2024年1月、「改正電子帳簿保存法」が実質スタート
いま税理士が顧問先に対応すべきこと

2024年1月、「改正電子帳簿保存法」が実質スタート  いま税理士が顧問先に対応すべきこと
公開日:
2023/11/07
 
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2024年1月から、いよいよ「改正電子帳簿保存法」の全面的な適用が始まり、国税関係の帳簿・書類のデータ保存に関する決まりが変わります。関連ソフトのテレビCMなども盛んに流されたりしていますが、「何が変わるのか」について、まだ理解が十分とはいえない顧問先も多いのではないでしょうか。ここでは、税理士として顧問先に説明すべきこと、取るべき対応を中心に説明します。

電子帳簿保存法の概要

顧問先に改正法に従った適切な処理をしてもらうためには、どんな法律なのかを知ってもらう必要があります。あらためて改正電子帳簿保存法の概要を確認しておきましょう。

電子データでの保存が可能に

電子帳簿保存法(電帳法)は、各税法で保存が義務付けられている帳簿・書類を、一定の要件を満たす電子データで保存することを認めたうえで、そのためのルールなどを定めた法律です。法律自体は1998年から施行されました。
 
それまで紙ベースで行われていた税務申告書類の作成や保存を電子化できることで、事業者にとっては、省スペース化、業務効率化を実現できる、などのメリットがあります。

2年の「宥恕措置」は終了

何度か改正を重ねてきた電帳法ですが、2021年度税制改正に伴う改正では、次に説明する3区分のうち、「電子取引」に関するデータ保存の義務化(電子データの紙による保存の廃止)が盛り込まれたことから、一気にクローズアップされることになりました。
 
この改正法の施行は、22年1月でした。しかし、中小、零細企業や個人事業者にとっては、準備期間が短く対応が難しいといった事情があったことから、23年12月末までの2年間に行われた電子取引については、従来通りプリントアウトして保存しておくことが認められました。
 
この2年の猶予期間(「宥恕措置」)が予定通り年末で終了し、24年の年初から適用されることになります。対象となる事業者は、所得税や法人税の国税関係帳簿書類の保存義務者です。具体的には法人税を納める義務がある普通法人、公益法人などと、所得税の納税義務がある個人事業主で、事業の規模は関係ありません。
 
ただし、2023年税制改正では、「電子帳簿等保存制度の見直し」として、後述するように「宥恕措置」について、新たな方針が示されています。

電子帳簿保存法上の3区分

法律に定められた電子データによる保存には、次の3つの種類があります。

(1)電子帳簿等保存

電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存することです。具体的には、会計ソフトなどによって作成した「国税関係帳簿」(仕訳帳、総勘定元帳など)、「決算関係書類」(賃借対照表、損益計算書など)を電子データで保存することを指します。
 

(2)スキャナ保存

紙で受領・作成した書類を画像データで保存することです。相手から受け取った請求書や領収書などを、スキャニングして保存することです。スキャナではなく、スマートフォンやデジカメを活用することもできます。
 

(3)電子取引データ保存

電子的に授受した取引情報をデータで保存することです。領収や請求などの内容をデータでやりとりした場合には「電子取引」に該当し、その電子データを保存する必要があります。

法改正のポイント

21年の改正内容を(1)~(3)ごとにみていきます。なお、(3)電子取引データ保存を中心に、23年税制改正でも見直しが行われています。

(1)電子帳簿等保存について

●税務署長の事前承認制度の廃止
改正以前は、電子的に作成した国税関係帳簿を電磁的記録により保存する場合には、事前に税務署長の承認が必要でしたが、事業者の事務負担を軽減するため、事前承認は不要とされました。
 
●「検索要件」の緩和
保存要件に関しては、以下の3つの項目を満たす必要がありました(21年改正では、売上高1,000万円超の事業者)。

  1. ①「取引年月日」「取引金額」「取引先」その他のその帳簿の種類に応じた主要な記載項目
  2. ②日付または金額の範囲指定により検索できること
  3. ③2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件で検索できること

