役員は雇用保険に加入できないの?例外で加入できるケースとは?
- 最終更新日:
- 2025/12/24

- この記事の監修者
- Vmaster税理士事務所
所長 松田 光弘(税理士)
役員は雇用保険に原則加入できない理由
雇用保険は「労働者」を対象とした制度であり、会社法上の役員は経営者であり労働者性を持たないため原則対象外となります。雇用保険法および厚生労働省の通達・Q&A等によれば、代表取締役や業務執行権のある取締役は原則として被保険者とならない取扱いとされています。この原則の背景には、会社法上の役員の地位と、雇用保険が前提とする「使用者の指揮監督下で労働する者」という概念の違いがあります。
※参考:厚生労働省「雇用保険制度 Q&A~事業主の皆さまへ」Q4
雇用保険とは?
雇用保険は労働者が失業・休業した際の生活保障と再就職支援、労働者の能力開発・福祉増進等を目的とした公的保険制度です。保険料は事業主と労働者がそれぞれ負担し、失業・休業中の労働者には基本手当(失業給付)、育児休業給付、介護休業給付などが支給されます。
雇用保険法では、対象を「労働者」すなわち「事業主に雇用される者」と定義しています。ここでいう「雇用される者」とは、使用者の指揮監督下で労働を提供し、その対価として賃金を受け取る立場を指します。重要なのは「指揮監督を受ける側」という従属的な関係性です。例えば一般社員や契約社員は、所定労働時間や業務内容について会社から指示を受ける立場にあり、明確に労働者として扱われます。
一方で個人事業主や業務委託契約者は、基本的には自ら業務の進め方を決定する自律性があるため雇用保険の対象外です。役員もこの「自律性」を持つ経営者に分類されるため、原則として労働者性が認められません。
労働者性の判断とは
雇用保険の適用を判断する際には、「労働者性」があるかどうかが重要な基準となります。「労働者性」とは、使用者の指揮監督下にあり、労働時間や勤務場所、業務内容等について従属的な関係にあることを指します。役員は会社の業務執行や意思決定を行う経営者の立場であり、使用者から指揮監督を受ける従属的な関係にないため、この労働者性を原則として持ちません。
一般的な労働者性の判断では、指揮監督下の労働(業務内容の具体的な指示や時間管理、業務指示に対する諾否の自由)、報酬の労務対償性(仕事の成果ではなく提供した労働それ自体に対する対価)、事業者性の有無(事業に係るコスト・リスクの負担や独立性)、専属性(特定の使用者との排他的・継続的関係)、代替性(本人以外が業務を行えるか)といった要素が総合的に考慮されます。
営業部長として働く一般従業員は、会社の営業方針に従い、定められた勤務時間内で業務を遂行し、毎月決まった給与を受け取ります。業務内容は上司から指示され、遅刻や欠勤など勤怠の実績は就業規則で管理されます。このような状態は明確に労働者性を満たしています。
しかし同じ営業部長が取締役営業部長に就任して、会社の経営方針を自ら決定する立場になり、取締役会での議決権を持ち、業務執行について他の取締役から指揮命令を受けない独立した地位を得た場合この時点で労働者性は失われ、雇用保険の対象外となります。
会社役員・取締役が雇用保険の対象外となる根拠
雇用保険法および厚生労働省の通達によれば、会社法上の役員は原則として被保険者とならないとされています。代表取締役や業務執行権のある役員は、たとえ現場業務を兼務していても原則として対象外です。この原則の背景には、会社法上の役員(取締役)の地位と雇用保険制度の前提の違いがあります。
会社法上、取締役は「株式会社の業務を執行する機関」と位置づけており、取締役会での議決権を持つ取締役は経営者側として扱われます。代表取締役は会社を代表して業務を執行する最高責任者であり、他の取締役も取締役会の構成員として会社の意思決定に参画します。この経営者としての地位は、雇用保険が前提とする「使用者による指揮監督を受ける労働者」という概念と根本的に異なります。
