デューデリジェンスは税理士に頼める?税務DDの現場や費用相場などを税理士が答える

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- おだね税理士事務所
代表 小田根 大輔(税理士)
税理士が担うのは税務DD、財務DDとの線引きで見積もりは変わる
税務DDは、過去の申告内容や税務処理の妥当性を検証し、買収後に顕在化しうる追徴課税などの税務リスクを洗い出す調査です。財務DDが簿外債務や正常収益力という「数字の実態」を見るのに対し、税務DDは「課税関係の妥当性」を確認します。担い手も異なるため、依頼先の選定や見積もりの読み方も変わります。
税務DDのうち、個別具体的な課税関係について判断・助言する部分は、税理士法上の税務相談に該当しうるため、税理士・税理士法人などの税務専門家が中心となって実施します。一方、財務DDは公認会計士やFAS(財務アドバイザリー)が中心です。税理士法人がFAS機能を併せ持つ場合などは、税務DDと財務DDをまとめて受注することもあります。
つまり「デューデリジェンスをお願いします」と伝えただけでは、税務DD単独の見積もりなのか、財務DDまで含む見積もりなのかが揃わず、金額を単純に比較できません。
実施タイミングは基本合意書の締結後が一般的です。ただし、繰越欠損金の利用可能性などがM&Aスキームの選択を左右する案件では、基本合意の前に簡易的な事前検討を行うこともあります。
税務DDを税理士に依頼する前に確認したい7つの論点
税務DDは案件ごとに調査範囲も費用も変わり、依頼側の事前準備によって調査の進め方も変わります。ここからは、買い手企業が疑問に感じやすいポイントをもとに、依頼の実務について監修税理士の小田根先生に伺っていきます。
税理士に依頼できるデューデリジェンスの範囲はどこまで?
質問:M&Aの調査を税理士に頼みたいのですが、どこまで対応してもらえますか。

小田根大輔先生
税理士に依頼する業務の中心は税務DDです。事務所によっては、その結果を踏まえたスキーム検討や株価算定、M&A後の税務申告まで対応します。 一方、財務DDまで一括で受けられるかは事務所によって異なります。税理士法人がFAS部門を持つ場合や、公認会計士が在籍している場合は財務DDも含めて対応できますが、税務申告を主業務とする事務所では税務DDのみとなるケースもあります。 見積もりを依頼する段階で「税務DD単独か、財務DDまで含むか」を明示してください。この前提を揃えないまま複数事務所から見積もりを取ると、金額差の理由を正しく判断できなくなります。
顧問税理士に税務DDを任せてよいのか?
質問:普段お世話になっている顧問税理士に頼むのが安心だと思うのですが、問題ありますか。

小田根大輔先生
買い手側の顧問税理士であれば依頼できます。ただし、対象会社(売り手)の申告書を作成している顧問税理士に買い手側の税務DDまで依頼すると、自ら作成した申告内容を自ら検証する形になるため、中立性の観点からは買い手が独立した専門家を起用する方が適切です。また、買い手側の顧問税理士であっても、M&A経験の有無によって発見できるリスクの幅は変わります。過去の組織再編における適格要件の判定や、繰越欠損金の利用制限などは、通常の顧問業務では扱う機会が限られます。 依頼前に、M&Aへの関与実績や税務DDレポートの作成経験を確認しておくとよいでしょう。
税務DDの費用相場と調査期間はどれくらい?
質問:予算を組みたいので、費用と期間の目安を教えてください。

小田根大輔先生
相場例として、中小企業案件の税務DD単独で30万〜150万円程度が一つの目安です。財務DDと併せて実施する場合は、合計で50万〜300万円程度になるケースもあります。ただし、DDには公的に定められた料金表があるわけではなく、案件規模や調査範囲によって金額は大きく変わります。 見積もりは、専門家の時間単価と投入工数をもとに算定するケースが一般的です。金額だけで比較するのではなく、どこまでを調査対象とする見積もりなのかを確認してください。 調査期間は、小規模な案件で2〜3週間程度、一定規模の案件では1〜2か月程度が一つの目安です。子会社の有無、海外取引や移転価格の論点、過去の組織再編、調査対象期間などによって必要な工数は変動します。
調査対象期間は過去3年で足りるのか?
質問:直近3期分を見てもらう前提で進んでいますが、それで十分でしょうか。

