事業承継で何も対策をしないまま相続が発生すれば、後継者に数千万円から億単位の税負担がのしかかります。税理士に相談することで、事業承継税制の活用や計画的な株式移転により、税負担を大幅に軽減できます。税理士費用は依頼する業務の範囲により数十万円から数百万円程度、M&Aなど複雑なスキームでは総額1,000万円を超えることもあります。この記事では、税理士に依頼できる業務内容と支援の進め方、業務別の費用相場、事業承継に強い税理士の選び方まで解説します。
税理士に依頼できる事業承継の業務とは?
税理士は自社株の評価、相続税・贈与税対策、承継方法の選定、資金調達の支援など、事業承継に関する幅広い業務を担います。税務・財務の専門家として経営者の意思決定を支援し、円滑な事業承継を実現します。
自社株式の評価
事業承継では自社株式の適正な評価が出発点となります。
税理士は類似業種比準方式や純資産価額方式など、会社の規模や業種に応じた評価方法を用いて株価を算定します。この評価額が相続税・贈与税の計算基準となるため、評価方法の選択や評価額の引き下げ対策も含めて助言します。
相続税・贈与税対策の立案
後継者への株式移転では多額の税負担が生じる可能性があります。
税理士は暦年贈与や相続時精算課税制度の活用、生命保険を使った納税資金の確保など、具体的な節税スキームを提案します。事業承継税制を活用すれば相続税・贈与税の納税が100%猶予されるため、適用要件の判定や申請手続きのサポートも重要な業務です。
承継方法の選定と実行支援
親族内承継、従業員承継、M&Aのいずれが適しているかは、会社の状況や経営者の意向により異なります。
税理士は各手法の税務上のメリット・デメリットを示し、最適な承継方法の選定を支援します。親族外承継ではMBOの株価算定や金融支援の申請サポート、M&Aでは税務デューデリジェンスや組織再編に伴う税務処理など、実行段階での具体的なサポートも行います。後継者が決まっていない場合は、日本税理士会連合会が運営する後継者マッチング支援システム「担い手探しナビ」を税理士経由で利用できる場合もあります。
株式分散の防止と集約
相続により株式が分散すると経営の安定性が損なわれます。
税理士は種類株式の発行や議決権制限株式の活用、他の相続人への代償分割の設計など、後継者が経営権を確保できる株式承継プランを策定します。すでに分散している場合は、株式の買取りや属人的株式の導入といった集約策も提案します。
資金調達と財務面のアドバイス
後継者が株式を取得する際の資金調達は大きな課題です。
税理士は経営承継円滑化法に基づく融資制度の活用や、従業員持株会の設計、金融機関との交渉資料の作成など、資金面での支援を提供します。売却による事業承継では、譲渡所得税の試算や代表者の退職金設計も含めて総合的にアドバイスします。
税理士による事業承継支援の進め方
税理士の事業承継支援は、現状分析から承継プランの実行、承継後のフォローまで5つのステップで進みます。承継に伴う税額の計算と節税対策の立案は税理士の独占業務であり、実際に中小企業庁の調査では、事業承継を行った企業の7割以上が税理士・公認会計士に相談しています。
ステップ1 現状分析と意向のヒアリング
最初に、会社の財務状況、自社株の保有比率、後継者の有無、承継の希望時期などを確認します。
決算書を日常的に扱う税理士は、会社の現状を数字で正確に把握できます。現経営者だけでなく後継者の意向もこの段階で整理しておくと、後のプラン策定がスムーズに進みます。
ステップ2 自社株評価と税負担のシミュレーション
現時点の自社株を評価し、承継した場合の贈与税・相続税を試算します。
税額の計算と節税対策の立案は税理士の独占業務であり、金融機関や商工会議所など他の相談先に依頼しても、最終的には税理士が担う部分です。評価額が今後どう変動するかのシミュレーションも行い、対策の方向性を定めます。
ステップ3 承継プランの策定と提案
ヒアリングと試算をもとに、株式の移転方法、時期、節税策を盛り込んだ承継プランを策定します。
役員退職金の支給による株価引き下げや、暦年贈与の計画的な実行、事業承継税制の適用可否など、会社の状況に応じた具体策を組み合わせて提案します。
ステップ4 プランの実行と定期的な見直し
策定したプランに沿って、株式移転や事業承継税制の認定申請などを実行します。
事業承継は数年がかりのプロセスです。税制改正や業績の変化に応じてプランを修正する必要があるため、定期的な面談で進捗を管理しながら進めます。