税法上も、取締役が受ける給与は「役員給与」として一般従業員の給与とは別ルール(定期同額給与など)が適用されます。これも役員と労働者の性質の違いを反映したものです。こうした会社法上の地位や税法上の取扱いの違いを踏まえ、雇用保険制度においても役員は原則として被保険者とならない取扱いとなっています。
例えば資本金1,000万円の株式会社で、代表取締役が営業活動も自ら行い、実質的に社長兼営業マンとして働いているケースでも、取締役会での議決権を持ち、会社の重要事項を決定する立場にある以上、雇用保険には加入できません。現場で働く時間が長くても、経営者としての地位が優先されます。
例外的に役員が雇用保険に加入できるケース
役員は原則として雇用保険の対象外ですが、「兼務役員」として実態的に労働者性が明確に認められる場合には例外的に雇用保険への加入が可能です。兼務役員とは、取締役などの役員でありながら、同時に部長・支店長・工場長など従業員としての身分と職務を持ち、実態として労働者性が強いことが認められる者を指します。この例外が認められるには厳格な要件を満たす必要があり、ハローワークでの審査も慎重に行われます。
兼務役員の判断基準
兼務役員として雇用保険に加入できるかどうかは、形式的な肩書きではなく労働者性の実態で判断されます。代表権・業務執行権の有無、給与と役員報酬の区分、就業規則の適用、勤怠管理の実施、業務内容の具体性という5つの基準が重視されており、これらは先に説明した一般的な労働者性の判断要素を、兼務役員の実務に即して具体化したものです。
代表権・業務執行権の有無
実務上最も重視されるのが「代表権・業務執行権の有無」です。代表取締役、専務取締役、常務取締役など業務執行権を持つ役員は、たとえ現場業務を兼務していても雇用保険に加入できません。一方、業務執行権のない平取締役で、特定部門の責任者として労働している場合は検討の余地があります。
給与と役員報酬の明確な区分
従業員として受け取る給与と役員報酬が明確に分けて支給され、賃金台帳などで別々に管理されている必要があります。例えば月額30万円の部長給与と月額10万円の役員報酬という形で分離され、それぞれの根拠が説明できる状態が求められます。役員報酬のみの場合は労働者性が認められません。実務上は従業員給与が総額の7割以上であることが望ましいとされます。
就業規則の適用と勤怠管理
一般従業員と同じ就業規則が適用され、始業・終業時刻、休憩時間、休日などが定められ、タイムカードやICカード、出勤簿などでの勤怠管理が行われている必要があります。フレックスタイム制であっても、コアタイムの設定や月間労働時間の管理が行われていれば問題ありません。
従業員としての業務内容の具体性
営業部門の責任者、製造現場の工場長、システム部門の部長など、明確な従業員としての身分と職務があり、その職務について他の役員や代表者から指示や管理を受ける関係が実態として存在することが必要です。取締役会での議決権行使は年数回以下の形式的なもので、日常業務に従業員として従事している状態が望ましいとされます。
他の取締役との処遇の違い
他の業務執行権を有する取締役と報酬や待遇が大きく異なり、従業員に近い処遇を受けている実態があれば、労働者性が認められやすくなります。
認められやすいケース
製造業の会社で取締役工場長の肩書きを持つAさん(45歳)は、役員報酬月額5万円と工場長給与月額40万円を受け取り、工場の生産管理・品質管理を担当しています。勤怠は一般社員と同じくタイムカードで管理され、就業規則に基づき年次有給休暇も付与されています。取締役会は年4回のみで、Aさんは議決権を持ちますが経営判断には関与していません。このケースでは兼務役員として雇用保険加入が認められる可能性が高いです。
認められないケース
小売業の会社の取締役営業本部長Bさん(50歳)は月額60万円の役員報酬を受け、営業戦略の立案から各店舗の売上管理まで幅広く担当しています。従業員給与の支給はなく、勤怠管理も行われていません。月次の取締役会で業績報告と経営方針の決定に参画しており、実質的に経営者として活動しています。このケースでは労働者性が認められず、雇用保険加入はできません。
役員が雇用保険に加入できる「例外」審査が認められるケースは、実態としてある?

