「経費にはグレーゾーンがある」と、よく言われます。一般的には、“経費として計上できるかできないか微妙な出費”を「グレーゾーン」と呼ぶわけですが、そもそもどうしてそのようなことが起こるのか?税務署に「黒」と判定されないために、何か手立てはあるのでしょうか?経費の考え方について、わかりやすく解説します。
目 次
節税のキーとなるのは「経費」
事業を営むうえで、しっかり節税して手元にお金を残すことが大事なのは、言うまでもありません。
個人事業主のメインの税は、所得税です。その節税のためにやるべきことにはいろいろありますが、経費(正式には「必要経費」と呼びます)をきちんと計上するというのは、“基本中の基本”と言えるでしょう。
なぜ経費を計上すると節税になる?
所得税は、売上(収入)から必要経費と所得控除(※)を差し引いた「課税所得」に、一定の税率を掛けて計算されます。
課税所得 = 売上(収入) - 必要経費 - 所得控除
ですから、同じ売上でも、経費を多く計上するほど課税所得が下がる=支払う税金は安くなることになります。
ちなみに、所得税は、法人税などと異なり所得が上がるほど税率も高くなる「累進課税」になっています。その意味でも、できる限り所得を減らすことが重要な意味を持つのです。
ところで「経費」とは何か?
とはいえ、持っている領収書を全部経費にできるとは限りません。
国税庁のホームページには、「必要経費に算入できる金額」として、次のような説明があります。
事業所得、不動産所得及び雑所得の金額を計算する上で、必要経費に算入できる金額は、次の金額です。
(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
参照:No.2210 やさしい必要経費の知識|所得税|国税庁
要するに、「事業で売上を得るために使ったお金」は経費として認められますよ、ということです。
しかし、税法で定められているのはここまでで、「個別の出費(例えばパソコンの購入費用)が経費か否か」といった記載は一切ありません。納税者の側がそれを判断し、経費に該当するのならばそれを計上して、申告する必要があるのです。
とはいえ、実際には「事業に必要かどうか」判断に迷ったりするケースも少なくありません。そこに「グレーゾーン」の生まれる余地があるわけです。
特に気をつけたい「家事按分」
自宅を仕事場にしている場合、その家賃などは、「仕事に使っている分」に関して必要経費にすることができます。
このように、ある支出をプライベートと仕事に分けたうえで、後者を経費にするのが「家事按分(かじあんぶん)」で、ある意味グレーゾーンの最たるものと言っていいでしょう。
家事按分は、「忘れず計上すること」と、「多く計上しすぎないようにすること」という両面から、注意が必要なのです。
家事按分の適用範囲や按分比率は?
では具体的には、どのように「案分」すればいいのでしょうか?
経費化の基準は、今述べたように「仕事に使う割合」です。家賃であれば、床面積に占める仕事スペースの割合というのは、1つのモノサシになるでしょう。ワンルームを8時間仕事で使っているので、家賃の1/3を経費にする、というのも理屈が合います。
この家事按分は、水光熱費や通信費、固定資産税などの税金、車のガソリン代や車検費用などにも、適用することができます。
経費として認められるかは個別の状況による
ただし、この案分比率についても、法律で明確な基準が示されているわけではなく、やはり、まず納税者が判断しなくてはなりません。言い方を変えると「判断の余地がある」わけですが、ネットなどで流れている「家賃は7割経費にできる」といった話には、実は根拠が無いことがほとんどです。
どれだけ認められるのかは、あくまでも「個別の状況による」と考えてください。
自分で決めた家事按分の比率が実態と異なる事実は発覚するのか?
「家事按分」の計算で問題となるのはやはり、按分する比率が適切であるかという点です。自身の主観ではなく、客観的に誰が見ても合理的であると認められる比率であることが求められます。もし仮に、事業部分を増やすため実態と異なる比率にした場合、発覚する可能性はあるでしょうか。結論から言えば、税務調査により実態と異なる点が指摘されることが考えられます。事業の拠点が事務所兼自宅である場合や、自家用車を営業でも使用している場合など家事部分と事業部分が重なる部分の按分計算について、税務調査を受ける際に合理的な理由を申述しなければなりません。明確な理由もなく実態と異なる按分割合を使った場合、事業部分の一部を否認されることになります。
「きちんと説明できるかどうか」がポイント
もし、意図的に経費を水増ししたり、誤って仕事と関係のない支出を計上したりして、それが税務署に見つかった場合には、税金の「足りなかった分」を支払うだけでは済みません。それに加えて「過少申告加算税」や、特に悪質な場合には、最高税率40%の「重加算税」といった追徴課税が課せられることになるのです。
節税のつもりが逆に割増しの支払いでは、本末転倒でしょう。
グレーゾーンの経費を“黒”と判定されないためには?
グレーゾーンと思われる支出を税務署に否認されないためには、自らの下した判断を合理的に説明できるだけの根拠が必要です。それがあれば、税務署が経費として認めないのならば、今度は彼らの側にそのための合理的な説明が求められることになります。
経費と判断した根拠を明確にするには?
根拠を明確にするための手立ての1つが、生活において使用するものを「プライベート用」と「仕事用」に分けることです。
例えば、クレジットカードを別々にする、仕事専用の部屋を設ける、携帯も2台持って使い分ける、といった工夫です。
ただし、分けることはできたけれど、そのためのコストが節税額を上回ってしまったというのでは意味がありませんので、注意してください。
売上がそれなりの規模になり、グレーゾーンの判断にも大いに迷うというような場合には、税理士という専門家の手を借りるのも1つの方策です。
もちろん、それにもコストはかかりますが、「お金まわりの実務に手を取られることなく事業に専念でき、節税も図れる」というのは、大きなメリットです。
サラリーマンでも必要経費は認められるのか?
サラリーマンもスーツや靴、カバンなどを購入しますが、これらの購入費用は給与所得を得るための必要経費として認められるのでしょうか。結論は「NO」です。サラリーマンが得る給与所得については、税法であらかじめ定められた「給与所得控除」、いわゆるサラリーマンの概算必要経費を収入金額から控除することになっています。「給与所得控除」が認められているため、原則としてそれ以外の必要経費は認められませんないということになります。ただし例外として、ある一定要件を満たす支出についてのみ「特定支出控除」という形で必要経費が認められます。
「特定支出控除」が受けられる経費とは?
「特定支出控除」とは、以下の特定支出をした場合、その年の特定支出の額の合計額が給与所得控除の1/2を超えるときに、超えた金額を給与所得控除後の所得金額から控除できる制度です。
1.通常必要であると認められる通勤にかかる支出(通勤費)
2.勤務地を離れ職務を遂行する際、旅行のためにかかる支出(旅費)
3.転勤に伴う支出(転居費)
4.職務上必要な技術や知識を得る研修を受ける際の支出(研修費)
5.資格を取得するための支出(資格取得費)
6.単身赴任者が勤務地と自宅の間を旅行する際の支出(帰宅旅費)
7.以下の支出で、職務の遂行に直接必要なものとして会社が証明したもの(勤務必要経費)
(支出合計額が65万円を超える場合には65万円が上限)
A.書籍や定期刊行物など、職務に関連する図書の購入費用(図書費)
B.制服や作業服など、着用することが必要な衣服の購入費用(衣服費)
C.職務上関係のある者に対する接待や供応、贈答等のための支出(交際費等)
なお、「特提出控除」を受けるためには確定申告が必要になります。
まとめ
個人事業主であれば、誰しも少しでも多くの金額を経費で落としたいもの。ただし、グレーゾーンの支出については、「経費化する根拠」をきちんと説明できることが必要だと心得てください。
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