ステップ5 承継後のアフターフォロー
株式移転後も、相続税・贈与税の申告、税務調査への対応、新体制での税務顧問など、税理士のフォローは続きます。
承継を担当した税理士が税務調査に立ち会えば、評価方法や評価額の根拠を税務署に直接説明でき、追徴リスクを抑えられます。
相談のタイミングは承継の5年前が目安
税理士への相談は、承継を予定する時期の5年前までに始めてください。
役員退職金による株価引き下げは決算を経て初めて効果が確定するなど、多くの対策は実行から効果まで時間がかかります。直前の相談でも承継自体は可能ですが、取れる対策の選択肢は大きく狭まります。

小田根 大輔
監修税理士からのワンポイントアドバイス
経営者の方が事業承継を進めるにあたって意識するポイントは出来るだけ早く専門家に相談することです。満足な事業承継を成し遂げるには、後継者育成、株式対策、事業承継税制の活用など、多くの準備が必要となり、時間を要する場合が多いです(一般的に5〜10年と言われています)。早期に事業承継を検討することで、打てる対策も多くなり、スムーズな事業承継を実現することが可能となります。
また、何よりも大事なことは、経営者自身と後継者の『想い』だと考えられます。事業承継とは単なる財産の移転ではなく、経営者の想い(事業の継続、従業員の雇用を守る、取引先その他地域経済への貢献、これまでの経営の対価を得る、など。)を次世代に託すプロセスです。
事業承継には親族内承継、親族外承継、M&Aを活用した承継など様々な方法がありますが、それぞれの方法にメリット・デメリットがあり、会社の規模・業種、経営状況、後継者の有無などにより最適な方法は異なります。
そのためにも早期に事業承継に着手して、専門家に相談し、あなたの『想い』を実現するための最適な事業承継プランを検討されることをお勧めいたします。また、無料相談やセミナーなども活用して、情報収集をすることも肝要であると思います。
税理士に事業承継を依頼した場合の費用相場
税理士報酬は顧問料に加えて業務ごとに発生し、親族内承継など標準的なケースで数十万円から数百万円程度、M&Aや組織再編を伴う複雑なスキームでは総額1,000万円を超えることもあります。金額は会社の規模と依頼範囲で大きく変わるため、依頼前の見積もり確認が不可欠です。
報酬体系の仕組み
税理士報酬は、顧問契約による月次報酬に加えて、事業承継計画の策定や株式評価、税務申告書の作成など、個別業務ごとに発生するケースが一般的です。M&A仲介会社のような「完全成功報酬制」ではない点に留意してください。
業務別の費用相場
依頼する業務の範囲によって費用は大きく変わります。主な業務ごとの目安は以下のとおりです。
| 業務内容 | 費用の目安 |
|---|---|
| 自社株式の評価(株価算定) | 10万〜50万円程度 |
| 事業承継計画の策定・コンサルティング | 50万〜200万円程度 |
| 事業承継税制の認定申請サポート | 30万〜100万円程度 |
| 贈与税・相続税の申告 | 財産総額の0.5〜1%程度 |
| M&A・組織再編を伴う承継 | 総額数百万〜1,000万円超 |
金額は会社の規模、子会社の有無、財産の構成によって変動します。複数の業務をまとめて依頼する場合はパッケージ料金が設定されていることもあるため、報酬の内訳を確認してください。
補助金による費用軽減
M&Aを伴う承継では、国の事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)により、仲介手数料やデューデリジェンス費用など専門家への支払いの一部が補助される場合があります。公募期間や対象要件は年度ごとに変わるため、申請前に中小企業庁の最新情報を確認してください。
費用対効果の考え方
事業承継では、節税対策や株式の適正評価が将来的なコスト削減に直結します。税理士費用は短期的には大きな出費に感じるかもしれませんが、長期的な節税メリットやトラブル回避を考慮すると十分に投資価値があるといえます。
見積もり・相談の重要性
具体的な費用は、税理士との事前面談や見積もりによって確認することが不可欠です。最初にしっかり相談しておくことで、「いつ、どの程度の費用が発生するのか」を把握でき、承継プロセス全体の計画が立てやすくなります。
事業承継に強い税理士選びのポイント
税理士にはそれぞれ専門分野があり、顧問税理士の多くは法人税を専門としています。事業承継を任せる税理士は、相続税・資産税の実務経験、事業承継税制の申請・管理実績、報酬基準の明確さ、他の専門家との連携体制の4点を確認して選んでください。