松田 光弘
税理士からのワンポイントアドバイス
兼務役員の雇用保険加入は決して「形だけの制度」ではなく、実態があれば十分に認められます。ただし、ハローワークの審査は形式的ではなく、非常に実務的でシビアです。
「生え抜き社員が部長職のまま役員になった」など、役員としての地位が形式的な肩書に留まるケースでは、一般的に申請が承認される可能性は高いといえます。
しかし、例えば代表取締役の親族であって会社の経営に密接に関わっている役員が、将来的に失業手当や休業手当を受給したいからという理由で兼務役員になる時に、その役員の労働者性を客観的に証明する資料が不足していれば、申請は否認されやすいでしょう。「労働者としての実態」を書類で裏付けられるかが、審査通過の成否を分けると言えます。
雇用保険加入に必要な書類と手続きの流れ
兼務役員の雇用保険加入には「兼務役員雇用実態証明書」の提出が必須であり、ハローワークでの厳格な審査を経て加入の可否が判断されます。通常の従業員とは異なる特別な手続きが必要です。
提出書類と証明書の記載内容
事業主は管轄のハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」と「兼務役員雇用実態証明書」を提出します。兼務役員雇用実態証明書は厚生労働省の様式であり、役員としての地位と従業員としての職務の実態を詳細に記載する書類です。この証明書には、役員就任年月日、従業員としての職務内容、勤務時間、賃金支払形態(従業員給与と役員報酬の区分)、就業規則の適用状況などを具体的に記入します。
必要な添付書類は以下のとおりです。
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書):役員の地位と就任日を証明
- 定款:会社の機関設計や役員の代表権・業務執行等権を確認
- 株主総会議事録または取締役会議事録:役員選任の経緯と従業員兼務の承認を証明
- 組織図:当該役員の組織上の位置づけと従業員としての職務を明示
- 賃金台帳:従業員賃金と役員報酬の区分支給を証明
- 就業規則・賃金規定:当該役員に一般従業員と同じ規則が適用されていることを示す
- 出勤簿またはタイムカード:実際に勤怠管理が行われている実態を証明
審査プロセスと承認までの流れ
ハローワークでの審査では、労働局の職員が書類の整合性を詳細にチェックします。例えば組織図と議事録の内容に不整合がないか、賃金台帳で給与と報酬が明確に分かれているか、出勤簿により就業規則が実際に適用されているかなどが確認されます。疑義がある場合は追加資料の提出を求められたり、事業所への実地調査が行われることもあります。
審査期間は案件の難易度やハローワークの状況により異なりますが、目安として数週間程度かかることが多いです。承認された場合は当該兼務役員分の雇用保険被保険者証が交付され、その日から雇用保険の適用が開始されます。不承認の場合はその理由が通知され、実態を改善した上で再申請することは可能ですが、形式だけ整えても実態が伴わなければ認められません。
手続きのタイミングと注意点
役員就任と同時に兼務役員となる場合は就任後速やかに手続きを行うこと、従業員が役員に就任する場合は一旦雇用保険資格を喪失させてから兼務役員として新規に資格取得の手続きを行うことが重要です。資格喪失と取得の間に空白期間が生じると失業給付の受給要件にも影響するため、社会保険労務士と相談しながら進めるのが安全です。
加入できない役員のパターンと主なリスク
兼務役員として認められない役員のパターンと、誤った判断によるリスクを理解しておく必要があります。代表権や業務執行権がある役員、役員報酬のみで使用人給与がない役員、実態として経営に従事している役員は原則として雇用保険に加入できません。
代表取締役
代表取締役は会社を代表する最高責任者として業務執行権を持つため、雇用保険の対象外です。代表権を持つ限り、現場業務を兼務していても加入はできません。
業務執行取締役(専務・常務など)
業務執行取締役も同様に雇用保険の対象外です。取締役会で決議された業務執行を実際に行う権限を持つ役員は、経営者側として扱われます。