 
事業者にとっては、かなりハードルの高い要件だったのですが、改正後は、検索項目について①の「その帳簿の種類に応じた主要な記載項目」は不要とされ、「取引年月日」「取引金額」「取引先」のみでOKになりました。また、税務職員による質問調査権に基づくダウンロードの求めに応じる場合には、②③の検索機能も不要になります。

(2)スキャナ保存について

  • ●税務署長の事前承認制度の廃止(同上)
  • ●「検索要件」の緩和(同上)
  • ●「タイムスタンプ要件」の緩和

 
「スキャナ保存」や次の「電子取引」では、電子保存されたデータに関して編集や改ざんの事実がないことや、後付けで作成されたものではないことを証明するために「タイムスタンプの付与」が要件とされています。この要件が、以下のように緩和されました。

  • ・タイムスタンプの付与期間が、記録事項の入力期間と同様、最長約2ヵ月と概ね7営業日以内とされました。
  • ・受領者等がスキャナで読み取る際の国税関係書類への自署が不要になりました。
  • ・電磁的記録について訂正または削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認することができるクラウド等において、入力期間内にその電磁的記録の保存を行ったことを確認することができるときは、タイムスタンプ自体不要とされました。

 
●不正に対するペナルティ強化
一方、保存が行われた電子データに関連した不正が発覚した場合のペナルティが強化されました。データに関する隠蔽、仮装の事実があったときには、それによって生じた申告漏れなどに課される重加算税が10%加重されます。

(3)電子取引データ保存について

  • ●「検索要件」の緩和(同上)
  • ●「タイムスタンプ要件」の緩和(同上)
  • ●不正に対するペナルティ強化(同上)

電子取引に対する23年の改正点

電子取引データの保存に関して、23年税制改正で、主に次のような見直しが行われました(2024年1月1日以後に行う電子取引で適用)。
 

■検索機能のすべてを不要とする対象者の見直し

税務調査の際に、上記の「検索要件」がすべて不要となる対象者が、次のように見直されました。

  • ・判定期間の売上高が5,000万円以下(改正前は1,000万円以下)であれば、検索要件は不要となりました。
  • ・電子取引を書面出力している人が、取引年月日、取引先などで整理された状態で提示することができる場合には、検索要件は不要となりました。

■2年間の「宥恕措置」の廃止と「猶予措置」の新設

説明したように、23年12月31日までは、電子取引であっても出力書面の保存をもって電子データの保存に代えることができます。この現行の「宥恕措置」は、23年12月31日で廃止されます。
 
同時に、23年税制改正大綱には、要件に従って保存をすることができなかったことについて相当の理由がある保存義務者に対する「猶予措置」として、次のような内容が盛り込まれました。
 
次のイ・ロの要件をいずれも満たしている場合には、改ざん防⽌や検索機能など保存時に満たすべき要件に沿った対応は不要となり、電子取引データを単に保存しておくことができる。

  • イ)保存時に満たすべき要件に従って電子取引データを保存することができなかったことについて、所轄税務署⻑が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要)
  • ロ)税務調査等の際に、電子取引データの「ダウンロードの求め」及びその電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合

電子取引における電子データの保存義務はあるものの、引き続き「書面」による保存は認められることになります。

23年税制改正に伴う電子帳簿等保存制度の見直しの概要については「電子帳簿保存法の内容が改正されました」【国税庁】

顧問先への対応のポイント、注意点

以上を踏まえて、顧問先をどのようにサポートすべきなのかを考えてみます。

電子化のメリットを確認する

「電子取引のデータ保存の義務化」という話が強調されたこともあり、特に小規模事業者や個人事業者には、改正電帳法への対応が単純に「重荷」と受け取られがちです。ただ、冒頭で述べたように、会計、税務関連書類の電子化は、省スペース、業務効率化、さらにはそれらに伴う人件費などのコストダウンといったメリットをもたらします。法改正への対応は、遅れていた電子化を進めるチャンスでもあることを認識してもらうことが重要です。
 
