独立して個人事業主になった。医療費控除や住宅ローン控除を受けたい――。そういう場合には、所得税の確定申告が必要になります。「それはわかっているけれど、具体的に何を準備して、どのように申告すべきなのかがよく分からない」そんなときには、どこに質問・相談したらいいのでしょうか?
今回は確定申告で分からないことがある場合に質問・相談できる相手と、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
2025年(令和6年分)の確定申告期間は2025年2月17日(月)~2025年3月17日(月)です。
確定申告の“分からない”の相談先の王道は、税務署か税理士
税金と聞いてまず思い浮かぶのは、税務署と税理士ではないでしょうか。
ただ、この両者には、基本的には
- 税務署は無料で申告の方法を教えてくれるが、個々に応じた節税のアドバイスまでは期待できない
- 税理士に依頼すると料金がかかるが、節税対策などを考えてくれる
- 税理士には、“質問や相談だけ”には対応していないことが多い(顧問契約やスポット契約など、税理士と契約することが前提)
という違いがあることを、最初に理解しておきましょう。
税務署に相談する場合
税務署では、納税者が正しい申告を行えるよう、税務相談の窓口を開設しています。確定申告の時期には特設の相談コーナーも設けられますから、分からない場合はまず管轄の税務署に電話して問い合わせてみましょう。
なお、具体的な書類や事実内容を確認する必要がある場合などは、個別面談による相談対応を通年で行っていますが、事前予約制ですので早めに問い合わせしましょう。
また、税務署に出向かなくても、国税局電話相談センターで質問に答えてもらうこともできます。聞きたいことが限られている場合などには、まずこちらを利用してみるのがいいかもしれません。ただ、確定申告が近づくと、込み合ってつながりにくくなることも予想されますので注意が必要です。
税務署を利用するメリットは、なんといっても無料で相談に応じてもらえることです。ただし、原則として法的・形式面の対応にとどまる点は、了解しておく必要があります。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 税務署には無料で相談することができますが、込み入った相談は事前予約制となります。また、質問内容によっては回答できないことも多く、本人に代わって申告書を作成してくれるわけではないことに注意が必要です。
- フジハラ税理士社労士事務所
代表 藤原宗和
売上規模がそんなに大きくなく、事業内容も単純なケースの事業主の場合は、税務署での相談が適していると言えます。
税理士に相談する場合
税理士に相談するメリットは、例えば「この領収書は、経費で落とせますか?」といった個別具体的な質問にもていねいに答えてくれて、正しい申告をしながら、個々の事情に応じた節税のアドバイスももらえることです。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 実は同じ“正しい申告”でも、経費計上のやり方などによって、支払う税額に差が出るのは珍しいことではありません。売上が大きく、経理で迷う事柄が多い場合などには、顧問契約をして税務のプロの知恵を借りるのがいいかもしれません。なお、顧問契約時において申告書は税理士が作成のうえ申告代行することとなります。
- フジハラ税理士社労士事務所
代表 藤原宗和
実は同じ“正しい申告”でも、経費計上のやり方などによって、支払う税額に差が出るのは珍しいことではありません。
売上が大きく、経理で迷う事柄が多い場合などには、顧問契約をして税務のプロの知恵を借りるのがいいかもしれません。正確な帳簿付けなどが求められる「青色申告」(※)を選択している場合にも、税理士のサポートを受けるのがおすすめです。税理士に依頼することで、面倒くさい税務申告を、“丸投げ”で任せてしまうこともできます。
しかし、税務署での無料相談とは異なり、貢献度に応じたコストが発生するため、「費用対効果」をしっかり見極める必要があるでしょう。
さらに、税理士も確定申告の時期は多忙のため、確定申告に関する質問や相談は申告時期までに余裕を持って行うようにするのが、上手な相談の仕方です。
他にもある「相談窓口」
これ以外にも、自治体の窓口や税理士会主催の相談会などで、確定申告の相談を受け付けています。必要に応じて利用してみるのも良いでしょう。
地元の市役所に相談する
確定申告の時期になると、地元の市役所でも相談を受け付けています。税務署と同じく公共の機関なので、お金もかかりません。身近にある市役所なら、税務署が遠い場合にも便利です。