役員報酬のみを受けている役員
従業員給与の支給がないため労働者性が認められず雇用保険に加入できません。たとえ現場で働いていても、報酬が役員報酬としてのみ支給されている場合は労働者性の証明が不可能です。
誤った加入によるリスク
労働者性がないにも関わらず雇用保険に加入していた場合、退職時に失業給付を申請しても不支給となり、過去に遡って給付金の返還を求められます。例えば5年間にわたり誤って加入していた場合、本人負担分と事業主負担分を合わせた保険料全額は返還対象となりますが、その間の給付金を受け取っていれば給付金の返還に加えて延滞金が発生する可能性もあります。
未加入によるリスク
雇用保険に加入すべき兼務役員が未加入のままだったケースでは、退職時に失業給付を受けられず、遡及加入の手続きが必要になります。遡及期間は原則として確認日から2年前までですが、賃金から雇用保険料を天引きしていたことが給与明細等で確認できる場合には、2年を超えて遡及できる仕組みもあります。失業給付の基本手当は被保険者期間の長さで給付日数が決まるため、未加入期間が長いと大きな不利益を被ります。
税務(追徴課税)のリスク
従業員給与と役員報酬の区分が曖昧で、実態として労働者性がないにも関わらず役員報酬を使用人給与として損金算入していた場合、当該給与が税務署から定期同額給与の要件を満たさない役員報酬として認定され、損金不算入とされる可能性があります。結果として法人税の追徴課税を受けることになります。
役員の雇用保険に関する実務上のポイント
実際の現場では役員の雇用保険について様々な疑問やトラブルが発生します。特に従業員が役員に就任する時の資格喪失、名ばかり役員や執行役員の扱い、社会保険との違いは実務上の重要論点です。ここでは頻出する論点について、実務で押さえるべきポイントを解説します。
従業員から役員になった場合の雇用保険資格と失業給付
従業員が役員に就任すると原則として雇用保険の被保険者資格を喪失し、雇用保険の資格上は退職扱いとなります。このタイミングでの失業給付の取扱いは多くの誤解を生んでいます。
役員就任による資格喪失では、会社を退職したわけではないため、直ちに失業給付を受けることはできません。雇用保険法における「失業」とは、労働の意思と能力があるにもかかわらず職業に就くことができない状態を指します。役員として在任中は「職業に就いている」状態であり、失業には該当しません。
ただし兼務役員として雇用保険に再加入した後、その後役員を退任して従業員としても実際に離職した場合には、兼務役員としての被保険者期間を基に失業給付を受けることができます。例えば、営業部長として雇用保険に加入し5年勤務後に取締役営業部長(兼務役員)に就任し、その際に兼務役員として雇用保険に加入して3年後に退任・離職した場合、合計8年の被保険者期間として失業給付を受給できます。
注意が必要なのは、兼務役員の要件を満たさず雇用保険に加入できない役員に就任した場合です。この時点で雇用保険資格は喪失しますが、会社との委任関係は生じているため、失業給付の基本手当は受給できません。もし不正に受給した場合は、給付金の返還に加えて悪質な場合は不正受給額の2倍の納付命令を受けることもあります。
実務では、部長が取締役に就任するタイミングで、ハローワークに雇用保険被保険者資格喪失届を提出します。喪失理由欄には「役員就任のため」と記載し、喪失日は役員就任日の前日となります。
名ばかり役員と執行役員
雇用保険の適用において、形式的には役員でも実態によって判断が分かれるケースがあります。
名ばかり役員とは、登記上は取締役でも実態として労働者性が強い場合を指します。飲食チェーンや小売業で店長に「取締役」の肩書きを与え、登記上も取締役としながら、実態は店舗運営の現場管理者として他の取締役の指揮命令下で働いているケースが典型例です。このような場合、取締役会での議決権行使の実態、業務執行における裁量の有無、報酬決定プロセスなどを総合的に判断し、実態として労働者性が認められれば兼務役員として雇用保険に加入することを検討できます。ただし実際の加入承認は所轄ハローワークの個別判断となり、実務上のハードルが高いこともあります。
