「アパート経営を始めたい」「不動産投資を考えている」「持っていた不動産を売ったのだけど、申告は?」――。こんなときには、税理士のサポートが欠かせません。ただし、同じ税理士でも不動産に詳しいプロと、そうとは言えない場合のあることには、注意が必要です。不動産に強い税理士を選ぶメリット、その探し方を解説します。
目 次
幅広い専門知識が要求される「不動産の税金」
不動産は、売買にせよ投資にせよ、「大きなお金」が動きます。当然、そこにかかってくる税金も、高額になりがち。しかも、不動産特有のものも含めて、さまざまな税が関係してくるのも、その特徴と言えるでしょう。
主なものを列挙してみます。
不動産を取得するとき
〈購入・新築の場合〉
- 所得税
- 住民税
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 印紙税
- 固定資産税・都市計画税
- 消費税
〈贈与の場合〉
- 贈与税
- 登録免許税
- 不動産取得税
〈相続の場合〉
- 相続税
- 登録免許税
不動産を保有しているとき
- 固定資産税・都市計画税
- 所得税(賃貸時)
- 住民税(賃貸時)
不動産を譲渡(売却)したとき
- 所得税
- 住民税
- 印紙税
- 消費税
不動産投資をしたとき
〈アパートなどの不動産購入時〉
- 不動産取得税
- 印紙税
- 登録免許税
〈管理・運営時〉
- 固定資産税・都市計画税
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 消費税
〈売却時〉
- 所得税
- 住民税
- 印紙税
- 消費税
申告を正しく行わなかった場合にはペナルティがある
注意すべきことは、上記のうち、不動産を売却して「譲渡所得」があった場合には、サラリーマンでも自ら確定申告を行い、納税する必要があることです。「譲渡所得」というのは、譲渡価格(売却額)から、取得費(購入額)と仲介手数料などの譲渡費用を差し引いた金額です。そのため、例えば不動産の売却額が購入額よりも低ければ、所得はマイナスとなり、申告の必要はありません。
一方、譲渡所得が発生し、確定申告の必要があるのにしなかったら、どうなるのでしょうか? 所得税に限らず、そのような税金の「申告漏れ」が発覚した場合には、次のようなペナルティが課せられることになっています。
無申告加算税
申告しなくてはならない所得があるにもかかわらず、所定の申告期限を過ぎてもそれをしない状態を「無申告」と言います。その場合には、原則として本税(本来納めるべきであった税額)に対して50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の割合を乗じた金額が、本来の税額に加算されます。
重加算税
多額の譲渡所得を故意に隠そうとしたりしたような場合(悪質な隠蔽)には、さらに重い「重加算税」の対象になる可能性があります。税率は、ケースにより本税に対して35%ないし40%となっています。
延滞税
これらとは別に、確定申告(納付)の期限を過ぎて納税した場合には、超過日数分の「延滞税」、いわば利息を支払わなくてはなりません。税額は、本税に対して納税期限から2ヵ月は約7%、2ヵ月以降は約14%で計算されます。
売却の金額に比例してペナルティの税金も高くなる
最初に「不動産にかかる税金は高額になりがち」と言いましたが、それだけに、万一そうしたペナルティが課せられた場合の出費も、非常に大きなものになります。当然のことながら、「申告しなかった所得」が大きいほど、一定の税率を掛けて算出される加算税や延滞税の金額も上がっていきます。事業を行っている場合には、その継続に影響を与えるようなこともあり得ますから、「正しい申告」を心掛ける必要があるのです。
なお、不動産の売却を行なった際には、法務局で所有権移転登記を行いますが、その記録はすべて税務署に通知されています。不動産の売買は隠せません。
課税だけでなく、減税措置も一緒に考える
「不動産と税金」という切り口からみると、考えるべきことは「課税」だけではありません。保有している建物を耐震や省エネを目的に改修したときには、さまざまな税の減額措置などが受けられます。
また、居住用の不動産を譲渡すると、その所得から3000万円を控除して(差し引いて)もらえるという特例があります。今挙げたのはほんの一例で、こうした税金の減免措置も、数多く用意されているのです。
加えて、これらにかかわる税法は、毎年のように変わります。幅広く、かつ最新の知識を備えているかどうかで、「不動産にかかる税の取られ方」には、大きな差が出ることになります。
税理士の中でも「不動産に詳しい税理士」を選ぶのがおすすめ
そこで頼りになるのが、税金のプロである税理士。そのサポートを受けることで、素人の知識では困難な節税の可能性が広がります。特例などに気付かず、みすみす高額な税金を支払っていた、というような失敗も防げるはずです。
しかし、気を付けなければならないのは、税理士の資格を持っていても、みんなが「不動産の税」に詳しいわけではない、ということ。税理士にも、得意分野があります。一般的には、法人税や個人の所得税をメインとする事務所が多数で、固定資産税や相続税といった資産税関連に強い税理士は限られる、と理解してください。
どんな税理士を選ぶべき?任せるメリットとは?