小田根大輔先生
3年は実務上の一つの目安であって、それ以前の税務リスクがなくなるわけではありません。国税通則法上、更正できる期間は原則として法定申告期限から5年です。偽りその他不正の行為があった場合は7年となり、法人税に係る純損失等の金額を増減させる更正については10年とされています。 そのため、直近3年だけを調査しても、それより前の申告について課税庁が更正できる期間が残っているケースがあります。特に、対象会社に繰越欠損金があり、それを買収後の節税メリットとして見込んでいる場合は要注意です。欠損金の繰越期間は最大で10年あるため、その期間に税務処理の誤りがあれば、見込んでいた欠損金が取り消され、買収後の税負担が想定外に跳ね上がるリスクがあります。 株式譲渡では、買収後も対象会社自体は同じ法人として存続するため、過去の税務処理に対する追徴課税などが発生すれば、対象会社の企業価値を通じて買い手が経済的な負担を負うことになります。 過去に税務調査での指摘歴がある、組織再編を経験している、繰越欠損金を買収価格に織り込んでいるといった案件では、3年を超えて調査する必要がないか、税理士と相談してください。
税務DDの費用は補助金の対象になるのか?
質問:DD費用の負担が重いのですが、公的支援はありますか。

小田根大輔先生
中小企業庁の事業承継・M&A補助金「専門家活用枠」では、一定の要件を満たすDD費用が補助対象になります。直近の公募回では、事業費の補助上限600万円に加え、DD費用について200万円以内の上乗せ枠が設けられ、買い手支援類型の補助率は3分の2以内とされています。 注意したい点は2つあります。 1つ目は、買い手支援類型では、DD費用を補助対象経費に計上するかどうかにかかわらず、専門家によるDDの実施自体が要件となっていることです。買い手企業が自社だけで行ったDDでは、この要件を満たしません。 2つ目は、M&A支援機関登録制度の登録が求められる仲介・FA費用とは異なり、DD費用には同じ登録要件が設けられていないことです。そのため、M&A支援機関として登録されていない税理士へのDD費用であっても、他の要件を満たせば補助対象となりえます。 ただし、補助対象経費は原則として交付決定後の補助事業期間内に契約・発注し、支払いまで完了させる必要があります。補助率や上限額、対象経費の要件は公募回ごとに変更される可能性があるため、申請時点の公募要領を確認してください。
株式譲渡と事業譲渡でDDの必要度は変わるのか?
質問:事業譲渡で進める予定ですが、税務DDは省略できますか。

小田根大輔先生
株式譲渡では税務DDの重要性が高く、事業譲渡では相対的に優先度が下がります。ただし、事業譲渡だから税務面の確認が不要になるわけではありません。 株式譲渡では対象会社そのものを買収するため、過去の申告や税務処理に問題があった場合、そのリスクは買収後も対象会社に残ります。 一方、事業譲渡では承継する資産や負債を契約で特定するため、通常は売り手企業の過去の税務債務そのものを買い手が引き継ぐわけではありません。そのため、過年度の税務リスクを調べる必要性は株式譲渡より低くなることがあります。 ただし、事業譲渡でも、譲渡資産の時価評価、消費税の課税・非課税区分、不動産を含む場合の不動産取得税や登録免許税など、取引そのものに関する税務論点が残ります。また、事業譲渡では買収金額と時価純資産の差額である『のれん・営業権(税務上の資産調整勘定)』を税務上損金算入でき、将来の法人税を減らす節税効果(タックスシールド)が得られる場合があります。株式譲渡との税負担の比較シミュレーションを含め、 スキーム選択の段階から税理士に相談することで、必要な調査範囲を絞り、費用を抑えつつ、M&A全体の投資対効果を高めることに繋がります 。
発見した税務リスクはどう買収条件に反映させる?
質問:レポートでリスクが指摘された場合、その後どう交渉すればよいですか。

小田根大輔先生
税務DDで見つかったリスクは、価格調整、表明保証・補償条項、クロージング条件などに反映させるのが実務です。金額をある程度確定できる税務債務については、デットライク項目として株式価値の算定に反映させたり、価格交渉の材料としたりします。一方、将来追徴される可能性はあるものの発生の有無や金額が確定していないリスクについては、表明保証や補償条項で手当てし、補償の上限額や請求期間を設定する方法があります。 こうした交渉につなげるためには、DDレポートで税務リスクの内容だけでなく、想定される影響額まで整理されていることが重要です。 税理士へ依頼する際は、「現時点で金額を見積もれる項目」と「リスクが顕在化した場合の影響額」を分けて整理してほしいと伝えておくと、その後の価格交渉や契約条件の検討に使いやすくなります。
まとめ
税務DDで押さえるべき要点は3つです。 第一に、税理士が中心となって担うのは税務DDであり、財務DDまで含む見積もりなのかを明示しなければ、複数の見積もりを正しく比較できません。 第二に、調査対象期間の3年は一つの目安にすぎません。更正できる期間は原則5年、不正行為がある場合は7年、法人税に係る純損失等の金額の更正については10年となる場合があります。 第三に、事業承継・M&A補助金の専門家活用枠(買い手支援類型)では、DD費用を補助対象経費に計上するかどうかにかかわらず、専門家によるDDの実施自体が要件です。DD費用については、仲介・FA費用とは異なり、M&A支援機関登録制度の登録要件は設けられていません。
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