執行役員は会社法上の役員ではなく、多くの企業で部長クラス以上の管理職に付与される社内の地位・呼称です。登記もされず、取締役会の構成員でもありません。執行役員の雇用保険適用は通常の従業員と同じ基準で判断され、週20時間以上の所定労働時間があり、31日以上の雇用見込みがあれば被保険者となりえます。ただし執行役員と会社が委任契約を締結し、業務執行に関して独立した権限と責任を持つ場合(委任型執行役員)は、雇用保険の対象外となります。
雇用保険と社会保険の違い
雇用保険は労働者のみが対象ですが、健康保険・厚生年金保険(社会保険)は役員も原則加入対象となる点で大きく異なります。この違いを理解していないと、役員就任時の手続きで混乱が生じます。
健康保険と厚生年金保険は、法人の代表者や役員も「適用事業所に使用される者」として原則被保険者となります。役員報酬を受けている限り、代表取締役であっても社会保険への加入義務があります。ただし他社で社会保険加入済みの非常勤役員や、報酬が極端に少額で実態として勤務実態がほぼないケースなどでは、適用の有無が個別判断になる余地があります。社会保険料は標準報酬月額に基づいて計算され、事業主と被保険者が折半で負担します。
従業員が取締役に就任した場合、雇用保険の資格は喪失しますが、健康保険と厚生年金保険の資格は継続します。ただし報酬体系が変わるため、標準報酬月額の変更手続き(月額変更届)が必要になる場合があります。
兼務役員の場合は、雇用保険と社会保険の両方に加入します。この場合、従業員給与部分と役員報酬部分を合算した総額が社会保険の標準報酬月額の基礎となりますが、雇用保険料は従業員給与部分のみを基準に計算されます。例えば、月額40万円の使用人給与と月額10万円の役員報酬を受ける使用人兼務役員の場合、社会保険料は合計50万円を基準に算定されますが、雇用保険料は40万円の使用人給与部分のみに対して徴収されます。この区分が曖昧だと保険料計算にミスが生じるため、給与と報酬は賃金台帳で明確に分けて管理する必要があります。
役員の雇用保険について、起こりがちなトラブルとは?

松田 光弘
税理士からのワンポイントアドバイス
兼務役員の雇用保険について最も深刻なトラブルは「退職時の受給不可」です。長年雇用保険料を払っていたのに、いざ退職後にハローワークに申請すると「実態は労働者ではなく役員だった」と判定され、失業手当が支給されないケースが起こります。
次に「保険料の計算誤り」です。本来、保険料の対象は「給与分」のみですが、誤って「役員報酬分」まで含めて計算し、会社と本人が数年間にわたり過払いし続けるミスが散見されます。
最後は「エビデンスの欠如」です。取締役会で給与と報酬の区分を明確に決めた議事録がない、あるいはタイムカード等の勤怠記録がない場合、後から「兼務」を証明することは極めて困難です。「丁寧に証跡を残すこと」を怠れば、将来の不支給や遡及修正という大きなトラブルを招くことになるかもしれません。
まとめ
役員の雇用保険は原則として対象外ですが、兼務役員として実態的に労働者性が認められる場合は例外的に加入できます。判断には代表権・業務執行権の有無、給与と役員報酬の区分、就業規則の適用、勤怠管理の実態という厳格な要件が適用され、ハローワークでの審査を経て加入の可否が決定されます。
誤った加入は給付不支給や保険料返還のリスクを招き、未加入は失業給付を受けられない不利益につながります。従業員が役員に就任する時には雇用保険資格を喪失し、兼務役員として再加入しない限り将来の失業給付は受けられません。名ばかり役員や執行役員の扱い、社会保険との違いも実務上の重要論点です。
役員の雇用保険は会社法、労働法、税法が交差する複雑な領域であり、判断を誤ると深刻なリスクを招きます。判断に迷った場合は、社会保険労務士や税理士など専門家に相談することを強くお勧めします。税理士紹介センターでは、雇用保険を含む労務問題に詳しい税理士や提携する社会保険労務士をご紹介可能です。創業30年で累計40万件以上のご相談実績を持つ専任コーディネーターが、貴社の状況に最適な専門家をお探しします。
よくある質問
Q:役員を退任したらいつから失業給付を受けられますか?