ただし市役所の相談では、青色申告の確定申告には対応できない可能性がある点に注意してください。身近とは言えせっかく出向くのですから、求めている回答が得られるか事前に確認しておくことをおすすめします。またより的確な回答をもらえるよう、市役所には必要書類を準備してから行きましょう。わからない箇所の回答をもらえる可能性が高くなります。市役所の相談会は、ホームページや広報で案内されます。ただし、事前予約制度であってもその予約枠がすぐに埋まってしまうような市役所もありますので、こまめにチェックしてみてください。
税理士会などの相談会を利用する
お祭りなどの機会や税を考える週間(11月中旬)、確定申告シーズンには駅や商業施設などで、税理士会が相談会を開くこともあります。無料で税理士が対応してくれますが、お金を出して依頼・契約するのとは違い、時間も限られておりますため、個別具体的な質問にすべて答えてくれるというわけにはいきません。
このほか、青色申告会・商工会議所・商工会などの団体が、無料で申告の相談に乗ってくれます。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 青色申告会・商工会議所・商工会への相談は、例えば会員のみが相談可能であるなど対象者が限定されていることもあるため、自分が該当するのか、あるいは相談内容に対応してもらえそうかどうかは、事前に確認しておいた方がいいでしょう。
- フジハラ税理士社労士事務所
代表 藤原宗和
インターネットの窓口を利用する
国税庁の公式ページで、ホームページ「税についての相談窓口」に、「タックスアンサー(よくある税の質問)」を掲載しているほか、「税務相談チャットボット(ふたば)」を設けており、土日、夜間でも質問に答えてもらえます。実際に税務署に質問に向かう前にこちらのサービスを利用して、分からないことへの回答があるかを確認するのもおすすめです。
確定申告の対象者は?
確定申告は要件に当てはまる人だけが行います。確定申告をする必要がある人と必要がない人について見ていきましょう。
確定申告をする必要のある人
確定申告をする必要がある人は原則、納める税金がある人です。個人事業主や副業をしている会社員などで納める税金がある人、そのほか給与の収入金額が2,000万円を超える方は、確定申告をする必要があります。
ちなみに、個人事業主が青色申告特別控除を受けるためには、確定申告をする必要があります。そのため青色申告特別控除を受けた結果、納める税金がなくなる場合であっても確定申告が必要です。
一方、税金の還付を受ける場合も確定申告を行います。会社員で医療費控除やふるさと納税による寄付金控除、住宅ローン控除(初年度)などを受ける場合、年末調整では控除ができないため、確定申告が必要です。
確定申告の必要がない人
確定申告をする必要がない人は原則、納める税金がない人です。個人事業主で赤字の場合や、黒字でも黒字よりも所得控除などが大きく納める税金がない場合は、確定申告をする必要がありません。
ただし、確定申告をしないと、青色申告における赤字の繰り越しや金融機関からの借入ができないなどのデメリットもあるので、一般的に個人事業主は納める税金がなくても確定申告をします。
会社員は副業など勤務先からの収入以外の収入がない場合は、勤務先で年末調整をするので確定申告をする必要はありません。また、副業をしている場合でも、次のようなケースでは確定申告は不要です。
- 1か所から給与の支払を受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得の金額の合計額(副業の所得)が20万円以下の人
- 副業がアルバイトやパートなどで、2か所以上から給与の支払を受けている人のうち、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合で、年末調整されなかった給与の収入金額と給与所得および退職所得以外の所得金額との合計額が20万円以下の人
そもそも確定申告のやり方が分からない方へ
ここからは、確定申告の基本のやり方について見ていきましょう。
個人事業主の確定申告のやり方について
個人事業主の確定申告の手順は、おおむね次の通りになります。
- 日々の帳簿付け
- 確定申告書類の準備
- 青色申告決算書または収支内訳書の作成
- 確定申告書の作成
①日々の帳簿付け
個人事業主が確定申告をするためには、1年間の売上や仕入、経費などの金額を計算する必要があります。そのためには、日々の取引を帳簿付けしておく必要があります。
②確定申告書類の準備
確定申告時期になると、確定申告書や保険料控除証明書などの必要書類を準備します。
③青色申告決算書または収支内訳書の作成
個人事業主は確定申告書の作成の前に、青色申告決算書(青色申告の場合)や収支内訳書(白色申告の場合)の作成をします。青色申告決算書や収支内訳書は、簡単にいうと帳簿から1年間の売上や仕入、経費を計算し税金を計算する前の所得金額を求めるための書類です。
