランスが取られない場合、巨大IT企業との対立が生じ、外部からの投資やイノベーションが妨げられる可能性もあるため、その動向を今後も注視する必要があるでしょう。

鈴木林太郎
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数。
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