相続税・資産税の実務経験を確認する
事業承継では経営者個人の相続が絡むため、法人税だけでなく相続税・資産税の実務経験が不可欠です。
自社株の財産評価、不動産の評価減、生命保険を使った納税資金対策など、資産税の実務経験がなければ適切な対策は立案できません。相続税申告や事業承継支援の実績件数を、ホームページや面談の場で確認してください。
事業承継税制の申請・管理実績があるか
事業承継税制は贈与税・相続税の納税が100%猶予される制度ですが、税の「猶予」であって「免除」ではなく、適用後も5年間の事業継続要件や雇用確保要件を満たし続ける必要があります。要件を外れれば猶予された税額に加えて利子税の納付が生じるため、認定申請の経験だけでなく、適用後の継続管理まで対応した実績のある税理士を選んでください。
報酬基準が明確であるか
事業承継の報酬は高額になりやすいため、報酬の内訳と加算条件が明確な税理士を選んでください。
最終的にいくらかかるのか分からない状態では、数年に及ぶ承継プロセスを安心して任せられません。初回面談で見積もりと追加報酬の発生条件を書面で確認することが、後のトラブル防止につながります。
他の専門家との連携体制があるか
株式譲渡契約書の作成は弁護士、登記は司法書士、M&Aは仲介会社と、事業承継には税務以外の専門家が関わります。
税理士が窓口となって各専門家と連携できる体制があれば、経営者が個別に専門家を探す手間が省け、承継をスピーディーに進められます。連携先の有無は依頼前に確認してください。
事業承継を相談できる税理士はどう見分ける?

小田根 大輔
監修税理士からのワンポイントアドバイス
税理士も、医師や弁護士と同じようにそれぞれ得意・不得意とする分野があります。事業承継を相談するにあたり、その税理士が事業承継を専門としているのか、事業承継業務を行った経験があるのかをホームページや相談の場で次のことを確認されるとよろしいかと存じます。
・何件ほど事業承継を支援したことがあるのか?
・どのような規模、業種の会社の事業承継を支援したのか?
・最近手がけた事業承継の事例について?
事業承継を得意としている場合でも、その税理士が固執する手法ではなく、経営者・後継者の『想い』を実現するような方法を提案する税理士に相談されることをお勧めいたします。そのためにも本文に記載されている、専門的知識とコンサルティング能力、コミュニケーションとマネジメント力があるのかに注目しましょう。
また、事業承継には司法書士・弁護士といった法律家と連携する場面(株式譲渡、登記関係、遺言書の作成など)が多々ありますので、専門家ネットワークがあることも相談するにあたって確認されることをお勧めいたします。
事業承継で税理士をお探しの方へ
事業承継では自社株の評価、相続税・贈与税対策、承継方法の選定など、専門的な知識と長期的な計画が不可欠です。
事業承継税制を活用すれば税負担を大幅に軽減できますが、適用要件は複雑で、相続税・資産税の実務経験を持つ税理士でなければ適切なサポートはできません。費用は依頼範囲により数十万円から数百万円程度が目安ですが、対策は早く始めるほど選択肢が広がり、費用を上回る節税効果が期待できます。
事業承継に不安を感じたら、まずは実績豊富な税理士に相談することをおすすめします。
よくある質問
事業承継を税理士に依頼した場合の費用はいくらかかりますか?
会社の規模や依頼範囲により数十万円から数百万円程度が目安です。M&Aや組織再編を伴う複雑なスキームでは総額1,000万円を超えることもあるため、初回面談で見積もりを確認してください。
顧問税理士とは別に、事業承継だけを他の税理士に依頼できますか?
可能です。事業承継はスポット業務として依頼でき、顧問契約を変更する必要はありません。顧問税理士が法人税専門の場合は、事業承継に強い税理士への併行依頼が有効です。
税理士にはいつ相談すべきですか?
承継を予定する時期の5年前が目安です。株価引き下げ対策や計画的な贈与など、早く着手するほど取れる対策の選択肢が広がります。
事業承継に強い税理士を選ぶメリットは何ですか?
事業承継に強い税理士を選ぶことで、自社株の評価や相続税対策など、専門的なアドバイスを受けることができ、スムーズな事業承継が実現できます。
事業承継において税理士の役割は何ですか?
税理士は、事業承継における税務対策や自社株の評価、相続税・贈与税のシミュレーションなど、税務に関する業務を中心にサポートします。