いうまでもないことですが、顧問先の電子化が進めば、やり取りする会計事務所の業務効率化にもつながるはずです。
 

どこまで電子化するか、目標を明確にする

一般論でいえば、電子化の目標は、一気にすべてを電子保存に持っていくのか、紙からの転換が難しい部分はとりあえずそのままにして、電子保存+紙で進めるのか、に大別されます。後者の場合には、電子化を目指す書類の範囲を具体的にしなくてはなりません。
 
23年税制改正で「電子取引」のデータ保存に関して新たな方針が示されるまで、この部分は否応なく要件を満たす電子化が必要でしたが、状況は変わりました。それも踏まえて、電子保存を目指す領域を明確に定める必要があります。

目的にかなうシステムを選ぶ

単に電子化のシステムを導入すれば、そうしたメリットを享受できるというわけではありません。それぞれの事業規模や内容に即したシステム化が図れるよう、必要に応じてアドバイスを行うようにしましょう。当然のことながら、改正電帳法で求められる要件を満たすものであることが必要です。

業務フローも変わる

新たなシステムを導入し電子化すれば、それに伴って業務フローも変わります。事業者自身はもとより、従業員が変化に対応できなければ、効率化も実現できないことには、注意が必要です。
 
顧問先には、十分そのことを説明し、実現可能な目標設定、最適なシステムの導入をフォローしましょう。

「電子取引」のデータ保存は、「紙でもOK」になったが

22年施行の改正電帳法は、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」は任意(希望者)であるのに対し、「電子取引のデータ保存」は義務とされました。しかし、23年税制改正で、電子取引に関する「宥恕措置」が実質的に延長される、つまり義務ではなくなったことは、説明した通りです。さまざまな事情で紙からの移行に問題を抱えていた事業者にとっては、朗報といえるでしょう。
 
ただし、この件に限らず、税制は頻繁に変わります。今後、再び要件に沿ったデータ保存の義務化が打ち出される可能性は否定できません。大きな流れが「書面の電子化」にあることを忘れず、その実現に向けて継続的に顧問先をサポートすべきでしょう。

記帳を請け負う場合の注意点

顧客から帳簿付け(記帳)を受託することは多いはずです。その際、例えば会計期間終了後にまとめて資料を受け取り、帳簿の入力を電子帳簿保存法に対応した会計システムで行ったとしても、電子保存とは認められません。わざわざ国税庁の「電子帳簿保存法一問一答」に取り上げられていますから、注意が必要です(「電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係」問20)。
 
その【解説】には、次のように述べられています。

  • ・国税関係帳簿は、原則として課税期間の開始の日にこれを備え付け、取引内容をこれに順次記録し、その上で保存を開始するものですから、備付期間中は、書面で作成する場合は当該書面をその保存場所に備え付け、また、電磁的記録で作成する場合は当該電磁的記録をその保存場所に備え付けているディスプレイの画面及び書面に出力することができるようにしておく必要があります。
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  • ・保存場所については、所得税法等の各税法で定められているものであり、記帳代行業者の所在地を保存場所にすることは認められません。このため、記帳代行業者等に委託する場合であっても、保存義務者の事業所等の所在地等、所得税法等の各税法で定められている保存場所に、国税関係帳簿に係る電磁的記録を出力することができる電子計算機やディスプレイ等を備え付けておく必要があります。

この点は、あらためてクライアントに確認し、遵守するようにアドバイスしましょう。

まとめ

改正電子帳簿保存法が、2024年1月から本格的に適用になります。顧問先には、そのメリットや注意点などをしっかり説明しながら、必要なサポートを行うようにしましょう。

この記事の執筆者
税理士紹介センタービスカス編集部
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