④確定申告書の作成
最後に、青色申告決算書や収支内訳書、保険料控除証明書などを基に確定申告書を作成し、納める税金を求めます。
個人事業主の確定申告のやり方についてついては、次の記事もご参照ください。
会社員の確定申告のやり方について
会社員が確定申告をするケースには、様々なパターンがあります。例えば、医療費控除などで還付を受ける人や副業をしている人、株式や土地の譲渡がある人などです。どの所得があるのかで確定申告のやり方は異なりますが、ここでは医療費控除などで還付を受ける人や副業をしている人の場合で見ていきます。
医療費控除などで還付を受ける人や副業をしている人の場合の確定申告の手順は、おおむね次の通りになります。
- 確定申告書類の準備
- 確定申告書の作成
確定申告時期になると、確定申告書や源泉徴収票、保険料控除証明書などの必要書類を準備します。副業が事業所得でない限りは、個人事業主のように青色申告決算書や収支内訳書の作成は不要です。
最後に、源泉徴収票や保険料控除証明書、医療費の明細書などを基に確定申告書を作成し、納める税金もしくは還付される金額を求めます。
会社員の確定申告のやり方については、次の記事もご参照ください。
確定申告での必要書類について
確定申告に必要な書類として、主に次のものがあります。
- 確定申告書
- 青色申告決算書(青色申告の場合)や収支内訳書(白色申告の場合)
- 保険料控除証明書など控除に関する書類
- 源泉徴収票(給与所得がある場合)
- 支払調書(一定の職業の場合)
- その他状況に応じて必要な書類
確定申告書/青色申告決算書/収支内訳書
確定申告書や青色申告決算書・収支内訳書は、税務署の窓口や国税庁のホームページからダウンロードで入手することができます。
控除に関する書類
生命保険料や地震保険料などの控除証明書は、生命保険会社などから送付されてきます。
支払調書
フリーランスのライターやカメラマンなど一定の職業は、取引先から支払調書を受け取ることがあります。支払調書は個人事業主にとっての源泉徴収票のようなもので、確定申告書の作成に使います。
その他状況に応じて必要な書類
医療費の明細やふるさと納税による寄付金の受領書、住宅ローン関係の書類など、納税者の状況に応じて必要な書類があります。
確定申告をする上で必要な書類については、次の記事もご参照ください。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 確定申告のやり方が分からないときの相談相手には、税務署、税理士、自治体、税理士会などがあります。それぞれの特徴を把握したうえで、できるだけ申告までに余裕を持って連絡するようにしましょう。
各団体では確定申告時期(主に12月~3月まで)において、通年での無料相談以外に、確定申告のための無料相談会を開催しているところが多くあります。
そのような機会であればいつもよりも相談しやすいでしょう。
事業を始めたばかりの際は確定申告というゴールだけでなく、スタートの部分で提出すべき届出などが漏れなくなされているか?どういった届出が必要なのか?
後で取返しのつかないこととならないよう、そのような部分についてもよくわからない場合は積極的に相談しましょう。
なお、税理士事務所への確定申告の相談・依頼については、税理士業界では12月頃より繁忙期となることが一般的です。繁忙期に入ってからでは既にスケジュール的に対応できない事務所も多々ありますので、早め早めの相談を心掛けましょう。 - フジハラ税理士社労士事務所
代表 藤原宗和
確定申告で税理士をお探しの方へ
確定申告のやり方が分からないときの相談相手には、税務署、税理士、自治体、税理士会などがあります。それぞれの特徴を把握したうえで、できるだけ申告までに余裕を持って利用するようにしましょう。
確定申告 Q&A
Q:確定申告の相談を税理士に無料でしてもらえますか?
A:無料で税理士に相談することは可能です。例えば税理士事務所で無料相談を実施している場合があります。実施しているかは、サイトで確認するほかメールや電話で問い合わせてみてください。また、全国で活動する税理士を監督する機関の税理士会でも、登録している税理士による無料電話相談や会場での無料相談が行われています。
Q:確定申告の無料相談にデメリットはありますか?
A:無料相談の場合、時間や回数に限りがあるのがデメリットです。相談したい内容を全て解決できるとは限りません。また、無料相談では複雑な申告内容についての相談は回答が得られない場合があります。
Q:相談は確定申告の何カ月前までにした方が良いでしょうか?
A:確定申告の期限を過ぎてしまうと、控除される金額が小さくなるなどペナルティを課せられることがあります。余裕を持って準備するのがするのがおすすめです。税理士への相談も、期限の3〜4カ月くらい前から始めていくと良いでしょう。