役員退任と同時に従業員としても離職した後、ハローワークに求職の申込みをした日起算して7日間の待期期間経過後、ハローワークでの失業認定を受け、一定の求職活動の実績が認められてから支給されます。ただし自己都合退職の場合は待期期間後さらに2ヶ月(または3ヶ月)の給付制限期間があります。
Q:兼務役員の雇用保険加入手続きはいつまでに行えばよいですか?
役員就任日(資格取得日)から原則として翌月10日までにハローワークへ届け出る必要があります。遅れると遡及加入の手続きが必要になり、証明書類の準備に時間がかかります。
Q:兼務役員を退任し従業員になった場合の雇用保険はどうなりますか?
兼務役員を退任して従業員になった場合、新規に雇用保険の被保険者資格を取得します。従業員として雇用保険に加入していた期間と、兼務役員として加入していた期間は通算されます。
Q:役員報酬と従業員給与の適正な割合はありますか?
法律上の明確な基準はありませんが、実務上は従業員給与が総額の7割以上であることが望ましいとされます。役員報酬の割合が高すぎると労働者性の説明が困難になります。
Q:税理士や社会保険労務士に相談するタイミングはいつがよいですか?
役員就任が決まった時点で早めに相談することを推奨します。就任後の手続きだけでなく、報酬体系の設計、就業規則の整備、必要書類の準備など、事前の準備が重要です。
Q:雇用保険と労災保険の違いは何ですか?
雇用保険は失業時や育児・介護休業時の所得保障を目的とし、労災保険は業務上の災害による傷病や死亡を補償する制度です。労災保険は役員に労働者としての性質が認められる場合は労災保険の適用対象となることがあり、雇用保険とは適用基準が異なります。
Q:役員報酬のみでも雇用保険に加入できますか?
加入できません。雇用保険加入には従業員給与と役員報酬が明確に区分されている必要があり、役員報酬のみの場合は労働者性が認められません。
Q:複数の会社で役員を兼務している場合、雇用保険はどうなりますか?
各社ごとに判断されます。A社で兼務役員として雇用保険に加入していても、B社で代表取締役を務めている場合、B社での雇用保険加入はできません。雇用保険は主たる勤務先1社でのみ加入するため、両社で兼務役員の要件を満たしていても、実際に勤務時間の長い方の会社でのみ加入します。
Q:監査役は雇用保険に加入できますか?
監査役は取締役とは異なり業務執行には関与しませんが、会社法上の役員であり、労働者性が認められないため原則として加入できません。形式的に監査役に就任しているだけで、実態として労働者であると認められる場合は加入の可能性がありますが、かなり例外的なケースであり、実務上は所轄ハローワークの個別判断となりハードルが高いでしょう。
Q:役員就任時に兼務役員として雇用保険に加入しなかった場合、後から遡及して加入できますか?
原則として確認日から2年前の日までしか資格取得日は遡れませんが、賃金から雇用保険料を天引きしていたことが給与明細等で確認できる場合には、2年を超えて遡及できる仕組みもあります。ただし遡及加入が認められるには、加入要件を満たしていたことを証明する書類が必要です。早めに手続きを行うことが重要です。

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