では、「不動産に強い税理士」とは、どのような税理士なのか? あらためて整理してみます。
資産税に詳しい
先ほども述べましたが、資産税関連というのは、税の世界ではやや特殊な領域だと言えます。そこをしっかり勉強して、専門知識を持っているというのは、不動産案件を依頼する際の「必要条件」になります。
不動産関連を専門にしている
「特殊領域」だけに、他の分野との“かけもち”は難しい面があります。「不動産専門」を掲げる税理士は、選択肢に加えていいでしょう。
経験、実績を持っている
知識と同時に、実績も大事です。どのような案件をどれくらい担当してきたのかは、選択の際の基準の1つになるでしょう。税理士の中には、自ら不動産投資を行っている人もいます。その生きた経験を生かしてもらうことには、大きなメリットがあるはずです。
「自分の依頼したいこと・やりたいこと」に実績がある
ひとくちに不動産と言っても、例えば売買と投資を行う場合とでは、対象となる税金は違ってきます。仮にアパート経営を考えるのであれば、それに実績、定評のある税理士を選ぶのがベストと言えるでしょう。
税制の最新情報にアンテナを張っている
不動産も、「社会的存在」です。例えば、耐震、省エネ建築に対するニーズが高まったり、「空き家対策」が強く意識されたりします。そのような社会、経済情勢も反映して、関連する税制も頻繁に改定されているわけです。そうした情報に対して敏感であることも、不動産に強い税理士の大事な要件だと言えるでしょう。
確定申告が格段に楽になる
さきほど説明した譲渡所得の確定申告を行うためには、取得費を証明する売買契約書など数多くの書類を揃えるのと同時に、経費として認められる売却時の不動産仲介料、印紙代、測量代などを細かく調べる必要があります(そうしないと、納税額が膨らみます)。加えて、建物に関しては、「減価償却費」の計算といった作業も必要になります。自分で申告を行うのは、かなりハードルが高いと考えてください。
苦労して申告を行っても、やり方を「間違える」と、税理士費用をはるかに超える「損」をする可能性があります。例えば、親が買った不動産の購入額がわからなくなってしまった、などということは珍しくありません。そのようなときには、取得費に「売却額×5%」の「概算取得費」を当てはめて計算することができるのですが、この方法だと譲渡所得は非常に高額になる公算大。そうした事態への対処法も、不動産取引に強い税理士は持っています。
ただし、「安さ」のアピールには要注意
誰しも、税理士に支払う報酬をできるだけ抑えたいと考えます。しかし、低価格で差別化しようという姿勢の税理士には(不動産に限らずですが)注意が必要です。「安かろう悪かろう」で肝心の節税策がおざなりなものだったら、元も子もありません。
以上のようなポイントを踏まえて「本当に不動産に強い税理士」を選ぶことができれば、節税その他で、メリットが期待できるでしょう。
税理士に依頼するデメリットは?
あえて税理士に頼むデメリット、リスクを挙げれば、
- コストが発生する
- 万が一「専門外」の税理士だった場合、コストがかかったうえに、節税効果もなかった
ということになります。税理士は慎重に選ぶことをおすすめしたいです。
どうやって選ぶ?
最後に、具体的にどのようにして探したらいいのか、代表的な方法を各々のメリットとデメリットとともにまとめておきましょう。
ホームページを検索する
メリット:手軽に情報にアクセスでき、事務所の強み、料金などもわかる
デメリット:実際に会ってみたら様子が違う、ということがありうる
知人の紹介を受ける
メリット:実績や仕事の中身などが具体的にわかり、安心できる
デメリット:問題があったときに、断りにくい
税理士紹介会社を使う
メリット:登録している多くの税理士の中から、客観的な目で適する人を選んでもらえる
デメリット:不十分な紹介の仕方をするところもある
不動産業に詳しい税理士をお探しの方へ
不動産に関わる税金は、多種多様。専門知識や経験のある税理士のサポートを受けることが重要です。ホームページ検索や、実績のある税理士紹介会社の活用で、間違いのない税理士選びをしましょう。